第26話 レオン式
訂正申請には。
レオンの署名があった。
『上記三件について、申請者ユリウスの判断によるものであることを確認する』
「……俺の字だ」
レオンが言った。
昔のレオンは。
ユリウスを知っていた。
一緒に仕事をして。
その功績を認めて。
訂正のために署名までしていた。
それでも。
申請の結果は。
『訂正不要』
理由。
『部隊の功績は、指揮官の功績として記録する』
「終わり?」
俺が聞く。
中央局の職員が首を振った。
「いえ。このあとユリウスは、王都の兵站部門で五年間勤務しています」
そこから先は。
似たような記録が続いた。
物資配置。
避難経路。
輸送順。
倉庫管理。
派手な功績はない。
でも。
軍が動くために必要な仕事を。
ずっと続けていた。
そして五年後。
退職。
そこまで確認したところで。
セインが一枚の資料を見つけた。
「この倉庫、まだありますよ」
その日の午後。
俺たちは王都西側の軍用倉庫へ向かった。
今も使われている場所だった。
倉庫の中では。
食料や薬。
武器や毛布が。
決められた順番で並べられている。
案内してくれた職員が。
棚を指した。
「ここは全部、レオン式です」
「レオン式?」
俺より先に。
レオンが反応した。
職員は当然のように答える。
「はい。北境遠征の際、英雄レオン様が考案した方法です」
レオンが黙る。
棚を見る。
食料は期限順。
避難用の物資は出口側。
負傷者用の薬は、運び出す順番まで決まっている。
レオンが首を振った。
「……知らない」
職員が笑った。
「ご謙遜を」
「いや」
レオンの声が変わった。
「俺、こんなの考えてない」
俺とセインは顔を見合わせた。
倉庫に残されていた。
一番古い運用書を見せてもらう。
表紙。
『兵站物資配置手順』
作成者。
ユリウス。
俺はページをめくった。
今の倉庫と。
ほとんど同じだった。
十年以上。
ユリウスが考えた仕組みは残っている。
毎日。
何十人もの人間が使っている。
なのに。
その名前だけが。
レオン式。
「人だけじゃないのか」
俺は呟いた。
ユリウスがしたことまで。
少しずつ。
別の人間の名前に変わっている。
レオンが。
自分の名前がついた棚を見ていた。
英雄レオン。
存在値12,438。
あまりにも大きな名前。
その名前の下に。
誰かの仕事が。
今も普通に生きていた。




