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25話 訂正

翌朝。


俺とセインは、王都日報社にいた。



昨日の記事を訂正してもらうためだ。



新聞社の一階には、机と紙の束が並んでいる。


奥では何人もの人が、次の記事を書いていた。



俺たちの前に座った記者が。


昨日の新聞を机に置く。



『南門の若き拾遺師アルトが、

十年前の遠征記録から矛盾を発見』



見るたびに。


微妙な気分になる。



「まず、俺一人で見つけたわけじゃないです」


俺は言った。



「中央局が資料を集めて、セインも一緒に調べてます」


「はい」


記者がメモを取る。



「あと、これ」


俺は記事の途中を指した。



『英雄一人の功績として扱うべきではない』



「俺、こんなこと言ってません」


「発言そのものではなく、内容をまとめたものですね」


「俺と話してないですよね?」


「直接は」



直接じゃなければいいのか。



よく分からない。



「それと」


セインが口を挟む。



「一番大事なのは、レオン様が嘘をついていたわけではないことです」



昨日も。



『英雄の嘘を暴いた』



そう言われた。



でも違う。



レオン本人も。


自分がやっていない功績が混ざっていると知らなかった。



「では、訂正記事を出します」


記者が言った。



思ったより話は早かった。



俺は少し安心する。



その時。



後ろから声がした。



「俺の分も訂正してくれ」



振り返る。



レオンがいた。



「なんでいるんです?」


「俺の記事でもあるからだよ」



それはそうだった。



レオンは俺の横に座ると。


新聞を手に取った。



「俺が言いたいのは一つ」



記事を机へ戻す。



「ユリウスの名前を出してくれ」



記者の手が止まった。



「ユリウス?」


「北境遠征の副官だ」



記者は少し考える。



当然みたいに。



首をかしげた。



「……有名な方ですか?」



その一言で。



部屋が少し静かになった気がした。



レオンが答える。



「有名じゃないから、今こうなってるんだろ」



記者は慌てて資料を見る。



俺たちが持ってきた写し。



そこには。



『副官 ユリウス』



とはっきり書かれている。



「なるほど」



記者がまた筆を動かした。



「では、英雄レオンの功績の一部が、実際には副官ユリウスによるものだった、と」


「そうです」


俺が答える。



「あと、俺が返したみたいには書かないでください」


「返した?」


「功績を」



昨日の記事を考えると。


念のため言っておきたかった。



記者は少し笑った。



「そこまでは書きませんよ」


「本当に?」



信用が一日でだいぶ減っている。



しばらくして。



記者が訂正記事の下書きを見せてくれた。



見出し。



『若き拾遺師アルト、

英雄に隠された副官の功績を発見』



俺は黙った。



セインも黙った。



レオンが横から見る。



「……またアルトだな」


「また俺ですね」



記者を見る。



「ユリウスは?」


「本文に入っています」



確かに。



本文にはある。



副官ユリウス。



撤退。


補給。


負傷者の移送。



ちゃんと書かれている。



でも。



一番大きな文字は。



また。



俺だった。



「見出しにもユリウスを入れられません?」


俺が聞く。



記者は少し困った顔をした。



「読者が知らない名前だけだと、記事を読んでもらえないので」



俺は何も言えなかった。



知られていないから。



大きく書かれない。



大きく書かれないから。



もっと知られない。



昨日から感じていた気持ち悪さが。



少しだけ。



形になった。



レオンも何も言わなかった。



結局。



見出しにはユリウスの名前を追加してもらった。



小さかったけど。



それでも。



名前は残る。





新聞社を出る。



「これで終わりですかね」


俺が言うと。



セインが首を振った。



「いえ」



持っていた鞄から。



一枚の紙を出した。



「中央局から、今朝届きました」



北境遠征の人員記録。



ユリウス。



その名前の横に。



遠征終了後の記録が追加されている。



俺は読む。



「……王都に戻ってる?」



「はい」



ユリウスは。


北境遠征のあと。



少なくとも五年間。



王都で暮らしていた。



英雄の影にいた副官。



それだけじゃない。



遠征が終わったあとにも。



この人の人生は続いていた。



俺は紙を折る。



「調べよう」



功績じゃなく。



今度は。



ユリウス本人を。

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