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「無能」と追放された倉庫番ですが、王都の物流は私が回していました 〜寂れた宿場町を交易の要にしたら、古巣の大商会が静かに崩壊していくようです〜  作者: 夜凪レン


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第23話:追放の、本当の理由

 本日の荷:十八年分の真実(開封、衆人環視にて)。


 王都商業ギルド、大会堂。


 ヴァルガ商会差配能力審査会は、定刻に始まった。壇上にギルド理事が七人。脇に監督官庁——王宮商務局の役人。傍聴席には市場の組合長たち、王都の有力商人、そして、外套姿で目立たぬ席に着いた、熊のような偉丈夫がひとり。


 答弁席のガレオン・ヴァルガは、見事だった。


 霜月祭の失態は「一部使用人の怠慢」として処分済みと述べ、競送の敗北は「地方の特殊事情」と片付け、再建計画書を理事たちに配り、低頭すべきところで低頭し、胸を張るべきところで胸を張った。傾いた商会の長というより、嵐を何度も越えてきた老練な船長の顔だった。


 審議が、再建容認に傾きかけた、その時。


「理事会に申し上げる。本件に関し、証言を求められている者たちが参っておる」


 外套の偉丈夫が立ち上がり、外套を脱いだ。


 西部辺境伯ウェルナーの名乗りに、大会堂がどよめいた。理事たちが慌てて席を正し、商務局の役人が背筋を伸ばす。


 ガレオン・ヴァルガの目が、初めて、すっと細くなった。


   *


 証言は、荷を積むように、順に重ねた。


 まず私が、元台帳係として、霜月祭の崩壊が「怠慢」ではなく差配機能の構造的な喪失であることを、数字で示した。理事たちは頷いた。ここまでは、商会の経営の話だ。


 次に、フィオナさんが、元経理部員として、競送前後の不可解な資金の動きと、第七兵站路線の銀三千の入札書を示した。会場がざわついた。ここからは、経営の話ではなくなる。


「——ここで理事会に、一冊の帳簿を提出します」


 私は、師匠の台帳と、解読済みの写しを壇上に運んだ。


「元ヴァルガ商会番頭、オルソンが遺した記録です。第七兵站路線における、十八年分の——発注量と実際の着荷量の、対照記録です」


 読み上げた。淡々と。月ごとの数字を。平均着荷率、六割二分。抜き取りの二地点。転売先の三商会。そして、転売益の分配。


「番頭の創作だ」


 ガレオンの声は、まだ揺るがなかった。


「横領の咎で職を逐われた老人の、妄執の作文に過ぎん。理事会は、出所も検証もない紙切れを証拠となさるおつもりか」


「検証なら、ございます」


 砦のヴェルロ隊長が、軍装のまま証言台に立った。砦側の主計控え十年分。師匠の台帳の「着量」と、月次で一致した。会場のざわめきが、一段、低く重くなった。商人たちの顔色が変わっていた。彼らは数字の読める人々だ。二つの独立した帳簿が月次で一致することの意味を、誰よりも知っている。


「……仮に」


 ガレオンは、それでも、まだ立っていた。


「仮に輸送中の欠減があったとして、それは荷というものの宿命だ。我が商会が組織として関与した証拠が、どこにある」


「では、最後の荷を開けます」


 私は、彼を、まっすぐに見た。


「ロンダール質商発行、無記名手形。番号の記録、十八年分、二百十六枚。……ガレオン殿。あなたはこの場で『商会は関与していない』と仰った。結構です。ならば、この手形の控えを質商に開示させれば、あなたの潔白は証明されるはずだ。商務局のお役人がたが、この場におられる。開示請求の権限をお持ちの方々が」


 会場中の目が、商務局の席に向いた。役人たちは顔を見合わせ——辺境伯が、静かに一言だけ添えた。


「国境の兵六百が、十八年、飯を抜かれておった話だ。商務局は、まさか、見て見ぬ振りはすまいな?」


 逃げ場は、なかった。開示請求は、その場で、議事録に載った。


 ガレオン・ヴァルガは、長いこと黙っていた。


 やがて、彼は笑った。本当に、可笑しそうに。そして私だけを見た。


「……ロイド・ハーヴェン。一つ、訊かせてくれ。いつ気づいた。お前を切ったのが、お前の目のせいだと」


 大会堂が、静まり返った。それは、衆人の前での、事実上の自白の始まりだった。


「気づいたのは、解雇された晩です。確信したのは、師匠の手紙を読んだ時」


「そうか。……お前の月次集計はな、美しすぎたのだ」


 老人は、どこか懐かしむような声で言った。


「重量の集計が、毎月、合わぬ。出荷台帳と路線別集計の差を、お前は几帳面に『要照合』と注記し続けた。三年間。誰に命じられたわけでもなく。あの注記が何を意味するか、お前自身は気づいていなかったろう。だが私には分かった。オルソンの目だ。あの男と同じ目が、また帳場に座っている、とな」


「だから、燃やすよう命じた引き継ぎ書を、危険を承知で『無能』の烙印付きで私を切った。私が他所の帳場に座れないように」


「殺すよりは、穏当だろう?」


 会場が、凍った。ガレオンは構わず続けた。もう、取り繕う段階が過ぎたことを、この老練な商人は誰より正確に理解していた。


「……二十年前、私は選んだのだ。あの方の流れに乗ると。アルバの路線を書き換えたのも、兵站の四割も、すべては乗り賃よ。乗っている間、ヴァルガは王都一の商会だった。降りた者がどうなるかは、オルソンが教えてくれた。……若いの。お前は今日、見事に私を沈めた。だがな」


 老人は、最後に、あの鍵穴のような目で笑った。


「私は、蛇口の一つに過ぎん。元栓は、まだ一度も、お前の前に姿を見せておらんよ」


 衛兵が動いた。商務局の保全命令により、ヴァルガ商会の元帳と倉庫は、その日のうちに封印された。

お読みいただきありがとうございます。「美しすぎる帳簿」が追放の理由——三年間の几帳面な「要照合」が、巡り巡って今日の武器になりました。次話、大いなる商会の最期を、静かに見届けます。ブックマーク・評価、よろしくお願いいたします!


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