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「無能」と追放された倉庫番ですが、王都の物流は私が回していました 〜寂れた宿場町を交易の要にしたら、古巣の大商会が静かに崩壊していくようです〜  作者: 夜凪レン


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第4話:親方ドモスの言い分

 本日の荷:苦情一件(重量級、取扱注意)。


 翌朝、私は組合の建物に呼び出された。


 馬車組合アルバ支部。雨戸の半分閉まったあの建物だ。中に入ると、煙草と革油の匂い。奥の椅子に、岩のような老人が座っていた。


「お前か。昨夜、井戸端で勝手な差配をした流れ者ってのは」


 ドモス親方。アルバの馬車組合を束ねる人で、御者あがり、五十四歳。腕は丸太、眉は剣山、声は地鳴り。


「組合を通さん荷の差配は、この町じゃ御法度だ。今すぐやめて出ていけ」


「申し訳ありません。急ぎの荷だったもので、手順を飛ばしました。以後、組合を通します」


「……あ?」


 親方は拍子抜けした顔をした。たぶん、言い返されると思っていたのだろう。


「ですが親方、一つだけ教えてください。昨夜の三百箱、組合に話を通していたら、捌けましたか」


「……うちの現役の馬車は四台だ。三百箱なんざ、どうやっても」


「では、御法度の理由は『組合の仕事を奪うから』ではありませんね。何を守るための御法度ですか」


 親方は長いこと私を睨んだ。それから、ふいと目を逸らして煙管に火を点けた。


「……信用だ」


 煙と一緒に、絞り出すような声が出た。


「流れ者が荷を扱って、持ち逃げでもしてみろ。荷主は『アルバに荷を預けると消える』と覚える。噂ってのは荷より速く走るんだ。そうなったらこの町は、今度こそ終いだ」


 ああ、と思った。


 この人は、頑固な老害などではない。寂れていく町で、最後に残った「信用」という荷を、一人で抱えて守ってきた人だ。


「ごもっともです。では、こうしませんか。帰り荷の差配は、すべて組合の名義で行う。割り札には組合の判を捺す。差配の手数料の三割を組合へ。私はその下働きです」


「……お前にゃ何の得がある」


「私は宿代が稼げます。それに」


 私は窓の外を見た。街道を、今日も荷馬車が素通りしていく。


「荷が正しく流れていないのを見ると、夜眠れないたちなんです」


 親方は煙管を咥えたまま、妙な生き物を見る目で私を見た。


「……変人か」


「倉庫番です」


   *


 その日の夕方、私は親方の厩を見せてもらった。


 現役の馬車四台。だが厩の奥に、油布をかけられた古い馬車が一台、大切に仕舞われていた。車体の塗りは剥げているが、車軸も車輪も、見事に手入れされている。


「親父の馬車だ。触るな」


「いい車軸ですね。樫の芯に、鉄の巻き締め……これは王都の規格だ」


「ほう、分かるか」親方の眉が、ほんの少しだけ緩んだ。「親父の自慢でな。『この車軸は特別製だ』って、死ぬまで言ってた」


 油布の隙間から、車軸の端に何か刻印が見えた。図案までは読み取れない。


「親方。一つ伺いますが——この町、昔はもっと栄えていませんでしたか。厩は三十頭規模、あの閉まった建物は問屋蔵が三棟。三本の道の結び目で、この設備。どう見ても、ただの宿場の規模じゃない」


 親方は煙管の灰を、とん、と落とした。


 長い沈黙のあとで、地鳴りの声が、少しだけ遠くなった。


「……昔この町は、王都直結だった」


「直結?」


「西方面の荷は全部、アルバで積み替えてた。毎日五十台だ。井戸端に市が立って、問屋蔵は三棟とも満杯で、御者が宿の取り合いをした。……二十年前までの話だ」


「二十年前に、何が?」


「知らん」


 親方は油布を直し、厩の戸を閉めた。


「ある日突然、荷が来なくなった。路線が変わったんだ。王都の連中が決めて、王都の連中しか理由を知らん。それだけの話よ」


 それだけの話、と言うその背中が、それだけではないと言っていた。


 宿に戻ると、ティナさんが帳場で書き物をしていた。今日から「組合公認・帰り荷差配所」の帳簿係を買って出てくれたのだ。算盤の珠を弾く速さが、昨日より楽しげに見えるのは気のせいだろうか。


「親方と話したのね。生きて帰ってきたってことは、認められたんだ」


「ティナさん。二十年前、この町で何があったか知っていますか」


 算盤の音が、止まった。


「……知らない。けど、お祖父ちゃんはずっと言ってた。『アルバは寂れたんじゃない。寂れさせられたんだ』って」


 寂れさせられた。


 受け身形の、嫌な言葉だ。荷の流れは自然には変わらない。変えた誰かが、必ずいる。

お読みいただきありがとうございます。頑固親方は良いものです。次話「帰り荷革命」、アルバの差配所がいよいよ本格稼働——その頃王都では、若旦那がよからぬことを思いつきます。ブックマーク・評価、いつもありがとうございます。


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