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(更新32)

【サウル】


余の前に縄を掛けられ引き出されたのはマルトと光神教の幹部。


幹部どもの目は虚ろだ。その奥に自分達の敗北に焦りと恐怖の色をにじませているのが判る。


マルトは負けた事を理解しているはずだが、意志の強さか目が死んでない。まだ逆転の目は有ると信じている目だ。


その心意気は称賛に値する。全ての命有る意志持つ者はこうであるべきだ。


命の終わりの瞬間まで抗い足掻く事こそ生物の本質だ。余はそれを褒め称える。



しかしながら、余に敵対心持つ者を赦す事は出来ない。


余に敵対する者、即ちこの国を害する者。数多住まう余の民草を滅ぼさんとする者だ。許容の余地は無い。



「マルトの方、御覧の通りこの様な結果となった。今更申し開きなどは無いだろうな?」



余の言葉にマルトと共に縄を掛けられている光神教の幹部どもが悲痛な叫びをあげながら命乞いをする。



「お前等五月蝿い、余はマルトの方に訊いているのだ」


「……申し開き?申し開きなどあるものか。魔物を全て平らげヒューマンが心安らかに暮らせる世界を創る事こそ光神教徒の務め、光神様の願いじゃ!貴様等魔物の跳梁でどれだけのヒューマンが苦しめられたか!」


「意味が解らん。ヒューマン同士で戦をして勝手に苦しんでいるだけだろう?」


「何を馬鹿な!」


「我等ヒューマン以外の『知的種族』は基本的に手を出しておらんぞ?いくらヒューマンが脆弱とはいえ、多勢に無勢だ、やってられん」



大陸に住む『知的種族』の全人口の過半数がヒューマンだぞ?種族別ならヴァンパイアなど1%がいいところだ。


これは知的種族達が減ったのではない。実数は代わり映えしとらん。単にヒューマンは進化したと同時に爆発的に人口が増加したのだ。


一気に大陸を席巻した種族が『苦しめられた』?何を言ってる?


それをマルトに言ってやった。



「何を言う!貴様等は我等ヒューマンを襲い、餌にしているではないか!ヴァンパイアなど生き血をすする穢らわしい魔物ではないか!」


「……いや、確かに血を吸うが、普通吸い尽くす事は無いぞ?月にマグカップ一杯程度だ、回数を分けて吸血する相手を替えれば誰も死なん」


「ゴブリンやオークは村を襲っておるではないか!」


「あれらは知的種族ではないぞ、マルト。どうも話が噛み合わんな」



だいたい我が国のゴブリンやオークは知的種族に認められたくて努力している。村を襲ったりしていない。他の国?知るか!そこまで面倒見てられるか。



「ヒューマンに平和をもたらす事こそ光神様の宿願!その為に魔物は滅すべし!」


「噛み合わんなぁ、だいたい光神様というのは……」



余が説明しようとした時、従姉上を始めとした数人が近付いてきた。



「陛下、お取り込み中申し訳ありません。『大司教様』に御見せしたい事が御座います、宜しいでしょうか?」



口を開いたのはガンズ、従姉上のお仲間だったな。


ガンズが手を引いてきたのは同じオーガのゴル部隊長、胸の辺りに斬り傷が出来ていたが本人は平気そうだ……オーガだしな。



「なぁガンズ、俺何の為に呼ばれたの?」


「陛下の御前だ、静かに」



いまいちゴルは状況を把握していない様だ、余も似た様なものだが。



「ヴィーシャ、頼む」


「はいはい……マルト大司教、よく御覧あそばせ」



従姉上がゴルの傷口に手をかざすと柔らかな光が現れる。


見る間にゴルの傷口が塞がっていく。これが回復魔法か、見るのは初めてだ、政治利用はしたが。



「な!そ、そんな……そんな馬鹿な!光神様の奇跡を何故魔物が!?」



……ひょっとして?



「マルトの方?まず情報を共有しようではないか。これは回復魔法だ。そして光神教徒の扱う『光神の奇跡』も回復魔法だ、同系列の」



違う違うと駄々をこねる様なマルトに従姉上が術式を可視化してみせる。


多少の違いはあっても長年使っていた術式だ、マルトは茫然と術式を魅入る。



「それから光神様とそなたが呼んでいるのは、そこに居る余の叔父貴の弟子だそうだ。ヒューマンの魔法使い、名は……」


「アラノックだよ。ふ~ん、これはあれだ、長い年月の間に神格化されちゃったんだねぇアラノック。どうも君、マルトだっけ?純粋培養で育ったのかな?居もしない光神様を頭っから信じているみたいだねぇ。アラノックは僕と同じ死霊術師だったんだけど人を助けるのが趣味みたいな男だったんだよ、それで治療の為に組織を造ったのが……」


「叔父貴話が長い!」



駄目だ、叔父貴に口を開かせると面倒くさい。



「まぁ、叔父貴の言う通り。事実がねじまがっていったのであろうよ……だからといって赦せる話ではない」


「そ、そんな、光神様が……死霊術師?しかし……ヒューマンの平和を……回復魔法?……そんなはずは……」



あぁ、マルトの目が虚ろになっていく……



「ヒューマンの平和か、長い年月で拡大解釈されていったのであろうよ」



純粋培養か、叔父貴の言葉は的を得ているな。きっと幼い頃から光神教に入門して……どんな経緯で入門したのかは知らんが、一筋に教えを守り大司教の地位まで登り詰めたのだ、この老婆は。



「さて、話は終わりだ。引っ立てよ!反乱罪に処す。我が国の神殿は取り潰し、教徒は廃教または追放とする」



アドレア・イルベ・ゴース三国は我が国と同盟する際、光神教排斥を約束させた。今頃は教徒達の移動が始まっている事だろう。


同盟国には回復魔法を開示するから『奇跡』は必要無い。


同盟のお陰で今まで我が国に対する防波堤だった三国が、これからは我が国の為の防波堤だ。



回復魔法を開発した従姉上には勲章でもやるか。それとも勘当を解かせてやるか。


……どっちも要らん。と嫌味と一緒に言われそうだ。


引き立てられていくマルトと幹部どもが視界から消えていく。



「殿、お疲れ様で御座います」



奥が余に労いの言葉を掛ける。



「奥よ、うむ、今日より正式に『奥』となったな」


「……殿?結婚式は中断されましたので今一度式のやり直しをせねばなりません」



…………む?


奥の言葉に従姉上が驚いて声をあげる。



「冗談でしょ?また立ちっぱなしで晒し者にならないといけない訳?チビ!私は不参加よ!」



ムカッ!



「……従姉上、人前でチビ呼ばわりは止めろと言ったではないか!」



余は幼年期だぞ!小さいに決まっているだろうが。



「ふん!貴方だって従姉上呼ばわりしてるじゃない!国で一番偉い癖に目下の者に『上』を付けるなんて!変な目で見られるのよ!」


「年上だから敬して『上』付けてるんだろうが!チビ呼ばわりするうちは『上』を付けてやる!」


「何よこの糞チビ!」



ムカムカッ!



「糞は余計だ!いやチビ言うな!」


「……ヴィーシャ帰るぞ。では陛下、ヴィーシャは欠席という事で。失礼致します」



ガンズが従姉上を羽交い締めにして後退っていく。


あれだな、従姉上は抵抗してる振りだな。ヴァンパイアがオーガに引き摺られる訳がない。



「なぁガンズ、傷痕残ってないんだけど?傷の自慢話出来無ねぇぞ?」



一緒に歩いていくゴル部隊長の声が聞こえた。傷自慢か……回復魔法はオーガには不評だな。



「……ヴィーシャさんて、大人しい方だと思ってました」


「奥よ、あれは猫を被っているだけだ、余にはいつもああだ」



どうも従姉上とは会うと口喧嘩になるな。叔父貴といい、従姉上といい、口頭でのコミュニケーションに難が有る。血筋か?



「さ、待たせたな奥よ。式をやり直そうか。者共、辺りを清掃せよ、式を再開する」



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