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「無能」と追放された倉庫番ですが、王都の物流は私が回していました 〜寂れた宿場町を交易の要にしたら、古巣の大商会が静かに崩壊していくようです〜  作者: 夜凪レン


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第12話:この町が寂れた、本当の理由

 本日の荷:二十年前の真実(重量、見た目の十倍)。


 ティナさんのお祖父様——町長ゼフ・メルロウ氏が「客人を連れてこい」と言ったのは、御用認可状が見つかった翌日のことだった。


 灯火亭の奥の間。床に臥せって久しい老町長は、しかし、目だけは帳簿の検算が出来そうなほど鋭かった。


「……あんたが、倉庫番か。ティナがうるさいんだ。飯のたびに、あんたの話ばかりでな」


「お祖父ちゃん!?」


「事実だろうが。——倉庫番。御用認可状が出てきたと聞いた。ドモスの親父さんの形見からだと」


「はい。競送で辺境伯閣下の確認をいただければ、差配所の法的な足場は固まります」


「そうか。……なら、わしも、義理を果たさにゃならん」


 老町長は、孫娘に目で合図した。仏壇の引き出しから、ティナさんが古い文箱を取り出す。


「二十年前の話をする。ティナ、お前も初めて聞く話だ。……わしが今まで黙っとったのは、恥だからだ。負けた話は、誰だってしたくない」


   *


 二十年前。アルバが、まだ毎日五十台の馬車で沸いていた頃。


「王都から、商人が来た。羽振りのいい、若い運送商会の主だった。名を——ガレオン・ヴァルガといった」


 来た、と思った。


「ヴァルガは、わしに持ちかけた。『アルバの中継業務を、うちの商会に一括で委ねないか』とな。中継所の差配権を商会に渡し、町は場所貸しに徹する。利益は折半。悪くない話に聞こえた。だが、わしと、ドモスの親父さんは断った。御用中継所の差配権は、王家から町が預かったものだ。商会一つに売り渡せる筋のものではない」


 老町長は、ふっと自嘲した。


「断って、半年後だ。王都の路線図が、変わった」


 文箱から、古い書状が出てきた。王都商業ギルドの通達の写し。


『西方面輸送路の改定について。主要中継機能を、王都西郊ヴァルガ商会総合倉庫に集約する』


「……ヴァルガは、わしらが断ったあと、王都の側に新しい『結び目』を作りやがったんだ。自分の倉庫をな。そして、ギルドの路線図そのものを書き換えさせた。荷がアルバを通らないんじゃない。荷が通る場所を、アルバから自分の倉庫に、丸ごと引っ越させたんだ」


「そんなこと、できるの……? 路線図って、ギルドの偉い人たちが決めるものでしょう?」


「できたんだよ、ティナ。金と、もう一つ——後ろ盾があればな」


 老町長の目が、私を見た。


「わしは諦めが悪くてな。王都まで三度、抗議に行った。三度目に、ギルドの古い知り合いが、こっそり教えてくれた。『ゼフさん、もうよせ。あの路線改定はギルドの決定じゃない。お貴族様の肝煎りだ』と」


「……どなたですか」


「フェルズ侯爵」


 初めて聞く名前だった。だが、灰色の書記官の声が、耳の奥で蘇った。——流れには、元栓がある。


「王都の市場利権を仕切る大貴族だ。ヴァルガの新倉庫の土地は、フェルズ侯爵家の払い下げだった。倉庫が栄えれば地代が入る。市場を通る荷が増えれば、口銭が入る。つまりあの路線改定は、ヴァルガと侯爵の、共同事業だったのさ」


 老町長は、長く息を吐いた。


「わしに出来たのは、御用認可状の話を誰にもせんことだけだった。あれの存在をヴァルガに知られたら、必ず潰しに来る。法令ごと廃止に持ち込まれたら、それこそ終いだ。だから黙って、隠して、いつか使える日が来るのを……いや」


 老人は、首を振った。


「来るわけがないと、半分諦めて、それでも捨てられんかった。そうしたら、ある日ひょっこり、王都から倉庫番が流れてきた」


 皺だらけの手が、布団の上で、深々と頭を下げる形を作った。


「倉庫番。あんたが来てからの三月、わしは寝床で、井戸端の音を聞いとった。馬車の音、荷を降ろす音、ティナの呼び込みの声。……二十年前に死んだ町の音だ。それが、戻ってきた」


「お祖父ちゃん……」


「だから、頼む。これは年寄りの繰り言じゃない、町長としての正式な依頼だ。——競送で、勝ってくれ。二十年前にこの町から奪われたものを、衆人の前で、取り返してくれ」


   *


 奥の間を出ると、ティナさんは廊下の窓辺で、しばらく黙って井戸端を見下ろしていた。


 夕暮れの広場では、今日最後の積み替えが終わるところだった。


「……あたしね、ずっと、この町が嫌いだったの」


 ぽつりと、言った。


「寂れてて、年寄りばっかりで、何もなくて。でも出ていく勇気もなくて、宿と帳場で一生終わるんだって思ってた。……違ったのね。この町、最初から負けてたんじゃなかった。戦って、汚い手で負かされて、それでも車軸を磨いて、認可状を隠して、二十年——降参してなかったんだ」


 彼女は振り向いた。目が赤かった。けれど、口元は笑っていた。


「だったら、取り返すわよ。全部。うちの町の二十年、利子をつけて返してもらう。……ロイド、勝てるのよね?」


「勝ちます」


 即答した。荷の世界で、私は嘘をついたことがない。


「ただし、相手の本丸はバルド専務ではありません。二十年前に元栓を閉めた手——ガレオン・ヴァルガと、その向こうにいる人。競送は、その人たちの目の前で勝たなければ、意味がない」


お読みいただきありがとうございます。二十年前の真相——アルバは寂れたのではなく、寂れさせられた町でした。そして出ました、フェルズ侯爵の名前。次話、辺境伯ウェルナー閣下がついに登場。「競送」のルールが発表されます。ブックマーク・評価、本当に励みです!


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