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(更新27)

【ヴィーシャ】



「……時間も遅いので研究会を終了しましょう。本日はお集まりいただきありがとうございました」



お互い口々にお疲れ様の声を掛け合い、魔法使い達が部屋を出ていく。



「なかなか進みませんな、解っていた事ではありますが」


「国がテコ入れしてくれてもこればかりは……」



公式には今まで誰も開発出来なかった回復魔法、秘匿している光神教が協力してくれるはずもなく、手探りで進めていくしかない。


死霊術の基礎式に精霊魔法の『召喚』が付属するという事で、他の魔法も必要になるかもしれず各系統の専門家が集まったけれど、極少数派である死霊術をまずは皆が覚えなければならず、研究会というより魔法の講習会の様な状態。


資料をまとめて帰るところで叔父様が近寄ってきた。



「お疲れ様ヴィーシャ」


「お疲れ様ですわ叔父様」



研究会の時は男性の身体を使っている叔父様。毎回身体を取り替えずに同じものを研究会で使う様に助言しておく。



「毎回替えると皆様混乱しますからね」


「そうか、気を付けておくよ。ところで話は変わるけど君達のパーティー、十二階層に来たんだね、どうかな?僕の創った合成生物は」


「……どうと言うと?何に関してかしら?」


「あぁ~何て言えばいいかな……戦ってみた感想とか、もし良ければ評価して欲しくてね。なにしろ十二階層に辿り着くパーティーが滅多に居ないし、居ても評価を訊く事が出来なくてね」


「……あの階層、叔父様の失敗作の廃棄場所かと思いましたわ」


「えぇっ!?そんな酷評?」



唖然とした顔で叔父様が訊き返す。自信作だったのかしら?



「参ったなぁ~結構頑張って創ったのに……どこが駄目だったかな?是非教えて欲しいんだけど」


「……教えたりしたら私達が苦労するだけですよね叔父様」


「いやお願いするよ、あれって軍に新しく卸す積もりで創ってたんだ。欠点があれば直していかないと」



研究会に顔を出して、自分の魔導の探求をして、軍に骸骨兵を納入して、更に新しく生物兵器を開発……


肉体的に休む必要の無いリッチだから出来るのだろうけど、詰め込み過ぎじゃないかしら。



「そういう意見なら私よりガンズの方が適任だと思うけど」


「ガンズ?ガンズ君って確かオーガだったよね君のところの。うん、いい示唆をしてくれそうだ、ヴィーシャ紹介してくれたまえさぁ行こうじゃないか」



叔父様が私の手を取ってどんどん先に進む。


……宿屋に居るかしらガンズ。


────────



「公爵様が俺に一体何の用なんだ?」



食堂でのんびりしていたガンズを捕まえて、叔父様は私の部屋に連れてきた。


小声で私に耳打ちするガンズに私も小声で返す。



「十二階層の魔物の事を訊きたいらしいわ」


「あぁ、あのちぐはぐな……」


「ちぐはぐ!?ちぐはぐとは?ガンズ君そこを詳しく聞かせてくれ、何がいけないんだろう?改良点もしくは改善案があるなら是非!」



叔父様の勢いに驚いた顔をしてガンズが答えた。



「はっ、公爵様。まず質問を宜しいでしょうか?」


「何かね?あぁ堅苦しい口調は抜きでいいよ」


「ありがとうございます。公爵様の創られた合成生物ですが、どの様な用途をお考えで創られたのでしょうか?」


「ふむ?軍事用途だ。サウル……陛下は骸骨兵を気に入っておられるが、そして僕の創った骸骨兵はかなり頑張って良い性能になったけど、出来ない事はある。例えば弓兵には向かない、遠距離を視認出来ないからね。まぁエルフ弓兵がいるからそれはいいけれど、奇襲だね今欲しいのは奇襲が出来る兵だ」


「それを合成生物でやらせると?なるほど……では」



ガンズは一息入れてから語り出した。



「まず奇襲には機会をうかがう頭がないといけません、それから経験。百足型と蠍型を相手にしましたがどちらも足りていない様で、人型の上半身が付いているのに、魔物の本能のままに動いていました」



叔父様がむっと唸る。



「それから、やはり人型の上半身があるにもかかわらず武器防具の類いを使っていない。人型の上半身は知識経験を得る頭、武器防具を使う腕と、ただの魔物には無い利点ですが同時に弱点、急所が集まっています。丸腰では簡単に倒せます」



むむっと唸る叔父様。



「これもやはり知識経験、つまり訓練の積み重ねで得られるものです。それから公爵様がお考えの奇襲戦にとって一番重要なのは素早さですが、あれは遅い。基本になっている魔物が奇襲戦より格闘戦向きです。十一階層で『狩蜘蛛』と戦いましたが、こちらの方がまだ奇襲戦向きと言えるでしょう」



むむむっとまたも唸る叔父様。やがて溜め息をついて頭を抱えてしまった。



「はぁ~…参ったなぁ、全然駄目じゃないか。つまりあれだねガンズ君、まず奇襲に向いた魔物を基本にして創り直す。それから人型の頭の中身を詰め込む、武器防具の扱いを教える、訓練で」


「そうなるかと思います。ただ『狩蜘蛛』はお止め下さい、あれは単独で狩をするので戦には不向きです。戦は集団行動ですから」


「とすると、素体にするのは素早くて集団で動けて……」


「隠密性があるとなお良いでしょう」



困った困ったと叔父様が腕を組む。切りがいいところでノラがお茶を運んできた。



「叔父様?その合成生物を開発するのは急ぎなんですの?」


「いや、まだ余裕は有るよ。でも軍事開発は先手先手でやらないと」


「公爵様、因みに骸骨兵はどの様に戦闘知識を与えたのですか?」


「ん?あれはね、優秀な兵士の行動パターンを『転写』して、後はグレゴリウス──サウルの爺やに訓練させてる。けど合成生物に同じものを『転写』したら魔物の身体が上手く動かせなくなってね……上書きされちゃうんだ」



あぁ、上書きされると魔物の身体の動かし方が消える訳ね。


それを聞いたガンズは頭を掻きながら言った。



「……上書きされると元の行動パターンが消えるという事ですか?人型と魔物の両方のパターンを『転写』する事は出来ないのでしょうね」


「……両方?あぁ!そうだよ両方『転写』すればいいんじゃないか!基本的な動きが出来れば後は訓練次第だ」



……出来るんだ。


出来無いと思ったから口にしなかったんだけど。



「ところで公爵様はオーガ大隊をご存知ですか?」


「オーガ大隊……君が所属していたところかい?確か今度国軍に組み込まれたとか聞いたよ」


「オーガ大隊は奇襲戦もこなします。お創りになる合成生物には大隊と連携出来るものに仕上げていただくと戦力が上がるでしょう」


「課題山積みだなぁ、やはり頭が良くないと……今度大隊の人を紹介してよ、話を訊けば参考になるから。あぁそれと……」



叔父様は姿勢を改めてガンズに言った。



「回復魔法に関してお礼を忘れていたね。君のお陰で前進したと言っていい、ありがとう。今現在足踏み状態だから我々の不甲斐なさを恥じるばかりだ」


「いえ、魔法の素人がでしゃばって申し訳ないです」



お互いに頭を何度も下げる様子は本人達は真面目なんだろうけど、端から見ていると変な感じね。


叔父様の話に一区切りついたところで、私はガンズに話し掛ける。



「ガンズ、その素人の視点から何か思うところはないかしら、回復魔法に」


「これ以上俺がでしゃばっていい事かな?……まぁ少し考えていた事はあるが」



そう言って私に回復魔法の術式を視覚化するように頼んできた。


死霊術の基礎式の外周に二組の付属式が放射状に伸びる回復魔法。


ガンズは視覚化した術式を指でなぞる様にして私に訊いた。



「この、付属式がそれぞれ関係しあって魔法が発現するんだよな?」


「そうよ」


「基礎式の事なんだが、付属式を繋げる媒体みたいなものだと理解しているんだが合ってるか?」


「……そうね、基礎式無しには発動しないけど。媒体としての役割は大きいかしらね」



付属式は基礎式無しには発動しない。基礎式を省く事が出来無い以上、術式を維持する魔力をなんとかしないといけない。



「で、思ったんだが基礎式の外周の円に付属式がくっついているだろう?付属式が他の付属式に繋がるのはこの外周上にあるからじゃないのか?」


「ん?ガンズ君、何を言いたいのかな?」


「……だから、今基礎式に『加速・腐食逆転』と『召喚・異世界魔力』の二組が付いている。これにもう一組『召喚・異世界魔力』を増やしても基礎式の維持に使えない。それはこの外周に付けるからだ、と思う。いくつ外周に『召喚・異世界魔力』を付けても全て『加速・腐食逆転』に魔力が流れる」



ガンズは自分の考えを確かめる様に話を続けた。



「基礎式に直接魔力を注ぎ込むには、この外周に二組目の『召喚・異世界魔力』を付けないで……例えば基礎式のど真ん中に付ける事は出来無いのか?」



……基礎式のど真ん中?



「ほら、この真ん中」



ガンズが指を指す。



「外周……『辺』じゃなくて『面』に?」


「あぁ、無理なのか?直接ぶちこめばいいんじゃないかという素人考え……なんだが……?」



私も叔父様もガンズをまじまじと見た。私達の様子にガンズは慌てて謝る。



「すまん。やはり素人が口出す話じゃないな」


「いや、卓見だよガンズ君……基礎式の外周にあるものは連動する。なら外周以外の場所に、という訳だね。面白い、今までそんな事を考えた魔法研究者は居なかったと思うよ。ヴィーシャはどう思う?」


「……そうね。術式の開発、その常識から大きく外れた考え方だわ」



面白いと叔父様は言った。叔父様らしい表現だわ。


基礎式は丸い平面で表される。それは展開図を筆記記録するのに都合がいいから。


だから皆、実際に魔法を使う時も平面な展開図のまま術式を使用していた。


ガンズは術式を立体的に展開してみろと言ったのだ。


術式は基礎式を組んだ後、別に付属式を組んでそれから接続する。魔法使い達はほぼ同時に瞬間的に組み上げる癖をつけているから忘れがちだけど、順を追って説明すればそうなる。


私は目の前に視覚化していた術式を一旦消して、改めて視覚化する。


まずは基礎式。


次に付属式『召喚』『異世界魔力』の組合わせ。


これをまず先にガンズの言う『ど真ん中』へ接続。


そして回復魔法の付属式を外周に接続。


これで発動が成功すれば……


私は叔父様とガンズを順に見た。二人とも期待しているのが判る。大きく息を吸い込む。


失敗してもともと、素人の思い付きなのだから……





………発動。




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