表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能」と追放された倉庫番ですが、王都の物流は私が回していました 〜寂れた宿場町を交易の要にしたら、古巣の大商会が静かに崩壊していくようです〜  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/15

第11話:親父の自慢は、王家のお墨付き

 本日の荷:古馬車一台(積み荷:二十年分の誇り)。


 除名勧告の審査会まで、一月。


 セドリック政務官が再びアルバを訪れたのは、その対策会議のためだった。


「整理する。連合の除名審査で問われるのは『アルバ組合の差配業が、組合規約上の正規業務か』だ。ヴァルガ側の主張はこうだ。『差配業は王都商業ギルドの認可事項であり、一地方組合が行うのは越権』」


「で、でも、うちは辺境伯さまの優遇状を……」


「あれは通行税の優遇だ、ティナ嬢。業の認可とは別だ。残念ながらヴァルガ側の理屈は、規約の字面の上では筋が通っている。王都のギルドが『差配は王都の専管』と言い張れば、地方組合に反論の根拠がない。……正面から規約論で戦えば、負ける」


 差配所が静まり返った。


 規約の字面。なるほど、これが「整いすぎた文面」の書き手の戦い方か。腕力ではなく、紙で殺しに来る。


 であれば、こちらも紙で迎え撃つのが礼儀だろう。


「セドリック殿。一つ、確認したいことがあります。王都のギルド認可より上位の根拠が、もし在ったとしたら?」


「ほう。例えば」


「例えば——王家の認可です」


 私は、親方を見た。


「親方。お父上の馬車、もう一度見せていただけませんか。今度は、油布を全部めくって」


   *


 厩の奥。油布の下から、古馬車が二十年ぶりに全身を現した。


 車軸の端。「親父の自慢」の特別製の車軸に、刻印があった。私はそれを布で磨き、セドリック殿が灯りを近づけた。


 王冠と、交差する二本の鍵。


「……これは」セドリック殿の声が変わった。「御料記章だ。それも逓送局の」


「ていそうきょく?」ティナさんが首を傾げた。


「王家逓送局。王国の公文書と御料品を運ぶ、王直轄の輸送制度だ。各街道に『御用中継所』を置き、認可を受けた中継所だけが御用荷の積み替えを行える。……五十年ほど前に常備の制度としては縮小されたが、制度自体は廃止されていない。今も法令集に生きている」


 セドリック殿は車軸の刻印を、食い入るように検めた。


「この記章が車軸にあるということは、この馬車は御用中継の指定車両。つまり——アルバは、御用中継所だった」


「親方。お父上から、何か聞いていませんか。書付や、お墨付きのようなものは」


 親方はしばらく黙っていた。それから、のしのしと組合の建物へ歩いていき、奥の金庫から、桐の箱を抱えて戻ってきた。


「親父の遺品だ。読めねえ字の紙ばかりで、ずっと仕舞ってた」


 箱の中には、油紙に包まれた書状の束。一番上の一通に、王冠と二本の鍵の朱印が捺されていた。


 セドリック殿が、白手袋をはめてから開いた。


「『西街道アルバ宿駅を、王家逓送局御用中継所に指定す。中継、積替、差配の業を許す。本状の効力は、王家がこれを廃する旨を布告するまで存続する』……署名、逓送局総裁、御名代印」


 彼は顔を上げた。


「布告は、出ていない。私の知る限り、一度も」


「つまり……?」ティナさんが、ごくりと喉を鳴らした。


「アルバの差配業は、王家の認可を、現に、今も、持っている」


 差配所が——爆発した。


「がっはっは!! 親方ぁ! あんたの親父さん、二十年越しの大金星だ!!」


「う、うるせえ……」


 親方は桐の箱を抱えたまま、そっぽを向いた。その横顔がくしゃりと歪むのを、私たちは見なかったことにした。


「……親父はな、路線が消えたあとも、毎年この馬車の車軸を磨いてたんだ。『いつか御用がまた来る。来た時に車軸が錆びてたら、アルバの名折れだ』っつってな。儂は……ガキの頃、そんな親父が、正直、少し恥ずかしかった」


 親方は車軸の刻印に、ごつい手のひらを置いた。


「……すまんかったな、親父。あんたの自慢は、ほんとに自慢だったよ」


   *


「ただし」と、セドリック殿は釘を刺した。「古い認可状一枚で審査会が黙るとは限らない。『失効済みの空文』と難癖をつけてくるだろう。これを最も強くする方法は——王家か、それに準ずる権威が『この認可は生きている』と公式に確認することだ」


「それに準ずる権威、というのは、例えば辺境伯閣下のような」


「察しがいいな。閣下は王命により西部街道の保安監督権をお持ちだ。閣下が公式の場で『アルバ中継所の認可は有効』と確認すれば、連合の審査会ごときが覆せる話ではなくなる。そして、ちょうどいい『公式の場』を、閣下は既にお考えだ」


 セドリック殿は、一枚の触れ書きの写しを机に置いた。


『辺境伯府主催 西部街道輸送検分——通称「競送」。王都ヴァルガ商会、アルバ中継所、両者に同一の荷、同一の期日を課し、その差配を公開で検分する』


「言ったはずだ。目に見える形で実力を示せ、と。……相手にとって不足は?」


 古巣との、公開の直接対決。


「ありません。荷で語れるなら、それが一番です」


お読みいただきありがとうございます。親方のお父上、二十年越しのファインプレー。「いつか御用がまた来る」——来ましたよ。次話、ティナの祖父の口から、二十年前にこの町で何があったのかが語られます。ブックマーク・評価、励みになっております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ