第66話:徴発は、私の網を使って行われました
本日の荷:自分の作った道、他人の手に。
「私は、運びます」
私が言うと、ティナさんは判を握ったまま、しばらく動かなかった。
「……そう」
「拒めば、差配役を解かれます。解かれれば、この網は軍の直轄になります。直轄は二十日かかり、着荷は六割です」
「理屈は聞いてない」
「理屈しか、持っていないんです」
ティナさんは、外套も着ずに帳場を出ていった。
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徴発の荷は四日後に動き出した。トゥーレの関所蔵から四百俵、レームから三百、カヴァルから二百、ヴェルンの公倉から三百、アルバから二百。合わせて千四百俵が、西部環状線に載った。
私が三年かけて繋いだ輪の上を、軍の封印を貼られた俵が北へ向かって流れていく。それは、たいへん見事な流れだった。トゥーレ峠を越え、北街道の合流点でリンドの馬車に継ぎ、軍道へ入る。テオ曹長の傭役札が関所を素通りさせる。積み替えは四回、所要は十二日。
私の設計は完璧に機能していた。完璧に機能して、村から麦を抜いていった。
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最初に変わったのは、御者たちの声だった。トゥーレの中継所で、荷を継ぐ御者たちがいつもの掛け声を出さなくなった。ただ黙々と俵を担ぎ、荷台に積み、幌をかける。
「名代様」
ニカが帳面を抱えて私のところへ来た。生真面目な青年吏は、めずらしく言い淀んだ。
「峠向こうの村役が、受け取り台帳を返してきました」
「返す、とは」
「『次の便が来ないなら、台帳はいらない』と」ニカは帳面を胸に抱えたまま、しばらく黙っていた。「名代様。私は二年前、この形の台帳を作れと言われて作りました。作れば町が救われると思ったからです」
「はい」
「今は、抜かれた量を正確に書く帳面になっています」彼は、初めて私に食ってかかるような目をした。「正確に書けば書くほど、何が抜かれたかがはっきりします。……これは、何のための帳面ですか」
「証拠のための帳面です」
「証拠にする気が、あるのですか」
私は答えられなかった。答えられなかったことを、この青年は見逃さなかった。
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二番目に変わったのは、村の目だった。配給の停まった五つの村を、私は回った。テス村では、二年前に袖を掴んできた女の人が家の戸を閉めた。閉める前に、一言だけ言った。
「あんた、良い人だと思ってました」
私は返す言葉を持たなかった。持たないまま次の村へ行った。次の村では、誰も出てこなかった。三番目の村で、痩せた男が石を投げた。外れた。当たらなかったのは、投げた人の腕に力が入らなかったからだ。
「差配役さま」男は、地面に膝をついたまま言った。「うちの子は、あんたが運んできた塩で、去年の冬を越したんです」
「……はい」
「今度は、あんたが運んでいくんですね」
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三番目に変わったのは、私自身だった。差配はいつもどおりできた。継ぎ送りの段取りも、峠の開閉に合わせた積み替えも、頭は勝手に組み上がる。三年で身についたものは、そう簡単に鈍らない。
だが、《流路図》が濁った。荷と路の流れが光る線として見える——師匠に仕込まれた、私のただ一つの取り柄である。その線を辿ると、麦が村から抜けていく道筋まで綺麗に光った。私が組んだ流れは正しい。正しく、村を干上がらせている。これほど気持ちの悪い正しさを、私は知らなかった。
*
アルバに戻ると、広場の空気が変わっていた。人がいないわけではない。荷は動いているし、中継所は回っている。ドモス親方は変わらず若い衆に雷を落としている。だが、私が通ると話し声が一段低くなる。
「兄ちゃん」
厩の前で、ガッシュさんが呼び止めた。
「一つ聞くぞ。あの千四百俵、あんたが運びたくて運んでんのか」
「いいえ」
「なら、いい」御者頭はそれだけ言って、馬の腹を叩いた。「俺は理屈が分からん男でな。荷が動くなら従う。それだけだ。……だが、町の連中は理屈が分かる。分かるから、腹が立つんだ」
「はい」
「兄ちゃんよ」ガッシュさんは、珍しく笑わなかった。「あんたが三年かけて作ったのは、道だけじゃねえぞ。町の連中が『あの人が言うなら』って思う気持ちも作ったんだ。荷は積み替えりゃ済むが、そっちは積み替えがきかん」
*
その夜、私は帳場で一人、徴発の台帳を閉じた。千四百俵。全部、私の網で運ばれる。十二日で、確実に、一俵も欠けずに北へ届く。私はこんなに完璧な仕事をしたことがなかった。
窓の外で、ヤコブさんの拍子木が鳴った。夜警頭の拍子木は三年、毎晩同じ拍子で鳴っている。その音を聞きながら、私は帳面に一行だけ書いた。
『届く道は、届かせたくないものも届ける』
筆を置いたとき、戸が開いた。ティナさんではなかった。町の寄合の使いだった。
「差配役殿。明朝、寄合を開きます。……議題は、アルバ中継所と、町の関わりについてです」
第三部でいちばん重い回です。ロイドの差配は一度も失敗しません。完璧に機能して、完璧に村を干上がらせます。「これほど気持ちの悪い正しさを、私は知らなかった」——第一部・第二部で気持ちよく決めてきた技が、そのまま凶器として働く回を、一度書いておきたかった。ガッシュの「積み替えがきかん」は、この作品の物流の言葉でいちばん重い台詞かもしれません。次回、寄合です。町がロイドをどう扱うかが決まります。ブックマーク・評価・感想、何よりの帰り荷です!




