第67話:あんたが作った道が、うちの麦を持っていく
本日の荷:疑い、町ひとつぶん。
寄合は、灯火亭の広間で開かれた。三年前、私が最初に町の人に差配の話をした場所である。あのときは十人ほどだった。今日は立ち見が出ていた。上座に町長のティナさん、私は下座に座った。
*
最初に立ったのは、粉屋の主人だった。三年前、私の差配を最初に信じてくれた家である。
「差配役殿。あんたの中継所のおかげで、この町は生き返った。それは町中が知っとる」
「ありがとうございます」
「だから、聞くんだ」主人の声が震えた。「なんで、うちの蔵の麦が北へ行くんだ」
次に立ったのは、宿の女将だった。「峠向こうのテスには、うちの亭主の実家がある。三日ごとに麦が来ると聞いて、みんな安心しとったんだ。それが止まった」
次は、若い母親だった。子を背に負ったまま、立ち上がるのに二度、息を継いだ。
「あんたが運んだんですか」
「私が運びました」
広間が、しん、となった。
「言い訳をしなさいよ」ティナさんの声だった。上座から、町長が私を見ている。冷たい目ではなかった。むしろ必死な目だった。言い訳をしてくれ、と言っている目だった。
私は立ち上がった。「言い訳はありません」
*
「私は、軍から運送を命じられました。拒めば差配役を解かれます。解かれれば、この網は軍の直轄になり、荷は二十日かかり、着荷は六割になります」
私はそこで一度、息を吸った。「——というのが、私が四日前に自分に言い聞かせた理屈です」
広間が、ざわついた。だれも野次を飛ばさなかった。それがかえって重い。
「理屈としては、間違っていません。ですが、この理屈には、抜けているものがあります」
「何よ」
「私は、拒む方法を、考えませんでした」私は自分の掌を見た。「拒めば解かれる。それは事実です。ですが私は、『拒まずに、抜かせない方法』を探すべきでした。それが私の仕事です。三年、私はずっと、それをやってきました。関所が閉じているなら手続きで通す。川が止まるなら陸を使う。書式で止められるなら例規を読む」
私は顔を上げた。「今回、私は、探す前に諦めました。相手が軍だったからです。……情けない話です」
ティナさんが口を開きかけて、閉じた。上座で、判を握る手に力が入るのが見えた。
「私は倉庫番です。荷を通すのが仕事で、誰に渡すかは依頼主が決める。……そう言って、三年やってきました。今回、その言い方が、初めて自分に返ってきました」
私は寄合の全員に向かって頭を下げた。「四日、遅れました。申し訳ありません」
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ティナさんが判を机に置いた。木の音が、広間の端まで届いた。
「……で?」
「はい」
「四日遅れて、今から何をするの」
「数えます」
「数える?」
「はい」
私は懐から帳面を出した。徴発の台帳である。「徴発された麦は、千四百俵。日限は十四日。宛先はハルダ砦。……この三つが、本当かどうかを数えます」
「本当じゃないの?」
「分かりません。ですから、数えます」
私は帳面を開いた。「ただし、これは私一人ではできません。西部環状線の五拠点と、峠向こうの三十七か村と、北の砦。全部の受け取りを、同じ形で照らす必要があります」
「……あんた、それ」
ティナさんが目を細めた。「関所の二重帳簿のときと、同じ顔してるわね」
「同じ手です」私は言った。「荷は嘘をつきませんよ。嘘をつくのは、いつだって、荷札を書く側です。……今回は、封印を貼った側です」
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寄合は、それで割れた。半分はまだ私を疑っていた。当たり前だと思う。四日前に麦を持っていった男が、今日から数えますと言っているのだ。だが、粉屋の主人が最初に手を挙げた。
「うちの蔵から出た量なら、俺が覚えとる」
宿の女将が続いた。「テスの受け取りは、亭主に聞けば分かる」
ドモス親方が、太い腕を組んだままぼそりと言った。
「荷を粗末にする奴は、儂の馬車には乗せん。……封印を貼って中身を減らす奴も、同じだ」
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寄合が終わり、人が引けたあと、ティナさんが灯火亭の階段に座っていた。
「ロイド」
「はい」
「あたし、あんたを疑ったわ」
「疑うのが、町長の仕事です」
「そうよ」ティナさんは、膝を抱えた。「町長ってさ。町の腹に責任を持つってことでしょ。だから、麦を持っていく人間は、それが誰でも敵なの。あんたでも」
「はい」
「……でも、あたし、それが嫌だった」
彼女はそこで初めて、少しだけ声を崩した。「四日、すごく嫌だった」
「私もです」
「あんたが謝ったから、もういい」ティナさんは立ち上がった。「次からは、四日じゃなくて、一日で来なさいよ」
「善処します」
「善処じゃなくて、来なさい」
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その夜、王都から書簡が来た。フィオナさんの、いつもの平らな字だった。
『先輩。徴発令の綴りを見ました。
起案、軍需監ハウザー。合議、兵站府三課。承認、次官。
——軍務卿の決裁欄が、空白です。
これで四十八件目。そして先輩、私、気づきました。
空白の位置に、癖があります』
寄合の回です。ロイドは言い訳をしませんでした。「拒めば解かれる」という理屈は正しくて、正しいからこそ、彼は探すのをやめてしまった——そこを自分で認めるところが、この人の芯かなと思っています。ティナは町長として疑い、個人として嫌がりました。両方本当なのが、この娘の良いところです。そして「数えます」。第一部から第三部まで、この男の反撃はいつも同じ一手です。フィオナの「空白の位置に、癖があります」——次回から、元栓の正体に手が届きます。ブックマーク・評価・感想、何よりの帰り荷です!




