第71話:徴発された麦は、砦ではなく倉庫へ行っていました
本日の荷:消えた四割、ふたたび。
照合は七日かかった。西部環状線の五拠点が出した量、北街道の宿駅が通した量、ハルダ砦が受け取った量。三つの数字を日付ごとに並べる。二年前、トゥーレの関所で二重帳簿を暴いたときと、まったく同じ形の帳面である。ニカが作った。彼はもう、この形の帳面しか作らない。
「名代様。合いません」
差し出された帳面に、赤い線が一本引いてあった。
「出た量、千四百俵。北街道の宿駅を通った量、千四百俵。……砦の受領、千俵」
「四百」
「四百、消えています」
消えた場所はすぐに分かった。北街道の合流点から軍道へ入るところで、隊列が二つに割れている。千俵はまっすぐ北へ。四百俵は、軍道を南下して王都へ。私はその分岐の記録を三度確かめた。三度とも同じだった。
テオ曹長に問い合わせると、返事は早かった。
『当砦、受領は千俵。四百俵の到着は確認しておりません。
なお、当砦は千四百俵の到着予定を知らされておりません。徴発の通達自体、砦には来ておりません』
砦は、自分たちのために麦が徴発されたことすら知らなかった。
*
王都の四百俵の行き先を追ったのは、フィオナさんだった。軍需倉の入庫記録、そこから先の払い下げ、払い下げ先の商会名。
『先輩。四百俵は、王都の軍需倉に入り、七日後に「古米処分」として払い下げられています。
払い下げ先は、ヴェルンのタウル商会——ではなく、その番頭が新しく立てた別の商会です。名前だけ変わっています。
払い下げ価格は、一俵につき銀八。
春の市の値は、銀四十六です』
*
私はその紙を持って、ロッシュ徴発官を訪ねた。ヴェルンの宿の一室である。徴発の任が解かれて、王都へ戻る前の日だった。彼は紙を読んだ。読んで、それからたいへん長いこと黙っていた。
「……本官は」声が掠れていた。「本官は、砦へ運ぶと信じていた」
「はい」
「二百三十七人の村から麦を抜いた。抜いた本官の手で。……それが、古米処分だと」
「四百俵ぶんは、そうです」
小柄な徴発官は紙を握りしめた。指が白くなっていた。
「差配役殿。本官は、数を正確に把握することを職務の誇りとしてきた。飢える者の数を、目を逸らさずに数えるのが徴発官の仕事だと」
「はい」
「その数字を、本官は、どこから受け取った」
「軍需監からです」
「……渡された数字を、本官は、数えたつもりでいた」彼は紙を机に置いた。「本官は、何も数えていなかった」
*
ロッシュ徴発官の罷免は十日後に出た。罪状は「徴発物資の管理不良」。ガルド監と同じ文言だった。私はその辞令が出る前に、彼に一つ頼んでいた。
「証言台に立っていただけますか」
「本官が? 罪人だぞ」
「罪人ではありません。数えた人です」私は言った。「あなたは、二百三十七という数字を持っておられた。数字を持っている人が『渡された数字だった』と言うのと、私のような外の人間が言うのとでは、重さが違います」
ロッシュはしばらく黙って、それから初めて笑った。笑うと、書生のような顔に少しだけ人間味が出た。
「……本官は、貴殿が嫌いだった」
「存じております」
「今も好かん。……だが、立つ」
*
封印は、西部の五つの蔵から外された。外したのは軍ではない。町の人たちが朝、勝手に剥がした。剥がした紙を、ドモス親方が広場の火にくべた。
「荷を粗末にする奴は、儂の馬車には乗せん」親方は、燃える紙を見ながら言った。「封印を貼って中身を減らす奴は、なお乗せん」
*
その日の夕方、アルバの広場に粉屋の主人が来た。寄合で最初に立った人である。
「差配役殿」彼は、私の前で深く頭を下げた。「疑って、すまなかった」
「疑うのが、正しかったんです」
「いや」主人は首を振った。「うちの蔵の麦が北の兵隊さんの腹に入るなら、俺は文句を言わん。兵隊さんも、うちの息子と同じ歳だ。……だが、古米処分は、許せん」
私は頭を下げ返した。
「四日、遅れました」
「もう聞いた」主人は笑った。「あんた、その話ばっかりしとるな」
*
その夜、王都から早馬が来た。辺境伯家のセドリックさんの、簡潔な字だった。
『王宮が、兵站査定会を開く。
議題は、兵站の民間委託を本採択とするか、打ち切りとするか。
殿は、当然、本採択を推す。相手方の動議は打ち切りだ。
——貴殿の運送について、「軍紀違反」の告発が出ている。傭役登録の濫用だそうだ。
なお、査定会には軍務卿レーゲンが自ら出席する。
諮問に一度も顔を出さなかった男が、自分で席につく。
貴殿の言う「元栓」は、そちらから開けに来た』
第十章の決着です。四百俵が北へ行かず、王都で「古米処分」として銀八で払い下げられていました。第一部で暴いた「六割二分」と、まったく同じ形です。ロッシュは悪人ではなく、正確に数えていたつもりで、渡された数字を数えていただけの人でした。「本官は、何も数えていなかった」——彼にとって、いちばんきつい一行だと思います。そして封印を剥がしたのは軍ではなく町の人たち。ドモス親方が火にくべる場面が書けて満足しています。次章、王宮。軍務卿が自分で出てきます。ブックマーク・評価・感想、何よりの帰り荷です!




