第27話 返還と変換
『レオン式兵站法』
倉庫の壁に掛けられた文字を。
レオンはしばらく見ていた。
その元になった運用書には。
別の名前がある。
『作成者 ユリウス』
「これ」
レオンが倉庫の責任者を呼んだ。
「俺の名前、外せるか?」
「レオン式を、ですか?」
「ああ」
責任者が戸惑う。
「ですが、昔からこの名称で――」
「俺が作ってない」
レオンは運用書を渡した。
「こいつが作った」
責任者が表紙を見る。
「ユリウス……」
「その名前で残してくれ」
さらにレオンは。
中央局の職員にも言った。
「遠征記録も直せるところは直してくれ」
「よろしいのですか?」
「よくないから直すんだろ」
北門の撤退。
補給路の変更。
負傷者の移送。
レオンの功績として残っていたものを。
本来の名前へ返す。
それで。
少しは正しくなる。
俺はそう思った。
翌朝。
王都中央拾遺局へ行くと。
レオンが新聞を睨んでいた。
「読め」
渡された朝刊を開く。
見出し。
『英雄レオン、自ら過去の功績を訂正』
その下。
『忘れられた副官へ功績を返す』
俺は続きを読む。
ユリウスの名前もある。
北門の撤退。
補給路の変更。
兵站法。
ちゃんと書かれている。
でも。
記事の中心にいるのは。
またレオンだった。
『自らの名誉に固執せず、
真実を求めた英雄の姿勢に称賛の声』
さらに。
『さすがレオン様』
『本物の英雄だからこそできる』
街の声まで載っている。
レオンが机を指で叩いた。
「何でまた俺の話になってんだよ」
俺も新聞を見る。
ユリウスに。
功績を返した。
そのはずだった。
なのに。
返したことまで。
レオンの新しい功績になっている。
「……返したのに」
俺が言った。
レオンは笑った。
全然、楽しそうじゃなかった。
「なあ、アルト」
「はい」
「これ、どうすりゃいいんだ?」
分からない。
奪わなくても集まる。
返しても集まる。
24話で。
俺にも似たことが起きた。
違うと言っても。
説明しても。
結局。
分かりやすい名前が残った。
「存在値」
俺は言った。
「測ってみません?」
レオンが嫌そうな顔をした。
でも。
測定器に手を置いた。
表示された数字。
12,611。
俺は固まった。
前に見た時は。
12,438。
「……上がってる」
百七十三。
功績を返した。
その結果。
存在値は上がった。
レオンも数字を見たまま黙っている。
俺は朝刊へ目を戻した。
大きく書かれた。
『英雄レオン』
その下に。
小さく。
『ユリウス』
その時。
少し分かった。
ユリウスの功績が。
レオンに集まったから。
レオンが英雄になった。
それだけじゃない。
一度大きくなった名前には。
その後の出来事まで。
勝手に集まってくる。
功績を返しても。
返したことが。
また英雄の物語になる。
レオンが呟いた。
「……返したのにな」
測定器には。
12,611。
さっきより大きくなった英雄の数字が。
まだ表示されていた。




