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(更新21)

【ヴィーシャ】


ダンジョンから戻って、いつもの様に研究書を手にしたらノラに怒られた。


少しは身体を休めて下さいと。



「回復魔法を完成させたいのは解る、が主人、無理をしてはいけない」



……無理はしていないつもりだけど、そう見えるのかしらね。


回復魔法だけではなく転移魔法関連にも手をつけないといけないのだから、休んではいられないと気が焦る。


転移先を観測する魔法か……


手掛かりがまるで無いのよね。


叔父様は手を出すなと言ったけれど、放っておく訳にもいかない。仲間である三人の為なのだから。


取り合えずダンジョンから帰ったら二日程度休む事をノラと約束して眠った。


朝食を済ませるとノラにクラウスの店に誘われた。なんでも店のハーフエルフと友達になったのだとか。


クラウスの店を溜まり場にするのは営業妨害な気がするのだけれど、しばらくクラウスの顔を見ていなかった。


単に店へ行く用事が無かっただけだけど、開業から全く会っていないというのも義理を欠くわね。


丁度遊びに来たステラも一緒に通りの向かいにある店へ足を運んだ。



「ごめんください」


「あ!ノラさんいらっしゃいませ!ダンジョンからお帰りですか?」


「いや帰ったのは昨日。こちらは主人と仲間のステラさん」



お互いに挨拶を交わす。皆似たような年格好だからすぐに打ち解けた。


……まぁ年齢でいったら私だけ離れているけどね。



「クラウスは?元気かしら?」


「よぉヴィーシャの嬢ちゃんか、達者かの?」



丁度奥からクラウスが出て来た。さほどの時が経った訳では無いけれど懐かしい顔だ。



「お久しぶりクラウス。今日は空いているのね?」


「あぁ、公爵様が出掛けとるもんだからヒューマンの冒険者がダンジョンに寄り付かんでな。はよう帰って来て貰わんと商売あがったりじゃ」



あぁ、そういう弊害があるのね?叔父様にも困ったものだわ。


五人でお茶をしながら話に花を咲かせる。特にハーフエルフのミーシャとは魔法論を楽しむ事が出来た。


ハーフエルフはエルフと違い、精霊魔法だけでなく他の系統にも適性がある。錬金術はかじった程度の私にとって専門家の話が聞けたのはありがたかった。



「クラウスはいたか?」



扉を開けて声を掛けたのはガンズだった。



「おぉ、今日は久しぶりな顔が見れる日じゃな」



そうか、ガンズは武器や防具の類を使わないから私と同じで店へ顔を出す理由が無いものね。



「なんだ、女性陣皆で来てたのか……一人増えてる?」



うっかりミーシャまで数えてぽかんとしたガンズの顔を見て皆で笑ってしまった。



「クラウス、ちょっと頼めるか?籠手の手入れをお願いしたいんだ」


「どれ……」



クラウスが籠手を内側が見える様に開けて確かめる。刷毛で汚れを払い、手入れを始めた。


ミーシャが店の奥からガンズの分のカップを出してきてお茶を淹れる。



「ありがとう、ミーシャだったか?」


「よく知ってるわね?」


「ザップが話してたからな。気立てのいい娘がいると」



ガンズを入れてまたよもやま話をしていると、籠手の手入れをしていたクラウスが言った。



「あらかた済んだがガンズ、お主だいぶ手入れを欠かしとったな?ほれ、内側にある紋様、錬金術の紋章陣じゃろ?掠れて消えかかっとる」



クラウスは続けてミーシャに言った。



「ミーシャよ、これはお前さんの仕事じゃ。彫り直してやっとくれ」


「はい親方さん」



クラウスと代わったミーシャが籠手にうんと顔を近付けて中を見る。



「あ~……だいぶ……これは、うん……」



ブツブツと独り言を言いながらタガネと金槌を振ってカツカツと刻みを入れる音を立てる。



「長いこと使ってたからな。磨り減ったんだろう、『錆止め』があまり効かなくなってきてな」


「おいガンズ、儂は錬金術は解らんが、『錆止め』だけではない事くらい解るぞ。紋章の数が多いわい」


「そうか?あまり気にしていなかった」


「大事な籠手じゃなかったの?」



私が訊くとガンズは胸に手を当てて言った。



「大事だとも。この籠手はラムールの先王陛下御存命の頃に武勲の証として賜られた物だ」


「……その割に扱いがぞんざいじゃないかしら?」


「道具は使ってこそだろう?武人の蛮用に耐える造りだ、使い切らなければ先王陛下に悪い」



……そういうものかしら?


まぁ後生大事にする様なものでもないだろうけど。



「……これで出来上がりました!凄いですね『筋力増強』『重量軽減』『機動力加速化』『硬質化』『錆止め』それに『雷撃』まで付いてます」



……はあ?


そんなに術式が組まれてるの?



「あぁそういえば使い始めた頃は少し軽かったかな?」


「何?ひょっとして気付かないで使ってた訳?」


「別に困らないからな。『錆止め』以外無くても」



なんだか凄く勿体無いわ。



「魔法武具として一級品ですよこれは。仮に値段をつけたら天井知らずです。これからはダンジョンから戻る毎に持って来て下さい、お手入れしますから」



ミーシャが頬を膨らませてガンズに説教をする。ハーフエルフの小娘にペコペコ頭を下げるオーガなんてそう見れるものじゃないわね。



「いや、なんか……済まない」



私達はガンズの困った顔を見てつい笑ってしまった。


なかなかいい気分転換だわ。




────────


数日後、中央門のある商業区の書店へ向かう。


書店といっても父が読む農政や経済書などは第二城壁の向こうで私には用がない、 魔法に関する論文や研究書を扱う店だ。


冒険者を生業にしている魔法使いの為にこういった店は第二城壁のこちら側に多い。



「主人、どんな本を探しているのか?」


「特にこれというあてがある訳じゃないわ、なにかしら参考になるものがあればと思ってね」



ノラは手伝うつもりだったのだろうけど、精霊魔法以外知らないノラに参考資料を探せとは頼めない。


端から棚を見てまわり、錬金術の棚に来た。


錬金術というと、この前知り合ったミーシャが思い浮かぶ。


一冊手に入れて、解らない事はミーシャに訊くのもいいかもしれない。一人で理解しようとするより早いだろう。


手近に有った一冊の代金を支払い店を出る。



「……あら?」



前方に大きな人影が見えた。二人で小走りに駆け寄って声を掛ける。



「ガンズ、商業区にいるなんて珍しいわね」



私に声を掛けられて振り向いたのはガンズ……ではなかった。



「……まぁ!友人と間違えましたわ、ご免なさい」



よく見てみればガンズと違い腰布が黒い毛皮だった。ガンズのは白い虎皮。


一礼して宿屋へ帰ろうとする私達にそのオーガが声をあげる。



「ガンズを知っているのかい!お嬢さん方、あいつ今何処にいるかわかるかな?」


「……知り合いの方かしら?」


「同郷の者だよ、王都にいればすぐ会えるかと思ってたんだが住処を知らなくてな」



オーガは頭を掻きながら困った様に言う。



「でしたらご案内しますわ、同じ宿屋に居ますから」



三人で宿屋に着くとガンズは裏の空き地にいた。宿屋が兵舎だった頃、訓練用に使われていた場所だという。


ガンズは籠手をはめ、素振りをしていた。


ミーシャに調節されたからだろう、一振り一振りが以前より速く重みをかんじるわ。


連れて来たオーガが私達に向かって静かにする様に口許に指を当てると、荷物袋から籠手を出してはめる。



「ぉらああぁ!!」



いきなりオーガがガンズに飛び掛かっていく!?


振り向いたガンズが驚きに目を見開くがそれも一瞬!相手が突き出す拳を籠手でいなし直後に迎撃の拳を振る。


籠手と籠手がぶつかり合う金属音が響き、二人の激しい攻防がしばらく続いた。





「よぅガンズ!せいがでるな!」


「ゴル!お前何処からわいてきた!?」



先程の激しさはどこにいったのか、ガンズとオーガが肩を抱き合い笑い合った。



「あぁヴィーシャ、ノラ、紹介する。こいつはゴル、大隊で同僚だった奴だ」


「びっくりしたわ、いきなり殴り合うなんて」


「ガンズさんを狙う敵を連れて来てしまったのかと思った」



オーガの親愛の情を確かめる姿は心臓に悪いわね!


場所を食堂に改めて、二人が近況を話し合う。


私達二人はお邪魔かと思ってその場を後にしようとしたけれど、ゴルというオーガは驚かせたお詫びだと言って四人分のエールとつまみを頼んだ。



「昔からこういう悪戯が好きなんだゴルは」


「はっは!ガンズお前他人の事言えるのかよ?」



聞けば二人は十年来の付き合いだそうだ。軍隊生活の中での十年、苦楽を共にした同僚。



「で?ゴル、何をしに来た?まだ居留地は出来上がっていないだろう?」


「居留地は心配無い、俺達より先にミノタウロスや他の種族が進めていたからな。俺が王都に来たのは王様に喚ばれたのさ」


「陛下に?」


「あぁ、大隊全員はまだ無理だが、俺の部隊をまず使ってもらう為に先行した」


「……きな臭いな?」


「あぁきな臭い。きな臭いと云えばラムールの話は聞いたか?」


「なんだ?」


「馬鹿王子、いや馬鹿王様か。やってくれたよ全く。王権を返上して光神教の法皇に国ごとくれてやったんだと」



………は?


ちょっと待って?



「今じゃあラムールの名を棄てて『光神法国』だとよ、ひねりの無い国名だぜ」


「……墓の下の先王陛下はお嘆きだろう」


「ラムールの居留地を捨てて正解だった、大隊長や族長達からお前にはくれぐれも礼を言ってくれって頼まれたよ」


「よせよ、当たり前の事だ」


「話は替わるが随分と組み手の腕があがったな、振りが速くなった」


「ん?多分籠手を手入れしたからだ。向かいの店に錬金術の出来るハーフエルフの娘がいてな。そうだ、隊の皆の籠手も診て貰うといい」


「そりゃいいな、錬金術師がいるのか」


「代金ははずんでやれよ?」



その後、結構な量のエールを呑んでゴル部隊長は帰っていった。


別れの際、ゴルが言った。



「もし戦が始まる様なら大隊に戻ってこいよガンズ」


「もしかしたらな、まぁ期待するな」


「頼むぜ、ラムール救国の英雄が居なくちゃしまらねぇよ。じゃあまたな!」



……救国の英雄?


私はまじまじとガンズの顔を見上げた。きょとんとした顔でガンズが私を見返す。



「どうした?何を見てるんだヴィーシャ?」


「救国の英雄の顔を」


「よせよ、ゴルは大袈裟なんだ」


「何をしたの?」


「武人がやる事は一つだ。戦で敵将をぶん殴った、それだけ」



ふうん……?


ま、そのうち聞かせて貰うわ。



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