第44話:重い荷ほど、段取りで軽くなる
本日の荷:鉄、共同運搬で。
グロムが差配所を潰しに来る、その朝。
私は蔵の前で荒事を待つ——のではなく、鉱夫たちを集めて、峠道に丸太を並べていた。
「ダグさん。手の空いている鉱夫を、全員貸してください。腕自慢でなくていい。むしろ、腕自慢でない人ほど助かります」
「……何をする気だ、名代さん」
「重い荷を、軽くします。荷の目方は変えずに」
ダグさんは眉を寄せた。私だって、初めてこれを見せられた時は、狐につままれた顔をしました。
*
種を明かせば、単純な話でした。グロムの強さは、「重い鉱石は力自慢が一人で担いで峠を越すもの」という前提の上に乗っている。ならば、その前提を三つに割ってやればいい。
一つ、荷を割る。一台に山ほど積まず、二台三台に分けて薄く積む。軽い荷なら、腕の細い鉱夫でも牽ける。
二つ、道を助ける。平らな所に丸太を横に寝かせて並べ、その上で荷を転がす。ころ、と呼ぶそうです。重い石も、ころの上なら、子供が指で押せる。
「見ろよ……」鉱夫の一人が声を上げた。丸太の上で、鉄鉱石を積んだ橇が、するすると動く。押しているのは、腰を痛めた老人と、その孫だった。
これは、師匠オルソンが《流路図》の余白に描き残していた古い知恵でした。橇の下に丸太のころを噛ませて転がし、梃子で浮かせて向きを変える。城の石垣も、寺の大鐘も、みんなこの手で動いてきた。力ではなく、道具と手順で、重さを騙す。
三つ、峠を継ぐ。急な九十九折りは一気に越えない。中ほどに積み替え場を作り、下の組が中まで、中の組が上まで、と受け渡す。峠を三つの短い坂に割って、三組で継ぐ。
「荷は割れば軽くなる。道は助ければ軽くなる。峠は継げば軽くなる。——一人で丸ごと担げば力自慢しか越えられませんが、短く割って継げば、ここにいる全員で越えられます」
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鉄鉱石の山が、動き始めた。
ガッシュさんは力自慢が本業なので、遠慮なく馬鹿力を振るっている。「がっはっは! 俺は段取りより力が得意でな! ころ運びなら任せろ!」——適材適所、というやつです。彼が一本並べる間に、鉱夫が三本並べていたのは、黙っておきました。
昨日まで一粒も出せなかった山が、峠の向こうへ流れていく。牽いているのは力自慢ではない。腰の曲がった老人、痩せた若者、掌の薄い女房たち——グロムに「掘れねえ奴」と嗤われた、その人たちだ。
あの若い鉱夫も、崖から拾い直した鉄を牽いていた。父の薬代になるはずだった鉄を、今度はちゃんと、割って、転がして。
「名代さん、これ……ほんとに、俺の腕で動いてる」
「あなたの腕と、皆の段取りで、です」私は割り札を渡した。「峠の向こうで、鉄が銭に変わります。その足で薬屋へ。お父上に、間に合います」
彼は割り札を握りしめ、一度深く頭を下げて、荷を追って峠を上っていった。荷が動くと、人が動く。人が動くと、町が動く。
「梃子を噛ませろ! そこ、ころを一本前へ回せ!」
いつの間にか、ダグさんが差配の声を張っていた。彼の厚い掌が、今日は殴るためでなく、荷を継ぐために使われていた。
「名代さん。……俺は長え間、腕っぷしがねえと、この山じゃ何もできねえと思ってた」
「腕は大事です。ですが、腕を正しい順に並べるのは、段取りの仕事です」
「重い荷ほど、段取りで軽くなる、か」彼は初めて、ほんの少し笑った。「乗った。この山の鉱夫は、今日から、あんたの段取りで動く」
厚い掌が、私の手を握った。殴るためだけにあると思っていたその掌が、人と手を結ぶためにも使える。ダグさんは今日、たぶんそれを思い出したのです。
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昼過ぎ、グロムが子分を連れて峠に現れ、目の前の光景に立ち尽くした。
力自慢を一人も使わず、鉱石の山が消えていく。子分たちの太い腕が、急に値打ちを失った。彼らの拳が、行き場をなくして宙に浮いていました。
「て、てめえ……何をしやがった!」グロムの声が、初めて上ずった。
「何も。荷を、割って、転がして、継いだだけです」私は看板の割れた板を継ぎ直しながら答えた。「あなたの腕でなくても、荷は流れる。それが分かっただけです」
グロムの拳が震えていた。殴る相手が、どこにもいないのだ。荷は、拳の届かない所を、静かに流れていた。
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その夜、峠を越えた鉄鉱石の受け渡し帳を、私は開いた。荷は必ず、行き先を書き残す。
ヴェルンの鍛冶ではない。近隣の農具屋でもない。ほとんどの鉄が、東へ——王都の方角へ、まとめて回されている。受取の判は、一つ。『王都 武具蔵』。
私は、師匠に叩き込まれた数え歌を口の中で唱えながら、帳簿の列を追った。林檎が三つ、塩が七つ……鉄が六つ。鉄はいつも数え歌の後ろのほうにいる。重くて、地味で、けれど、国の背骨になる荷。
鍬や鎌になるはずの鉄が、まとめて王都の武具蔵へ。荷の行き先は、いつも、荷札を書いた者の腹の内を、正直に映します。——嫌な予感が、帳簿の隅で、静かに芽を出していました。
痛快回です!「重い荷ほど、段取りで軽くなる」の実演——荷を割る、ころ(転がし丸太)で助ける、峠を三組で継ぐ。力自慢しか越えられなかった峠を、老人と子供が越えていく。グロムの拳が、殴る相手を失う瞬間が書きたかった回でした。そして鉄の行き先は、王都の武具蔵……。次話、グロムの暴力が最後の牙を剥きます。ブックマーク・評価・感想、何よりの帰り荷です!




