(更新29)
【ザップ】
いよいよ明日!
陛下と姫様の結婚式だ!!
「ザップ殿、浮かれ過ぎでス」
「いやいや、ドラス、お前こそ冷静過ぎってもんだぜ?」
一大イベントだろうが?
国王の結婚式だぞ?
明日からのお祭り騒ぎ、期待しない方がどうかしてるだろ!
「……まぁね、この国にはお祭りって無いから楽しみにするのは解るけど、ちょっと騒ぎ過ぎよ」
「主人、この国に祭りは無いのか?」
「田舎の村なら収穫祭くらいはあるけどね」
「通りが人で溢れかえるのか。面倒だな」
「ガンズさんくらい体格がいいと大変ですね」
……なんだろうな~、テンション低いぞお前ら。
それに比べて。
「ミーシャちゃんと屋台巡りしますよ私は」
「お!いいな俺もまぜて」
ステラとチャーリーは解ってるな。そうそう、お祭りなんだから楽しまなけりゃ!
「オ待チドウサマ」
給仕のリザードマンが料理を運んできた。
今夜は姫様以下、食堂を切り盛りしてる面子が誰も居ない。明日の準備で皆王宮に行っている。
それで姫様の御付きのリザードマン達が臨時で食堂に来ていた。
今のはまだ共通語に慣れていない、頭が蛇の形をしたリザードマンだった。
「……なぁドラス、今のはお前と別種なのか?」
イグアナ顔のドラスが俺を見て目をぱちくりさせる。
「ザップ殿?今のは女性でス、見て判るでショう?」
「女!?……え?顔つきがまるで違うぞ?」
「リザードマンの女性は皆蛇顔でス。男性はイグアナ顔でス。常識でス、ザップ殿」
いや、生まれて初めて見たし。
「ドラス、私も初めて知ったわ……でも確かに物腰が女性よね」
「さすがのザップさんも見分けがつきませんか?」
「女にマメなザップには珍しいな」
うるせぇよ、リザードマンの女なんて守備範囲外だよ。
「我々の間では、女性は睫毛が長い程美人とサれていまス」
「じゃあ、あの子は美人なんだな?」
「はい、姫様御付きでスから」
「因みに、何で睫毛の長さが美人の基準なんだ?」
「……瞬きをシた時あの睫毛がなびく動きが……ソの、色気を感ジるのでス」
そんな事を話していたら、またあの子がエールを運んできた。
「ドウゾ」
エールを手渡しながら俺に流し目をくれて瞬きをする……
……ファサファサっと長い睫毛が揺れた。
おおぅ!
なんとも艶っぽい!
「……ドラス、ありゃあ凄ぇな。俺でも色気を感じたぜ」
「……話が聞こえていたのでショう、ザップ殿の為に実演シてくれまシた」
あの仕草、ビーストマンにも流行らねぇかな?
【サウル】
「状況は?」
「アドレア、イルベ、ゴース各国東側国境に骸骨兵団を各国軍と共同で展開し、迎撃に当たらせております。本日午後イルベ国境にて一合戦が行われましたとの事」
向こうは思いの外進軍が遅いな、足並みが揃っていないらしい。
「諸国連合軍はよもや我等が既に迎撃態勢を整えていたとは知らず、終始我等有利で終えました、損害は軽微でございます」
「暗部より報告、我国王都光神教から諸国連合軍への連絡係、及び諸国連合軍からの細作を処理。更なる捜索を続行中」
「良し。繋ぎをつけさせるな。それから爺には寄せ手を追い払えと伝えよ、ただし深追いはさせるな」
爺であればまぁ間違いは無かろう。
「王都内はどうか?」
「各部隊の配置を完了、事が起き次第制圧にかかれます陛下」
「良し。結婚式の式次第は城下に通達した通りに進めるからな、警備係にはくれぐれも殺気立って露見する事の無い様に注意せよ」
「御意」
さてと、他には何か……
「殿?」
……あったな。
余の前に奥、明日の花嫁が現れた。
「おぉ、奥、美しくなったな。髪が似合っているぞ」
「……ありがとうございます。それで殿、御相談したい事がございます」
なんだ?面倒事じゃ無かろうな?
「以前より光神教の神殿内にリザードマンの諜報部隊を潜らせております」
「……優秀だな。蜥蜴頭がどうやったらヒューマンだけの神殿に居られるのだ?変装しても無理だろうに」
「神殿の高い天井に貼り付いております」
「ヤモリか?」
「肌の色も神殿の内装に合わせておりますので動かなければ発見されません」
「カメレオンか?」
「殿が御望みでありますれば、今すぐ制圧可能でございますが?」
「ありがたい申し出だがそれはいかん」
「殿?妾の手駒にも手柄を立てさせて下され、面目が立ちませぬ」
長老会の一件があるからな、いい目をみさせてやらんと不満が残るか。
「無論、奥の手駒には光神教が動いて一当てした後に内部制圧を任せる。何もせんうちに襲う訳にはいかん、向こうが先に手を出したという事実が必要だからな」
「ではそのように計らいます。ありがとうございますわ殿」
夫婦の語らい終了、我ながら仲睦まじいと自賛する。
さて、明日は結婚式と内乱鎮圧と大陸を二分する防御戦、忙しい事だな。
【ガンズ】
陛下の結婚式当日。
ゴルに請われて臨時で城下警護にかり出された。
「お久しぶりです大隊長」
「久しぶりだなガンズ、今日は頼む……気を付けろ」
大隊長が小声で言った。
「何か留意点がありますか?」
「国王の結婚式など慶事の際に他国などが何らかの騒乱を起こすのは礼に反する行為である事は理解しているな?」
「勿論です、その様な真似は大義名分を失います」
「うむ。故にこの様な警護は本来念の為と謂える。本来ならば、だ。解れ」
「……解りました。では仮想敵の御指示を願います」
「神殿だ」
「了解しました大隊長。では市内警備巡回を開始します」
俺はゴルと連れ立って街中を歩き始めた。
街路の両脇に出店が立ち並ぶ。大勢の人々が行き交い、騒然としている。
王都の住民だけでなく近隣の町や村から陛下の結婚式を観る為に集まった人達で王都の人口は倍以上に膨れ上がっている。
陛下御成婚記念を謳った土産物を売る者。
大樽を開けて振舞い酒を配る者。
既にいい塩梅に酔って陛下万歳を叫ぶ者。
「動くとしたらいつになる?」
「予想では陛下と姫様が誓いの言葉を宣言する辺りとみているぜ」
人混みを抜いながら進む。出来るだけ気が抜けた顔をしながら、雑談をしている様に。
「出て来たら直ぐに情況開始か?」
「いや、先手を打たせてからだ。俺達は後手に回らないとならない」
「ある程度の被害は織り込み済みか……」
嫌な話だ。怪我人以上の被害が出て、初めてこちらが手を出していいという訳だ。
つまり陛下自身が囮。だが仮想敵──有り体に言えば光神教──が陛下へ攻撃の為に近付くには祝っている観客達を排除するしかない。
今俺達の周りにいる何の罪も無い人々の中に大怪我もしくは死ぬ者が出る、それは決定事項という事。
「神殿にいるうちに捕縛しないのか?」
「それだと完全に追い出せないからだとよ」
ゴルは首から下げた護符を見せる。普段は骸骨兵達が連絡を取り合うのに使っているものだ。
「コトが起こったら連絡がくる、俺達はまず不審人物の洗い出しだ」
第二城壁の前に着く。普段なら一般人の流れは少ないが、今日は特別に開放されている為に人混みが凄い。
「ゴル、おそらくだが第二城壁の内側で何か仕掛けていると思う。罠の類いか何か。そうして一般区と分断すれば混乱を大きく出来る」
「あり得るな、婚儀は国民が観えるように王宮の城壁の外で行うからな」
いつもは人通りの少ない区画も出店が並び賑わいをみせている。
ふと、嫌な臭いが微かに漂ってきた。
その臭いは出店が並ぶ大通りの脇道からする。
脇道には防火樽が置かれている。火災があった時に急場で水をかける為のもの。元素魔法使いが消火活動を始めるまでの繋ぎに用いるものだ。
「臭う、油だ」
近寄ると樽から油の臭いを強く感じた。辺りに注意しつつ樽をずらす。
「……ガンズ、これは」
「錬金術……『発火』……いや『爆破』か?」
錬金術の記述術式が樽の側面に描かれ隠されていた。
ゴルが連絡をつける。
「ゴルより隊員各位、第二城壁内商店区画で防火樽に偽装した油樽発見。魔法術式有り。発見次第無力化せよ」
ナイフを使い術式を削り落とす。取り敢えずの処置だが。
「危ねぇところだ、そこらじゅう火の海になるところだ」
【ヴィーシャ】
なんだって私がこんな所にいなければならないのよ。
王宮の城門前、高く大きな台座が据えられている。
その広い台座の端に私は立たされていた。
私の隣には父の名代として兄様が、反対側には叔父様。
私達だけでなく、台座の両端にはドラゴニュートが数人、つまりここにいるのは姫様とチ……陛下の親族というべき者達。
父に勘当されている私はここにいなくていいんじゃないだろうか?というかチ……陛下の結婚式に参列するつもりはなかったけれど、叔父様と兄様にどうしてもと頼まれたら、嫌とは言えない。
それにしてもこの台座は高過ぎだ。
視線を下げれば結婚式を祝う群衆の海、はっきり言って見世物以外の何物でもないわ……
台座の脇、幕を張って隠された空間に目を向けるとエルフ兵やライカン兵達に混じってノラがいる。
兵達は皆ものものしい出で立ち、どうも様子がおかしい。
警備のリザードマン兵は群衆が押し合いをしない様に整理をしている。なら、この幕の内側の兵達は何の為に詰めているのか?
不審に思っていると兄様が耳打ちする。
「気を引き締めておくれ、いざという時はお前が頼りだ」
……どういう事?
警備に携わっていないリザードマン達が楽器を鳴らし、異国的で荘厳な曲を奏で始めた。
ざわめいていた群衆が鎮まり、台座に注目する。
……晒し者だわこれ。
私はまた幕の内側に目を向ける。ノラの姿を探すとエルフ兵に混じり弓を携えているのが見えた。
なんでノラが弓を?
あれはいつも使っている弓ではない。ならエルフ兵から借りた?
何故借りる必要が?
……何かが起こるという事かしら?
やがて曲が高まりをみせて、台座に三人、陛下、姫様、そして仲介役のドラゴニュートが現れた。
人々の喝采が山鳴りの様に響き渡る。
陛下と姫様は先に壇上にいた私達、叔父様の側から一人一人に挨拶と抱擁を交わしていく。
「御結婚おめでとう御座います、姫様……あと陛下」
「従姉上、含みがあるな」
遠目に観ていればちゃんとした挨拶をしましたよチビ。バレませんよ。
陛下が私に抱擁をする。
耳許に口を寄せてきた。
「……今から光神教の連中が此処を襲いにくる。従姉上と叔父貴には防御魔法を頼むぞ」
……は?
「……そんな話聞いてないわよ!」
「それはそうだ、今言った」
鶏みたいに首捻ってシメてやろうかしら?
私の殺気をかわす様にチビが離れると替わりに姫様が抱擁してくる。
「ヴィーシャさん、いつもドラスがお世話になっております。今日は宜しくお願いしますね」
「……ドラスも貴女の子飼だった?」
この娘が何かしているのは薄々感じてはいたけれど、ドラスを使っていたのは知らなかった。
「あれは子飼ではありません。私の……兄ですわ妾腹の」
…………は?
……意味が解らない。
茫然とした私から離れると二人は台座の中央に進んでいく。
ざわめきが消え、静寂が訪れた。




