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第24話 41

「……俺?」



新聞を持ったまま。


俺は、その一文をもう一度読んだ。



『南門の若き拾遺師アルトが、

十年前の遠征記録から矛盾を発見』



違う。



最初に昔の記録を集めたのは中央局だ。


北境の資料を調べたのも、俺一人じゃない。



セインもいた。


中央局の職員もいた。



それに。



見つかったのは俺の功績じゃない。



ユリウスの仕事だ。



「ずいぶん格好よく書かれてますね」



後ろからセインが新聞をのぞき込んだ。



「格好いいか?」


「若き拾遺師が英雄の功績に隠された真実を発見」


「やめろ」



続きを読む。



そして。



途中で手が止まった。



『アルト氏は、

「英雄一人の功績として扱うべきではない」

と語った』



「……何これ」



セインも記事を見る。



「どうしました?」


「俺、こんなこと言った?」



セインが少し考える。



「言ってないですね」


「だよな」



そもそも。



俺は新聞の人間と話していない。



なのに。



俺の言葉として書かれている。



内容自体は。


俺が考えていることと、そこまで違わない。



だから余計に。



気持ちが悪かった。



「誰から聞いたんだろ」


「中央局の誰かじゃないですか?」


「それで俺の発言になるの?」



セインは答えなかった。



新聞を見る。



文字になっている。



俺が発見した。



俺が疑問を持った。



俺がそう語った。



知らない人間が読めば。



たぶん。



そういう出来事だったと思う。



昨日まで。


俺自身ですら知らなかった話が。



一晩で。



俺の話になっていた。





その日の午前。



分室の扉が開いた。



四十代くらいの男が入ってくる。



受付へ向かいかけて。



俺を見た。



「あ」



足が止まる。



「アルトさん?」


「はい」



男の顔が明るくなった。



「やっぱり。新聞で見ました」



嫌な予感がした。



「英雄の嘘を見つけた人ですよね」



背中が冷えた。



「違います」



思ったより強い声が出た。



男が驚く。



「違う?」


「レオンは嘘をついてません」



俺は説明した。



当時の記録と。


後から作られた記録に違いがあったこと。



レオン本人も。


自分の功績ではないと認めていること。



そして。



ユリウスという副官の名前が出てきたこと。



男は何度かうなずいた。



「なるほど」



分かってくれた。



少し安心する。



男は受付で用事を済ませ。



分室を出ていった。



扉が閉まる直前。



外にいた連れへ話しかける声が聞こえた。



「いたよ」


「誰?」


「ほら。新聞の」



少し間があって。



「あの英雄の件を見つけた人」



俺は。



閉まった扉を見る。



訂正した。



ちゃんと説明した。



それでも。



残ったのは。



俺だった。





昼前には。



もう一人来た。



今度は。


拾遺局への相談だった。



受付の職員が話を聞こうとすると。



その人は俺を見て言った。



「できれば、アルトさんにお願いしたくて」



「俺?」



「新聞を読みました。昔のことを調べるのが得意なんですよね?」



違う。



そんなことは書いてない。



いや。



似たようなことは書いてある。



でも。



俺はまだ拾遺師になったばかりだ。



セインの方が。


ずっと仕事を知っている。



そう説明しようとして。



少しだけ。



言葉が止まった。



俺に頼みたい。



そう言われたことが。



嬉しかった。



ほんの少し。



本当に。



ほんの少しだけ。



「……内容を聞いてからです」



俺は答えた。



セインを見る。



「一緒にお願いします」


「最初からそのつもりです」



セインは普通に答えた。



その顔を見て。



少し安心した。





仕事が終わったあと。



俺は測定所へ寄った。



理由は。



分かっている。



気になったからだ。



新聞に名前が載った。



知らない人間に名前を呼ばれた。



俺を指名する人まで出てきた。



なら。



存在値も。



変わっているかもしれない。



測定器の前に立つ。



手を置く。



数字が出た。





41。





しばらく。



動けなかった。



昨日まで。



4だった。



それが。



41。



普通の人間なら。


だいたい40とか50。



この世界に来た日。



0だった俺が。



初めて。



普通の人間と同じくらいの数字になった。



「……上がった」



声が出た。



嬉しい。



そう思った。



次の瞬間。



朝の新聞を思い出した。



俺が言っていない言葉。



俺一人で見つけたことになっている功績。



「英雄の嘘を見つけた人」



訂正しても。



残った俺の名前。



それで。



41。



俺はもう一度。



数字を見る。



嬉しい。



でも。



気持ち悪い。



どっちかだけには。



できなかった。



レオンも。



こんな感じだったんだろうか。



最初は違うと言った。



何度も訂正した。



それでも。



自分の名前が大きくなった。



褒められた。



頼られた。



数字が上がった。



そのうち。



訂正するのをやめた。



俺は。



測定器から手を離した。



41。



昨日まで欲しかった数字なのに。



その数字の中に。



どこまでが俺なのか。



もう。



少し分からなかった。

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