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「無能」と追放された倉庫番ですが、王都の物流は私が回していました 〜寂れた宿場町を交易の要にしたら、古巣の大商会が静かに崩壊していくようです〜  作者: 夜凪レン


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第16話:沈む船から、人を運び出す

 本日の荷:人、人、人(全員、行き先未定)。


 競送から半月。アルバの広場に、見慣れない荷馬車が次々と着くようになった。


 積み荷は、家財道具。乗っているのは、ヴァルガ商会を去った人々だった。


「ロイドさん……お久しぶりです。その、儂みたいな年寄りでも、こちらで使ってもらえるかと思って」


 東門の老守衛、ヤコブさんだった。賃金の遅配が続いた末、ついに守衛の詰め所ごと閉鎖されたという。


「ヤコブさん。アルバの夜は門番がいなくて困っていました。即日で頼みます」


「……っ。恩に着る」


 南方便の御者頭マルコさんも来た。雨の日に東の旧倉庫へ荷を入れる、あのマルコさんだ。彼は腕利きの御者を五人連れてきた。蔵番が二人、荷揚げの若い衆が八人、馬具職人が一人。


 ヴァルガ商会という船は、もう、誰の目にも沈みかけていた。競送の敗北で西部の荷を失い、あの除名勧告は競送の翌週、申立人のヴァルガ側がみずから取り下げた——言い出した若旦那が、もういないからだ。代わりに商業ギルドの「差配能力審査」が頭上に迫り、王都市場での指定業者資格は風前の灯。賃金は遅れ、人は逃げ、逃げた人の穴で、また荷が止まる。


「ねえ、ロイド」帳場のティナさんが、帳簿から顔も上げずに言った。「今月のうちの新規雇い入れ、十九人。言っとくけど、宿場一個の稼ぎで養える数じゃないわよ。……分かってて全員受けてるんでしょ」


「はい。理由は三つあります」


「聞きましょう」


「一つ。西部環状線は人手不足で、特に『荷を扱える熟練』が足りません。彼らは即戦力です。二つ。彼らは王都の路と荷主を知り尽くしています。これから王都との商いをやり直す時、その知識は金貨で買えません」


「三つ目は?」


 私は、広場で馬を降りるヤコブさんの、深々と安堵した背中を見た。


「……荷を流していた人たちが、路頭に迷うのを見たくありません。私情です」


「ん。三つ目が一番納得した」


 ティナさんは初めて顔を上げて、にっと笑った。


「いいわよ。宿場一個で養えないなら、宿場を大きくすればいいんだもの。南の問屋蔵、二棟目を開けましょ。お祖父ちゃんの許可はあたしが取る。町長代行だから」


   *


 その晩、歓迎を兼ねた夕餉の席で、マルコさんが酌を片手に、ぽつりと言った。


「……ロイドさん。あんた、商会で何があったか、どこまで知ってなさる」


「と、言いますと」


「あんたの前にも、いたんだよ。商会を『切られた』人が」


 酒場が、少し静かになった。


「先代の番頭、オルソンさんだ。あんたが入る、二年前に辞めさせられた。……いや、辞めさせられたなんて生易しいもんじゃねえ。ある日突然、横領の疑いだと言われて、番頭の部屋から私物ごと放り出された。あの人が、横領なんて、するわけがねえのに」


 手の中の杯が、止まった。


 オルソン。私の師匠。私に台帳と数え歌と、荷の見方のすべてを教えてくれた人。


「マルコさん。私の知る限り、師匠は『体を壊して隠居した』はずです。本人もそう言っていました。商会を出た後、街外れの長屋で私に台帳を教えてくれて、二年前に病で……」


「本人がそう言ったんなら、そういうことにしときたかったんだろうよ。けどな、俺たち古株は覚えてる。オルソンさんが放り出されたのは、商会長と大喧嘩した直後だ。番頭の部屋から、怒鳴り声が聞こえたんだ。オルソンさんの声だ。あんな声、後にも先にも一度きりだった」


「……何と、怒鳴っていたんですか」


 マルコさんは、杯を干してから言った。


「『砦の兵隊を、飢えさせる気か』と」


 砦。兵隊。兵糧。


 台帳の隅に書いた一行が、頭の中で、音を立てた。『第七兵站路線。銀三千。要観察』。


「その後すぐ、横領の疑いって話が出回った。誰も信じちゃいなかったが、誰も逆らえなかった。……ロイドさん。あんたが『改竄の疑い』で切られたって聞いた時、俺たち古株は皆、同じことを思ったよ。ああ、またか、ってな」


 またか。


 二十年前、アルバの流れを閉めた手。


 十数年前、師匠を「横領」で消した手。


 半年前、私を「改竄」で切った手。


 同じ手だ。そして恐らく、同じ理由——その台帳が、見えてはいけないものを映したから。


「マルコさん。もう一つだけ。師匠が商会を出る時、何か持ち出したという話は」


「さあ、そこまでは……ただ、妙な噂はあった。商会長がその後しばらく、人を使って古紙屋や故買屋を漁らせてたって。まるで、何かの『帳面』を探すみてえに、な」


 帳面。


 私は、懐の上から、鞄の中の固い感触を確かめた。


 師匠の形見の、古びた台帳。表紙の裏の、奇妙な線描き。


 ——師匠。あなたが私に遺したのは、本当に、ただの形見ですか。


お読みいただきありがとうございます。沈む船から、人がアルバに移ってきます。ヤコブさん再登場に気づいた方、ありがとうございます。そして語られ始めた師匠オルソンの過去——「またか」。次話、商会長の反撃が始まります。ブックマーク・評価、よろしくお願いいたします!

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