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第22話 ユリウス

二日後。


王都中央拾遺局の資料室に、北境遠征の古い記録が運び込まれた。



北境の倉庫から中央局へ送られていたものの、

まだ整理されていなかった資料らしい。



俺とセイン。


中央局の職員。


そして、レオンも来ていた。



「本当に来たんですね」


俺が言うと、レオンが椅子を引いた。


「俺の功績になってるんだろ。そりゃ気になる」



存在値12,438の英雄でも。


そこは普通らしい。



箱を開ける。



中には、当時使われていた帳簿や命令書が何冊も入っていた。



王都に残っていた遠征記録では。


撤退や補給変更を決めた人間の名前が抜けていた。



でも。



北境に残っていた古い記録は違った。



最初に見つけたのは、食料の帳簿。



『北門へ二日分追加』



その下。



『確認 ユリウス』



次に出てきたのは、負傷者の移送記録。



『東側治療所満床。西側へ変更』



ここにも。



『ユリウス』



俺とセインは顔を見合わせた。



「残ってる」


「ああ」



王都側の記録では消えていた名前が。



こっちには残っている。



さらに。



北門からの撤退命令。



『第二防壁まで撤退』



その下に。



『副官 ユリウス』



これで。


かなりはっきりした。



今までレオンの功績として伝わっていた仕事の中に。



ユリウスがやったものがある。



レオンは何も言わず、記録を読んでいた。



俺は別の帳面を開く。



そこには、もっと細かい記録が残っていた。



『水樽不足』


『馬二頭故障』


『避難民四十七名追加』



その横には。



『兵士用の食料を避難民へ分ける』


『動けない馬から荷を降ろす』


『北門撤退後、街道を空ける』



一つ一つは地味だ。



でも。



逃げる人。


運ぶ荷物。


下がってくる兵士。



全部が同じ場所に集まれば、簡単に動けなくなる。



その順番を決めていた人がいた。



「この人、ずっと後ろを回してたんだな」


俺が言う。



レオンが帳面を見たまま答えた。



「たぶんな」



少しして。



「俺、こういうの苦手だったし」



俺はレオンを見る。



「そうなんです?」


「前で戦ってる方が簡単だからな」



それを簡単と言える時点で、やっぱり英雄だと思う。



でも。



少なくとも。



レオン自身も。



この仕事を全部自分がやったとは思っていない。



さらに資料を探していると。


正式な記録ではない紙が出てきた。



誰かが現場で書いたメモらしい。



『隊長は東へ』


『ユリウスは北へ』


『また揉めた』



俺は顔を上げた。



「また?」


「俺に聞くなよ」


レオンが言う。



続きを読む。



『隊長は押せると言った』


『ユリウスは下げろと言った』


『北門のみ撤退』



どうやら。



意見が合わないことも多かったらしい。



レオンは前へ出る。



ユリウスは、危ない場所を下げる。



そんな関係だったのかもしれない。



別の紙には。



『隊長、また勝手に前へ』


『副官、怒る』



とまで書いてある。



セインが笑った。



「かなり怒られてますね」


「……なんか腹立ってきたな。覚えてない奴に」


「そこなんですか」



俺も少し笑った。



顔も分からない。


声も分からない。



でも。



記録を読んでいると。



ユリウスという人間が、ほんの少しだけ見えてきた。



そして。



同時に。



別のことも見えてきた。



俺は一枚の古い新聞を広げた。



北境遠征が終わった直後の記事。



大きな見出し。



『英雄レオン、北境を救う』



本文には。



魔物を倒したこと。



北門を撤退させたこと。



補給を立て直したこと。



負傷者を救ったこと。



全部。



レオンの名前で書かれていた。



ユリウスの名前は、一度もない。



「何で全部、レオンの功績になってるんだろ」



俺が言う。



レオンは新聞を受け取った。



しばらく読む。



そして。



「……これ、覚えてる」



「記事を?」



「ああ」



レオンは新聞を机に置いた。



「昔から、こんな感じだった」



戦いが終わる。



街が助かる。



すると。



いつの間にか。



何でも英雄レオンのおかげになる。



「最初は訂正してたんだよ」



レオンが言った。



俺は続きを待つ。



少しして。



レオンは新聞から目を離した。



「途中から、やめたけど」

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