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(更新28)

【ノラ】


店番をしているミーシャとステラさんとで他愛のない話をしていると、ザップさんがやってきた。



「参ったぜ、また立札だ」



また公爵様はお出かけなのだろうか?


まだ日はあるものの陛下の結婚式が間近だというのに。



「いや、お出かけじゃねぇよ、お出かけじゃねぇんだが十二階層に入れないらしい」



ザップさんの言うには『諸事情により十二階層を一時閉鎖』と書いてあったらしい。



「それは多分魔物を創り変える時間が欲しいのだと思う」



昨日の公爵様とガンズさんのやり取りを軽く教えた。



「ぅ~わ、余計な真似を。再開したら強くなるのかよ」


「いや、戦闘訓練をさせられるはずだ、武芸試合の様な。公爵様にガンズさんが頼んでいた」



助言したせいでこちらが全滅……では割に合わないという事で、骸骨兵立ち会いでの試合形式だとか言っていた。



「ならいいけどよ、しかし暇になっちまったな。姫様の結婚式まで後二週間か、下手に潜ると間に合わなくなるし」



パーティーが大所帯になると浅い階層では稼ぎにならないらしい。


私の場合は主人と相部屋なのと、あまり買い物をしないので苦にはならないが、ガンズさんはオーガらしく大食いで結構食費に使っている様だし、ザップさんは街での情報収集に使うらしい。



「陛下の結婚式って一日で済まないのでしょう?」



ステラが訊く。



「まぁな、まず三日はお祭り騒ぎだろうぜ」



つまり二十日くらいはダンジョンに入らない、と。



「お前ら、儂の店は寄合所じゃないぞ」



奥からクラウスさんが出てきた。口調は迷惑そうだが、目が笑っている。



「そんなに暇なら儂の仕入を手伝ったらどうじゃ?」


「親父さん仕入って?」


「鉱山町に鋼の延べ板をの。それから墓所の森に寄ってくる。護衛兼荷積み人夫じゃ」


「全員でぞろぞろ行くのもなぁ」


「ミーシャも連れて行くからの、何人かは店番を頼みたいんじゃよ」



あぁ、それはいいかもしれない。


私とステラさん、それに主人の三人で店番をすればいい。男性陣は肉体労働。


そう言うと、ザップさんは渋い顔をする。



「そこは希望者優先だろノラ。都合がつかない奴もいるだろうしな」


「仕入の方は三人もいれば充分じゃ。馬車を使うで、そうさな、往復十日かの。明日の昼前に発つで陛下の結婚式には間に合うじゃろ」


「じゃあ食堂で全員から希望を訊くとするか。ノラ、ステラ、手分けして声を掛けに行こう」


「じゃあクラウスさん、ミーシャ、またね」



私達は連れ立って宿屋に戻った。




────────


……で、どうしてこうなった?


揺れる荷馬車二台に分乗して、私達は街道を進んでいる。


ガンズさんが参加するのは解る。外国育ちで王都以外を見てみたい、なるほど。


エドさんも同じ事。それにエドさんはいつもヒューマン組の纏め役なので、息抜きに旅をしたいと言われれば納得。


で……何故主人が混ざっているのか?


チャーリーさんはエドさんに気を使って不参加。ドラスさんは用事があり、ザップさんは肉体労働は趣味じゃないなどと……


……店番、ステラさん以外やらないんじゃないだろうか?


正直ガンズさんとエドさんで護衛も荷積みも足りるのだが。


主人が行くと決めたので必然的に私も一緒に行く事に……




「……ノラ、そんな顔をしないの」



釈然としない私の気分が顔に出ていたらしい。


前の荷馬車にはクラウスさんとエドさんとミーシャが乗っている。こちらの荷馬車はいつもの三人。



「馬車は楽だな、魔国に来る時は急いでいたから景色を楽しむ余裕が無かった」



馭者台に座るガンズさんがのんびりした口調で流れていく景色を見ながら言った。



「クッションを持ってきて正解ね、ノラも気を楽になさい」


「……主人、何故仕入に参加したのか?研究会があったはずでは?」


「気晴らしよ、気晴らし。研究会の方は叔父様に任せるわ、それにガンズは案外口が軽いでしょ?お目付け役は必要よ」


「勘弁してくれヴィーシャ」



情けない調子で大袈裟に答えるガンズさん、二人で笑い合う。


不思議なもので共通点のまるで無い様にみえる二人だが割と仲は良い。



「ヴィーシャは遠出をした事あるか?」


「遠出というか、父の領地から王都へ来た時くらいね。だいぶ前だわ」


「俺と似た様なものだな。戦で国を出たくらいだ」


「そういえば『救国の英雄』だったわね?」


「勘弁してくれ、ゴルの奴も余計な事を……」


「一体何をしたのかしら?詳しく聞かせてくれてもいいんじゃない?」


「……隣国との戦でな。向こうの方が大軍だった。まぁ誰がみても負け試合というやつだ。起死回生の策で俺達オーガ大隊が奇襲をかけて大将首を狙った。で、運良く俺の前に居たからぶん殴ってやった。おしまい」



それだけだ、敵の将軍が俺の前に居た。他の奴でも同じ事をしただろう。ガンズさんは詰まらなそうに言った。



「それで陛下、ラムール先代の王様に誉められてこの籠手をいただいた。その後も俺達に良くして下さったよ。居留地を与えて下さり、大隊専用の兵舎も用意して下さった。俺達の働きに報いているだけと仰っていたが、御恩を忘れた事は無い」



ガンズさんの嬉しそうな、それでいて哀しそうな声を聞きながら、主人は微笑んでいた。



「……それで、ガンズは何故大隊を辞めたの?」


「ゴルが言っただろ『救国の英雄』って。柄じゃないんだ。それに馬鹿王子が大隊を目の敵にしていたからな、特に俺を。俺が出ていけば大隊への風当たりも弱くなる。そう思ったんだが」


「なるほどね」





【エド】


五日目の昼前に鉱山町に到着。


王都に比べたら小さな町に見えるけど、鉱山に地下街があるそうで見た目より広いのだそうだ。


旅をするのも久しぶりだ。


以前……元の世界ではチャーリーとステラの三人で旅から旅の暮らし。あっちの村、こっちの街へ魔物を狩る旅をしていたな。


こちらの世界でもやる事は変わっていない。ただ王都の目の前に大きなダンジョンがあるから旅をする必要が無いだけで。


町を行き交う人々の姿は王都がライカンやビーストマンが多いのに対して、やはりドワーフが圧倒的に多い。それにサイクロプス、ガンズさんのお陰で慣れてきたとはいえ、元の世界で魔物として扱われていた種族が町を闊歩する姿は、違和感を感じる光景だ。


クラウスさんによるとサイクロプスはドワーフと並んで鍛冶に精通しているのだそうだ。だからあちこちに点在する鉱山町にはサイクロプスがいるのだとか。


王都で見掛けないといえば、ここではノームの姿もちらほらと見掛ける。鍛冶以外の商売に従事しているのだという。


ふと、チャーリーの言った『間違い探し』という言葉を思い出す。


僕達の世界とこの世界、鉱山町の風景は変わらない。けれどそこかしこに違いを見付け、あぁここは異世界だと再認識する。


例えばドワーフ、僕が見知っていた人達より頭一つ背が高い。まぁそれでもドワーフは背が低いのだけど。



「おぅい、ここに停めてくれ」



クラウスさんが後ろのガンズさん達の乗る荷馬車へ声を掛ける。町の一角に広めの空き地があった。停車場だという。



「店一軒一軒に馬車を置く土地が足りんでの、少し歩くぞ」



そう言いながらクラウスさんが停車場の管理人に場代を払う。管理人はゴブリンだった。


……これもまた『間違い探し』だ。


思わず口許が緩む。



「エドさん、何か面白いものがありましたか?」



丁度それを見ていたノラさんが僕に訊いてきた。彼女もこういった町は初めてだからだろう。



「いえ。思い出し笑いですよ」



クラウスさんについて行き、五分程歩くと目指す店に着いた。



「兄弟!久しぶりだの!」


「おぉ兄弟!」



クラウスさんに声を掛けてきたのはクラウスさん……?


店にいたのはクラウスさんそっくりのドワーフ。


良く見れば眉の上に小さなホクロがあるけれど、それ以外はそっくりそのまま。



「皆、紹介するぞ。これは儂の一腹児の兄弟、ドルフじゃよ」



こちらのドワーフは一度に二~三人産まれるらしく、一腹児、一腹兄弟と言うらしい。兄・弟の区別は無いのだそうだ。



「ゆっくりしていけるんじゃろ?」


「いや済まん、急ぎでな。遅くなると陛下の結婚式の騒ぎで身動き取れん様になるでの」


「そうか、なら仕方ないの。裏に用意しとるから運んでくれ」



クラウスさんそっくりの口調と声。


これもまた間違い探しだね。


クラウスさんはドルフさんに代金を引渡し、僕達に裏の木箱を運ぶ様に言った。


久しぶりに顔を合わせた兄弟を残して、裏に廻る。


裏には木箱が二十個、山積みにされていた。



「どれ、運ぶか」



ガンズさんが重さを確かめ、二箱持ち上げて歩いて行く。


荷馬車を動かせない為停車場まで運ばないといけない。


ガンズさんを見送ったノラさんが箱に目を向け、少し考えた後で僕に言った。



「エドさん、二人で一箱運びましょう」



女性が一人で運ぶのは大変だ。



「えぇいいですよ」



二人で持ち上げると……かなり重い!


これは僕一人ではきつかったな、ノラさんが提案してくれて正直助かった。



「……お先に」



僕とノラさんがエッチラオッチラ運ぶ横を、ヴィーシャさんが抜いていく……二箱持って。



「す、凄いな」


「主人はヴァンパイアだぞ?」


「ヴァンパイアってあんなに……力持ちなのかい?」



うっかり馬鹿力と云いそうになる。



「ヴァンパイアは……オーガより怪力だ……前が見えなくなるから…二箱だけ運んでいる」



怪力って……


ガンズさんより力持ちなのか?


僕達が一箱運ぶ間にガンズさんとヴィーシャさんに二回抜かされる……二人とも張り合ってないか?


全て運び終えた時、僕達二人は汗だくになっていた。



「よし、お疲れ様。クラウスに声を掛けてこよう」


「ガンズ、ついでに何か皆で食べれる物を買ってきて」



二人とも汗一つかかず平気な顔をしていた。



「凄いですねヴィーシャさん」


「?……あぁ、ついガンズと競争しちゃったわ」


「ガンズさんもだけど……ほとんど小走りだったじゃないですか、どれだけ力持ちなんですか」


「……そうね、H基準でオーガは十人力、ヴァンパイアは二十人力って云われているわね」



に、二十?


こっちの世界でヴァンパイアが魔物扱いでなくて良かった……






ガンズさんが屋台で買ってきたものを食べている間にクラウスさんが帰ってきた。


ドルフさんの見送りを受けて鉱山町を後にする。


三日後、墓所の森に着いた。





【ガンズ】


墓所の森は木々が整然と並ぶ、管理された森だった。


居留地へ続く森の中の道も広く、木漏れ日で森の奥まで見通しがいい。


ここでエルフ達が林業を営んでいるというのがよく解る森だった。



「ミーシャ!元気だったかい?」


「会いたかったよミーシャ。クラウス、娘に良くしてくれて」



エルフの男とライカンの女が居留地の入口で俺達を、というよりミーシャを待っていた。


ミーシャの御両親だと紹介される。



「この連中は儂の冒険者仲間だった者達でな、ミーシャも世話になっとる」


「お噂は聞いております、ミーシャと仲良くしていただいているそうで。さ、皆様今日はゆっくりしていって下さい」



居留地も整然とした造りで、木造の家が並んでいる。エルフとライカンが肩を並べて製材作業をしている。


遠く聴こえる斧を振るう音、山と積まれた材木、共用の厩舎に繋がれた馬、放し飼いの鶏、走り回って遊ぶエルフやライカンの子供達。



「エルフの子供が割と多いな」


「政策でね、エルフの数が少ないから子供を増やすようにしてるって聞いた事があるわ」



あぁ、一族で入国出来たオーガと違い、あちこちから逃げ延びて来たから数が少ないんだな。


長命種のエルフはなかなか増えない。政策として国から言われないと先細りになるだろう。


エルフの子供達を眺めてみると、中にはミーシャと同じく眼鏡を掛けた子や耳に毛の生えた子もいる。ライカンと結ばれたエルフも結構いる様だ。


ミーシャと境遇は同じでも、入植初期に産まれて生活面で余裕が無かった頃に産まれたミーシャと違い、余裕が出来た証拠だ。多少目が悪くても森を出て暮らす必要が無くなった訳だ。


喜ばしい事である反面、幼い頃から親許を離れて暮らすミーシャが哀れだ。


ミーシャはこれから先も両親と森で暮らす事は無いだろう、森で生きる知恵を持っていないのだから。


見ているとミーシャとノラが子供達の輪に入って遊び始めた。



「……たまにはこういう遠出もいいものね」



隣にいたヴィーシャがノラ達を見て言った。



「ミーシャが楽しそうで良かった」


「……ノラもね。あの子の一族はもういないから」



ノラも奴隷狩りに遇わなければこの居留地に辿り着いていたのかもしれない。


今頃は連れ合いを見付けて子供の一人も育てていたのかもしれない。



「まぁ、ノラはヴィーシャに出会えたんだから、何が幸運で何が不運なのか一概には云えないだろうよ」


「……ありがと」



そうだな。ミーシャにしたところでクラウスに育てられたのだから、案外悪くない。



「ミーシャ!お客人方!食事の用意が出来ました。どうぞこちらへ」


「……行くか」


「そうね」



ミーシャの御両親が待つ家に。



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