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(更新34)


ノラが奴隷から自由民になったのはパーティーとしては大きい。今後パーティーの面子に入れ替わりがあった時、面倒事が減る。


いまのところノラはヴィーシャと同室のままだ。ミーシャと一緒によくいる事といい、案外寂しがりなのかもしれない。



ドラスだが、リザードマンの姿を続けるそうだ。


妃殿下の腹違いの兄と知った時には驚いたものだ。妃殿下の為にそういう姿を選んだのだという。


族長の正腹の娘である妃殿下の配下として、妹を陰から護る為に翼を捨てリザードマンにそっくりな姿を得た妾腹の兄。


兄妹以前に主従である為に妃殿下から妹らしく甘えられた事は無いそうだが、よく見ていると妃殿下が結構な無茶振りをしていたりする。


ドラスはこれからも俺達のパーティーを続けるらしい。



「私は配下に命令するだけですから、冒険者を辞めると正直暇になります」



兄妹揃って暇が嫌いらしい。陛下や配下達を放っておいてもいいのだろうか?



「そういうところが兄妹なんですね、よく似ています」



とエドに言われて、何故かドラスは喜んでいる様に見えた。




異世界からの冒険者エド。


チャーリーとステラが脱けて、以前にも増して彼は一人でいる事が増えた。


よく宿屋の空き地──訓練場所にいる姿を見掛ける。宿屋の為に薪を割ったり、一人で剣の稽古をしている。


最近は時間が合えば俺が稽古の相手をする様になった。


ダンジョンにいる時は戦闘中にでしゃばらない男だが、エドの剣筋は鋭い。恐らくヒューマンの冒険者や傭兵の中に匹敵する者はいないと思う。


稽古の合間、一息ついた際、話の流れで元の世界に戻りたいか訊いた事があった。



「戻りたくないと言ったら嘘になりますね、しかし……」



故郷の村は既に無い。冒険者稼業で出来た友人知人がいない訳ではないが、どうしても帰らないといけない理由にはならない程度の付き合いだという。



「チャーリーとステラが一緒に来ていなかったら、帰りたくて仕方がなかったでしょうね」



なるほど、俺自身にもし同じ事が起きたなら、エドと同じ気持ちになっただろう。


エドは仲間と一緒にこっちの世界に来た。俺もパーティーの仲間と他の世界に跳ばされたなら、帰る理由が見当たらないだろう。


そんな話をザップにしてみた。



「そりゃあ、ちょっとばかし嬉しい台詞だぜ旦那」


「嬉しいか?」


「あぁ、俺達の事を大事に思ってくれてるからだろ?」



つるめる仲間がいるのはいい事さ。


ザップはそう言いながらニヤリと笑う。



ザップは相変わらずだ。


パーティーの面子の補充が出来ないかあちこちに声を掛け、女の子達にちょっかいを掛け、街の情報屋と渡りをつけ、ダンジョン探索の予定を組み、手に入れた宝物や魔物の心臓を売りにいき、探索に使う消耗品を揃える。


見てるだけで忙しない。


俺などはダンジョンから帰った日は一日寝てまうが、ザップは宿屋に帰るなりこれだ。



「リーダーだからなこれでも」



俺を含めパーティーの面々は雑用のほとんどをザップに任せっきりだ、忙しないと思いながらもありがたい事だと思う。



「あれは性格よ、落ち着きが無いだけよ」



などとヴィーシャ辺りは言うのだが、落ち着きの無い斥候というのはどうなのか。


ザップの名誉の為に言っておくが落ち着きが無い訳ではない、細やかなのだ……と思う。



「貧乏性なんだよ俺は。斥候やってる奴は多かれ少なかれそんなもんさ」


「要は暇潰しなんでしょ?」



と、ヴィーシャは笑う。



「でも雑用をしてくれるお陰で助かってはいるけどね、最近は面倒事が多いから」



そう言って溜め息をつくヴィーシャ。


ヴィーシャの言う面倒事、それは回復魔法の普及と更なる改良についてまわる事柄だ。


ヴィーシャにしてみれば自由に魔法の研究をしていたい、しかし回復魔法の開発の中心人物と目されている為に、会合や講習に付き合わされて自分の時間がなかなか取れないらしい。


光神教の奇跡の術式が手に入った訳だから、改良はしなくてもよさそうなものだが、ヴィーシャに謂わせると、



「こういうのは言ってみればそうね……手柄を横取りされる訳にいかない、ってとこかしら」



魔法の素人としては使えるならそれでいいと思うのだが、玄人には譲れない部分があるのだろう。


ヴィーシャは他にも全く新しい魔法を開発すべく頭を悩ませている。



「どんな魔法なんだ?」



ヴィーシャが訊いて欲しそうに見えたので訊いてみた。



「……異世界を『観測』する魔法。特定の異世界を、ね」


「何の為に?」


「回復魔法の魔力の源はエド達の世界よ。エド達が私達の世界に跳ばされたのは偶然なのかしら?」



ヴィーシャ、そして公爵様が推測するには、光神教の奇跡が多用された事で、エド達の世界とこちらの世界に『道』が出来たのかもしれない……らしい。



「私達の回復魔法によってその『道』は広くなるかもしれないわ。もし『奇跡』の影響でエド達が跳ばされたのなら、今後異世界から跳ばされてくる人が増えるでしょうね」



その対処の為には必要なのだという。



「もし帰りたいか訊いたらエド達はこちらの世界で暮らしてもいいと言うでしょう、でもそれが本心かは判らないわ。それに次に跳ばされてきた人が帰りたいと願ったら?……私達には勝手に『道』を創って広げた責任があるのよ」



責任か……確かに異世界の魔力を使うのはこっちの都合だ。


それで跳ばされて故郷に帰りたくても帰れないというなら責任を取らなくてはならないな。



「『観測』ってどんな事が必要なんだ?」


「……必要な事?何かしら……まずは『位置』エド達の世界がある場所の特定?それから『観察』異世界がどうなっているのか視る必要があるわ、これは向こうに人を還した時に成功したか確認する為ね。それから……」



話の流れから出た俺の質問を受けて、ヴィーシャの頭がフル稼働していく。


ほとんど独り言に近い台詞をしばらく口にした後、我に返ったヴィーシャが顔を赤くしながら俺を見た。



「ガンズ、貴方ってどうして?」


「何が?」


「……貴方の言葉を聞くと考えが纏まるのよ。正直、貴方に会うまではオーガなんて脳ミソの欠片も無いと思ってたわ」


「それは間違っていないな。俺達オーガの頭にはそんな御大層なものは入って無いさ」



俺が笑うとヴィーシャは顔をしかめた。



「……解ってる?回復魔法は貴方が造った様なものなのよ?」



ヴィーシャの言葉に不覚にも大爆笑してしまった。


真面目な顔でもの凄い冗談を振ってきたものだ。



「笑わないでよ、本当の事よ」


「ヴィーシャ、俺は何もやってない。せいぜい僧侶から奇跡の術式を見ただけだ」



それだってうろ覚えだったのだから大した事じゃない。


ひとしきり笑った後俺は立ち上がりヴィーシャに飯を誘った。



「そろそろ他の連中も食堂に来てる頃だろう、行こう」


「……自覚が足りないわ、本当に貴方が」


「じゃあ晩飯でも奢って貰うさ」



ヴィーシャを連れて食堂の扉を開けると皆が卓を囲んでいる。


ザップだけ見当たらないな、と辺りを見ると大勢が集まっている卓にその姿があった。



「ガンズさん、ヴィーシャさん、こっちです」



エドに促されて皆の卓についた。



「……ノラ、ザップは何してるの?」


「よく解らない、ずっと話し合いが続いている」



改めてザップの方を見ると、この宿屋に住んでいる名の知れたパーティーのリーダー達に混ざって見慣れない連中が何人か。それに妃殿下まで一緒にいる。



「あいつらは誰だ?」


「あぁ、ヒューマンの人達は東の宿屋にいる冒険者ですよ」


「それからドラゴニュートは最近冒険者になった者達ですガンズ殿」



ドラスによるとドラゴニュート達の中で回復魔法を覚えた者が僧侶の代わりに冒険者に加わったらしい。


回復魔法を実地で使い慣れる為だそうだ。



「妃殿下が同席されているのは東と西の橋渡し……ですかね?」



やがて、話し合いは終わったらしく、ぞろぞろと帰っていき、ザップがやって来た。



「取り敢えずお疲れ。ザップ、何話してたんだ?」


「あ~そうだな、皆にも関係ある事だし……実はな、ギルドを作ろうって事になったんだ」


「ギルド?」


「あれでしょ、鍛冶ギルドとか商工ギルドとか。で?何のギルドを作る訳?」


「冒険者のギルドさ!」



何だそれは?


ギルドというのは、ある特定の職種が互助の為に行う寄合だ。普通は品物の値崩れを起こさない様にしようとか、新しい技術を共有化する為にある。


冒険者のギルド?


冒険者というのはパーティーを組んでいたとしても、基本は個人の集まりで、物を作る訳でもなければ、自分の技は自分の為にある。共有化はしない。



「よく解らないな」


「つまりよ、例えばパーティーの面子が少ない時、今まではあちこちに声を掛けて、独りでいる奴を入れるとか他のパーティーから引き抜くとかだろ?」


「……ひょっとして人の貸し借りをするって事?」


「そうそう、二組のパーティーで一緒に探索するとかな。それにダンジョンだけじゃなく、近場の村とかが魔物で困ってたとしたら駆除するのさ、勿論料金を貰って」



ザップはエールを傾けながら続ける。



「他にも隊商の護衛とか依頼があった時、報酬が決まっていれば交渉しなくて済むだろ?そういった諸々をギルドが窓口になるのさ」


「それで東の連中もいた訳ね?」



今までは光神教が足枷になって東と西の冒険者には交流がなかった。


東の冒険者にしてみればパーティーの回復役である僧侶どもがこちらを敵視していたのだから交流など出来るはずもなかったのだ。


また、そのせいでダンジョンの中は無法化していて別のパーティーを襲う連中もいた。


光神教が一掃され、僧侶に同調していた連中も王都を去ったらしい。今東の宿屋に残っているのは僧侶を当てにしていなかった冒険者だという。



「光神教がいなくなった今なら新しい事が出来る、やれなかった事が出来るのさ!ギルドで冒険者や傭兵を管理すればダンジョンは無法地帯じゃあなくなるし、護衛の報酬交渉で足許を見られる事も無くなる、というか交渉自体を自分達でしなくてよくなる」



なるほど、ザップが熱く語る訳だ。



「よくそういう事を思い付いたものだな」


「いや、思い付いた訳じゃない、エド達から聞いたんだ」


「エドが考えたのか?」


「違いますよ……僕達の世界には冒険者ギルドが有るんです。この間ザップさんとお喋りしてた時に話をしただけですよ」


「それを真似させて貰うのさ」



下敷きがあるという訳だ。それなら発足時のゴタゴタは少ないだろう。



「……それで妃殿下が同席してたのは何故かしら?」


「ギルドの管理者になって貰う。妃殿下は東西両方の宿屋の面倒をみる事になったんだから適任だろ?」




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