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(更新33)

【ガンズ】


宿屋に戻る道を歩きながら、街の状態を確かめる。通りは焦げた様な臭いに血の臭いが交わり、あちこちに戦いの跡を見てとれる。


祭りの最中に起きた反乱だ、街の人々はショックを受けて活気が消えるかと思ったのだが、片付けをする姿などを見ているとそれほどでもない。


国王成婚の祝祭は予定通り続けられるのだそうだ。



「まぁな、反乱が成功してたらお祭り騒ぎなんか続けられねぇが、陛下も姫様も無事なんだ、当然だろ」



と、ザップは言うが、普通延期とかするものではないだろうか?


そう言ったらヒューマンっぽい考え方だと笑われた。


何にせよ街の者が商魂たくましい事は解った。反乱が起こる前と同じ様に出店から物売りの声が聴こえてくる。



「皆さん無事でしたか!」



エドが駆け寄ってくる、ステラとチャーリーが怪我人を治療しているのが見えた。



「あぁ、そっちも無事でなによりだ」



お互いの無事を喜び合う。


こちらでも縄を掛けられた光神教徒達が傭兵達に引き立てられていく姿が見えた。向こうと違い、奇跡=回復魔法という話が伝わっていないからか、縄で縛られていてもまだ抵抗している。



「神殿の方はどうなんだ?」


「そっちはドラスさんが纏めていますよ」



神殿の方へ足を向ける。途中ザップが思い出した様に言った。



「知ってたか?ドラスの奴ドラゴニュートだったんだぞ」



ドラスが?ちょっと驚いた。あの姿はどう見てもリザードマンなんだが。


神殿に着くと丁度ドラスとリザードマン達数人が出てくるところだった。こちらに気付いたドラスが俺達に手を上げてみせる。



「皆様お疲れ様でした。如何です?中を見学しますか?案内しますよ」



もうリザードマンの振りは止めたのだろう、流暢に喋るドラス。聞き取り易い発音なのだが、今までの付き合いでリザードマン訛りを聞いていたこちらとしては違和感がひどい。


ドラスを先頭に神殿の扉をくぐり抜ける。


神殿の中は閑散としていて、当然ながら光神教の者は一人も残っていない。時折立哨しているリザードマン兵と顔を会わせるくらいだ。


灯の絶えた神殿は薄暗くがらんとしている。多少の戦闘があったらしく、飾られていた壺や蔡具などが床に転がっている。


昨日まで礼拝に参列する教徒達やここで暮らす僧侶達で賑やかだっただろうこの建物は、ほんの一日で既に廃墟になっていた。


床の散乱物や破れたカーテン、壁についた血の跡などを見ると、そう実感する。俺達の歩く足音が虚ろに廊下の奥へ響いて消える。



「ヴィーシャ殿、先程見付けた物ですがこれを見て下さい」



ドラスがある部屋の本棚から一冊を抜き取り、頁を開いてみせた。本棚は同じ冊子で埋まっている。



「『奇跡』の行使の仕方について書かれています。術式の展開図形付きで」


「助かるわ。光神教の流儀が解らなかったから。これがあれば回復魔法を更に改良する為の参考に出来るわね」


「まだ改良しなくちゃなんねぇのか?」



ザップの問いにヴィーシャが呆れた顔を向ける。



「あのね、今の型は満遍なく回復させるものなの。つまり怪我の場所によっては治りが遅かったりするのよ、命にかかわる事もあり得るわ」



冊子をぱたぱたと叩きながら話を続ける。



「光神教のやり方、怪我の場所や具合に合わせた『細分化回復』なら効率的に治せるわ、つまりこれを組み入れれば命が助かる可能性が高まるわけよ」


「ははぁ、成る程な」



どうやら神殿に足を踏み入れた甲斐があった様だ。




────────


陛下と姫様の結婚式はその後つつがなく終える事が出来た。


御二方を乗せた馬車を中心に厳かに進むパレードは、通りを囲む国民の歓声に包まれたし、魔法使い達の打ち上げる魔法の光は王都の夜空を彩った。






「おはようございます」



全てのお祭り騒ぎが終わった翌日、朝飯を食いに食堂の扉を開けると、いつもの様に給仕から挨拶を受ける。


……いつもの様に給仕姿の姫様に。



「……何をなさってらっしゃる?姫様」


「給仕ですわ。今朝食をお持ちしますね」



いつもの卓にザップとヴィーシャ、それにドラスがいたので挨拶しながら腰掛けた。



「ドラス、なんで姫様がまだ居るんだ?」


「お止めしたのですが聞きません。それからガンズ殿、妃殿下とお呼びして下さい」



ドラスが溜め息混じりに言った。その感じからだいぶ反対したのだろう。



「……俺達、姫様いや妃殿下に給仕させていいのか?ってか不敬罪で捕まらねぇよな?」


「……今更でしょザップ。あの方が好きでやってる事よ」



つい小声になる俺達。


食堂に現れる冒険者達が皆一様に妃殿下の姿を見てはギョッとした顔になり、朝の挨拶を受けては居心地悪そうに卓につく。



「はいお待ちどう様」



朝飯を運んでくれたチャル女史にそれとなく声を掛けた。



「なぁ、あの御方このまま続けるつもりか?」


「……続けるも何も、正式に妃殿下の管轄になりましたわこの宿屋」


「正式に……?」


「えぇ正式に。結婚祝いに妃殿下が陛下におねだりしました。離宮を造られるよりこちらが良いと」


「……経費削減?一国の王妃なんだから離宮の一つや二つ要るでしょうに」


「ドラゴニュートの方は元々家を造りませんから。でも陛下はお造りになるそうですよ離宮」


「え?何処に?」



ザップの質問にチャル女史は辺りをうかがいながら言った。



「光神教の神殿を改築して。あちらの宿もこの度国営化しますから」



それを聞いたヴィーシャがつまらなそうに言った。



「つまり東側の宿屋も『妃殿下の管轄』になる。だから妃殿下が要らないと言っても離宮をそこに造れば押し付けられる、と。相変わらず悪知恵だけは回るわねチ、陛下は」


「じゃあ行ったり来たりする訳だ妃殿下は。その内こっちにもデカイ離宮が出来たりしてな」



平屋の元兵舎が並ぶところに離宮がそびえる姿を想像して俺達は笑った。




────────


あれから数ヶ月が瞬く間に過ぎていった。


反乱を起こした首謀者である光神教の幹部達は国外追放となった。


この処罰は軽い、処刑とするべきだという声は国の大臣や側近からだいぶあったらしい。


しかし陛下が追放で済ませる事にした様だ。


どういう思惑なのかは一介の冒険者である俺に判るはずもない。


だが、国境を接する三国、アドレア、イルベ、ゴースは同盟国となると同時に光神教を廃教としたので、追放された連中は更にその向こう側まで出ていかなくてはならない。


大司教マルトを始めとした幹部達は光神教が似非宗教であると知ってしまった。彼等は今後どの様な身の振り方を決めるのだろう。


光神教に帰属するのか、それとも反抗勢力となるのか。


それによってはラムール改め光神法国を頭とする東側諸国の出方が変わるだろう。


案外陛下はそれを見越して追放にしたのかもしれない。



……などと、やはり一介の冒険者風情が陛下の思惑を想像しても仕方無いのだが。



アドレア、イルベ、ゴースには汎用型の回復魔法を伝えて、細分化型はまだ教えないらしい。


と言ってもまだ細分化型の回復魔法は完成しておらず、今後の研究次第の様だが。



「完成したとしても教えないでしょうね」



とはヴィーシャの言。


細分化型が完成すれば国として他国に対するアドバンテージとなる……らしい。


怪我だけなら光神教の奇跡を応用、というか流用するだけでいいと思うのだが、今研究されているのは病に対する回復魔法だという。


病を治す回復魔法が出来れば治療の為に他国から患者が来る。


つまり外貨獲得に繋がる訳だ。なるほど三国に教えるのは基本的なものにとどめておいた方がいい。


とはいっても、延々と魔法技術を秘匿はしないだろうとヴィーシャは予測した。



「少しづつ術式を流していった方がいいのよ。光神教の力を削ぐにもいいし、疫病の事を考えればこの国に患者が集まり過ぎるのもよくないわ」



ほんの少しだけ他国より回復魔法の技術が進んでいれば、治療の先進国でいられる訳だ。


……まぁ、先の話だ。




王都は最近ではドラゴニュートやリザードマンの姿が若干増えた、妃殿下の影響だろう。


その妃殿下だが、俺達の西側宿屋と元光神教宿、東側宿屋とを行ったり来たりしている。


取り合えずこちらの宿屋に離宮が造られる予定は無い。良かった。


東側は以前ヒューマン専用と言っていい状態だったが、最近はドラゴニュートやリザードマンが増えているらしい。


ヒューマンの冒険者にとって光神教という回復役が居なくなった今、回復魔法を覚え始めた彼等を重宝しているらしい。


汎用型回復魔法は誰にでも覚えられる。だが光神教の影響が残っているヒューマン達が教えを乞いに来ないのだそうだ。


神殿は離宮に改築されたそうだが、妃殿下は使っていない。


ある時妃殿下に訊いてみると嫌そうな顔をされた。



「あんな大きな建物に一人きりで寝泊まりするなんて」



故郷では皆で雑魚寝が基本なのだとか。


一度、妃殿下が使っている部屋を通りすがりに窓から覗く機会があったが、俺達と変わらない広さの部屋に妃殿下付きのリザードマンの侍女達が十人くらいいた。一緒に寝泊まりしているのだそうだ。



「……正直、見なきゃ良かったぜ」



と、一緒にいたザップが気味悪がっていた。


まぁその気持ちは解らなくもない、蛇顔だからなリザードマンの侍女。


なんだか冬眠中の蛇の巣穴みたいだ。


その事をドラスに言ったら不思議そうな顔をされた。



「私もその部屋で寝泊まりしていますが?」



それを聞いた時は俺もザップも固まってしまった。


妃殿下と腹違いの兄妹なのだからいいのか?侍女がゴロゴロいる中に混ざって寝るのはいいのか?ドラゴニュートだからリザードマンとは何も起こらないのか?


様々な疑問が浮かんだが、普通だと言われた。ドラゴニュートもリザードマンも男女の区別無く雑魚寝が当たり前だと。


この話は聞かなかった事にしようとザップと決めた。




クラウスの店は繁盛している様だ。この前もまた仕入れの旅に同行させてもらった。


クラウスの店に俺は用事らしい用事が無い。強いていえば籠手の調整をミーシャに頼むくらいだ。


それでも暇な時に顔を出すと決まってザップやノラがいる。


ノラはまぁ解る。


ミーシャとは同族意識があるのだし、クラウスには仲良くしてやって欲しいと頼まれているらしいからな。


ザップは……節操が無いからか?


そう言ってやるとさも心外そうな顔をするザップだが、ミーシャとザップが話しているとクラウスが邪険に扱うので、まぁ当たりだろう。


最近俺達の中で変わった事といえば、チャーリーとステラが脱けた事だろう。


陛下と妃殿下の結婚式を見て当てられたらしい。二人は結婚した。



「元の世界にいた時から二人は付き合っていましたよ」



とエドは言う。


そういえばエドだけ単独行動というか俺達とつるんでいる事が多かった。


二人が付き合っていた事をヴィーシャ辺りは知っていた様だ。


パーティーで行動する時は二人ともあまりくっついていない様に気を付けていたらしい。


こういう事はパーティーの雰囲気に影響したりするからだそうだ。元の世界で修羅場になって以来そうしていたのだとか。


丁度その頃、クラウスの店の隣が空家になったので、二人はそこで治療院を始める事にした。


ヴィーシャから最新の回復魔法に関する情報が得られる訳で、ダンジョン帰りの冒険者がよくやって来る。立地的にいい場所でもあるし、今後も客足は途絶えないだろう。



「参ったな、二人脱けた穴をどうにかしないと」



最近ザップは二人分の穴を埋めるべく人材を探すのが日課になりつつある。


パーティーの面子が減るとダンジョンの下層へ潜るのが厳しくなる。確かに先へ進むには面子の確保は必要だ。


だったらミーシャに会いに行かなければいい様な気もするが、ザップに謂わせると買い物に来る冒険者を狙っているのだとか何とか。



「言い訳だ」



とノラはばっさり切り捨てる。


ノラといえばヴィーシャから奴隷契約を解除されたそうだ。


理由としては血液配給所が改善されたので、そっちを利用するからだそうだ。



「共に生きると言ってくれたのにな、だが主人は私を思って契約を解除してくれたのだと思う」



なにやら複雑な想いがノラにはある様だ。一族を失ったノラにはヴィーシャとの絆は大事なのだろう。


その証拠にヴィーシャの事は『主人』と呼び続けている。



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