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(更新17)

【ガンズ】


清々しい朝だ!


雲一つ無い青空、澄んだ空気、小鳥達の声……


昨夜は物凄く分厚い雲が空を覆い、これは嵐になるかもしれないと思っていたが、明けてみればこの通りの晴天。


薄暗いダンジョンから出ている時くらい明るい日差しを浴びたいものだからな。



さて朝飯にするか、と部屋を出ると。



「……おはようガンズ」


「おはようございます……」


「……眠い」



全然清々しさを感じさせない声がした。


見ればヴィーシャ、ノラ、ステラ。昨日クラウスの店を手伝いに一緒だった三人だ。


全員目に隈をつけて明らかに寝不足らしい。



「おはよう。昨夜は三人で遊んでいたのか?だいぶくたびれているみたいだが」



ダンジョン明けの休暇中に憂さ晴らしをするなとは言わないが、程々にしないと休みの意味が無い。


クラウスの手伝いで疲れただろうから夜は早く休んだものと思っていた。



「……そんなんじゃないわ」


「取り合えず朝御飯にしよう、ガンズさんに説明するのはその後で」



ノラに促され食堂へ。


朝飯を食っている最中にも、三人は生欠伸が止まらない。ステラなど食べながら半分寝ている。



「随分ひどいな、三人とも話が急ぎじゃないなら、食べたら寝た方がいい」


「……そうさせてもらうわ」



三人と別れて、クラウスの店に行く。


店の前にはうちの男衆が揃っていて、丁度品物を積んだ荷馬車がやって来るところだった。



「おはようございますガンズさん」


「よ、旦那も来たのかい?」



エドとザップが声を掛けてくる。


荷馬車の上から品物を下ろす。この荷馬車は剣や手斧、ナイフなどが積まれていた。



「取り合えず裏の倉庫に運んでくれ」



クラウスに従い皆木箱を運ぶ。俺は大ぶりの剣を抱えて裏へ回った。



「ガンズさんステラ達は来ないのかい?」



チャーリーが訊いてきた。



「なんだか寝不足みたいでな、誘わなかった。昨日手伝ってくれたしな」



荷馬車が空になると丁度次の荷馬車がやってくる。



「晴れて良かったぜ、夜中は雲が凄かったからな」


「俺も今日は嵐になるかと心配してた」



今度は雑貨を積んでいた。クラウスが店の中に運ぶよう指示を出している。



「雑貨はもう一台分来るからの。そっちは倉庫に運んどくれ」



昼飯を挟んで午後は品出しをする。ようやく店らしくなってきた。



「ガンズ、倉庫に入れた武器をいくつか店にだしてくれ、あぁ皆、鎧が到着じゃ」



……夕方。作業を終えて店の扉を閉める。


棚を埋める様々な雑貨、衣装台に飾り付けられた鎧、壁に掛けられた剣、磨きあげられたカウンター……



「いい感じじゃねぇか親父さん」



カウンターにもたれてザップが辺りを見渡す。



「まぁな。後は折を見て裏に鍛冶場をこさえるさ、今日は皆ご苦労さん。助かったわい」



俺達は店を後にした。




────────


数日が経った。


その間にクラウスの店が開店した。なかなかいいスタートを切った様で、連日それなりに客が店にいる。


丁度この通りは西門に繋がっていて、東門のヒューマン冒険者もこの通りを使う。


彼等にしてみればダンジョンの手前で足りない物を調達するのに都合がいい店だ、クラウスは元々ヒューマンのパーティーにいたから顔馴染みも多い。


光神教の僧侶もさすがに他種族の店を使うなとは言えない様だ。


今日はダンジョンへ潜る。


宿屋からゾロゾロと出てくる俺達を見て、店の前を掃除していたクラウスが手を振る。俺達も手を振り返す。


なんだかいい気分だ。



「いいもんですね、手を振ってくれる人がいるって」



エドの言葉に頷く。



「さて、準備万端か皆?」



いつもの様にダンジョンの前でザップが声を掛け、順番に中へ入っていく。俺は一番後ろだ。


順番待ちをしている間、ふと、俺は思い出した。


そういえばヴィーシャ達、何か話があったんじゃなかったか?


なんだかんだで今日まで三人と会わない日が続いた。俺もうっかり忘れていたから……


前にいるヴィーシャに声を掛ける。



「ヴィーシャ、何か話があったんじゃなかったか?」



ヴィーシャがこちらを向くと、彼女は胸の前で可視化させた術式を展開してみせた。



「……!」



驚きに声が出そうになる。思わず目を疑った。


ヴィーシャは直ぐに術式を消して、人差し指を口に当てる。


そのままダンジョンに入っていった。


今の術式は……


俺は頭を振るとヴィーシャに続いた。




────────


十階層を抜ける。


ドラスがトログロダイトを狩りたいと言い出したが、ザップが止めた。


さすがにアレを背負いながら先へは進めない。狩りをするなら帰り道で余裕がある時に、という事になった。



「さぁ、初めての十階層越えだ。気を付けろ。事前情報が無ぇんだから」



ザップが言うには、ここまで来るパーティーは殆どいないらしい。


僧侶のいるパーティーでも厳しい、と言うよりヒューマンだけのパーティーでは消耗が激しく、また俺達の様に倒した魔物を食材に使わないらしく、携帯食が切れる前に帰還するそうだ。


ゆっくりと階段を降りていく。


十一階層への扉は隙間から光が漏れていた。



「中は明るいのか?」


「松明や燭台の明るさじゃないですよ?」



今までの階層は基本真っ暗だった。たまに苔や茸が光っているくらいで光源と呼べる程ではなかった。


これはそんな明るさではない。



「……物音はしていない、開けるぞ?」



ザップがゆっくりと扉を開ける。



「なんだこりゃ?」



皆の後に続き、扉をくぐると……


目の前は森だった。


……森の中?


扉から続く小道。


木々の間を小鳥がさえずりながら飛んでいく。


あちこちから木漏れ日が差して下草を照らし、開けたところには花が咲いている。


俺は天井を見た。


太陽……ではない。


輝く球体が浮かんでいて暖かく照らしている。


一瞬、外に出たのかと思ったが、外ではない証拠に天井がある。


巨大な半球状の空間だ。




「……俺には公爵様が何考えてるのか、さっぱり解らねぇ」



呆然としたザップが言った。



「ヴィーシャ、公爵様は色々な研究の為にダンジョンを造ったんだよな?」


「……えぇ、そうね……ここは野外を想定した実験場……なのかしら?」


「という事は、これから先には山とか海とか……街とかも?」


「ぅわ考えたくねぇ~。実験なんて外でやりゃいいじゃねぇか、なんでわざわざ造るんだ」


「まともにこんな場所を造るとしたら、一体どれだけ時間とお金が掛かるんでしょうね?」



エドもチャーリーも呆れ声だ。



「水の音がシまスよ?」



ドラスの指差す方角から確かに水音が聴こえる。かなり大きい。



「行ってみるか」



水場を確保出来るのはありがたい。十階層は水浸しだったが飲み水にはしたくなかった。




水音の方角へ向かう。


次第に滝の様な音が大きくなり、その姿が現れた。



「……滝かねぇ、これ」



天井近くに開いた穴から水がどうどうと流れ落ち、足元は滝壺の様だ。きれいな水が川になって流れ出している。



「これは、十階層から流れてきてはいないな。どう見ても」



ノラの言う通り、目測で十階層よりずっと上に穴がある。



「十階層とは別の場所よここは。多分転移陣が階段のどこかにあったのね」



ヴィーシャは簡単に言っているが、転移とやらを誰も肌に感じていなかったと思う。


ドラスが口に水を含む。



「明らかに十階層とは水質が違いまス」



……十階層の水、飲んでいたのかお前?



「取り合えず、水は確保出来た様ね、川沿いに進んでみる?」


「地図作るのを考えたらさっきの道に戻った方がいいんだが、どうしたもんかな?」


「あの道とこの川って、そのうち交差しませんか?」



話し合った結果、しばらく川沿いに進み、道と交差するか確かめる事にした。


滝壺を離れ、川を下る。水際のせいで岩や木の根が苔むして滑りやすい。


特にザップは地図を書きながらの為に足をとられて何度も転びそうになっていた。





「ちょっと休憩しようや、足が痛くなってきたぜ」



時間的にも昼時、河原に皆座り込み、携帯食を食べる。


皆、慣れない山歩きをした様なくたびれ方だ。



「……道にぶつかるとしたらどの辺だと思う?」



俺の質問にザップは辺りを見渡し、指を差した。



「あそこ、川が曲がっているだろ?ぶつかるとしたらあの先辺りだな。道を見付けたら扉に戻る方向に行って繋がってるか確かめよう」



ザップの見立て通りに程なく道があった。


ご丁寧に川には橋が架けられている。その橋は一先ずおいて、道を戻る方向へ進む。



「……ちょっと待て」



ザップの声に足を止めた。皆が口を閉ざす。


……ギチギチと軋む様な音。


森の奥から近寄ってくる気配。



「隠れろ」



皆が木の陰や下草にしゃがみ、目を凝らす。


ギチギチ軋る音に混ざってドスッ……ドスッと地面を踏み締める音が聴こえてきた。


……蟹か?


小山の様にでかい蟹がギチギチと関節を軋ませながら歩いていた。



「どうする?」


「様子見だな」



蟹は土をほじくっては口に運び、ジャリジャリと音を立てて食っている。



「ああいうのは襲ってこないとは思うが、戦う事になったら硬そうだな」



ちょっと待ってろとザップが一人、立ち上がって蟹に姿を見せる。蟹はザップを無視して土を食べ続けた。



「大丈夫そうだ。手を出さなけりゃ襲ってこないだろう」




────────


蟹を素通りして道を進むと扉が見えてきた。ザップが地図に書き込むのを待って来た道を戻る。先程の蟹はまだそこにいて土を食べていた。



「この蟹、食えるかな?」


「あんな硬そうな甲羅、剣じゃ歯が立たないですよ」


「魔法で燃やすとか?」


「……火事になるわよ」



俺が殴ってみてもよかったが、それで甲羅にヒビが入ったら素材にはならないだろう。結局、無視して橋を渡った。


道なりにしばらく行くと頭上から風切り音が聴こえてきた。



「危ない!」



ギュンッと音を立てて俺に突っ込んで来る。俺は籠手をはめた腕を振って弾き返した。腕に衝撃を感じ、勢いでたたらを踏む。


籠手に当たり地面に墜ちたソレは……蜻蛉?


かなりでかい。俺の伸ばした腕くらいある。小さな子供なら空中に拐われそうだ。


おまけに鎌の様な脚まである。


じたばたと地面でもがくソレを足で踏み潰しとどめをさす。チャーリーが叫んだ。



「まだ来るぞ!」



見上げればソレは群れをなして襲いかかってきた。


エドが咄嗟に盾を構えるが勢いに押されて転がるはめになった。



「ヴィーシャ!」


「分かってる『氷弾』!」



いくつもの氷の弾が飛んでいく。何匹かが当たり墜落する。



「皆さん体を低くして下さい!……『雷網』!」



ステラが網の目になった雷の束を空中に走らせた。次々に墜ちていく。


残りのヤツを皆で叩き落とし、なんとか全滅させる事が出来た。



「皆、大丈夫か?」


「ってぇ!ザックリ切られた」



一見、蜻蛉の様だがあの鎌は鋭く、皆あちこちに切り傷が出来ている。



「参ったなこりゃ」



エド、チャーリー、そしてステラの三人は元の世界の回復魔法が使えるので自己回復が出来るそうだ。


俺とヴィーシャは怪我をしていなかったが、問題はザップ達の怪我。三人に頼むか……



「……大丈夫よ」



ヴィーシャがザップに近寄り魔法を展開する。


柔らかな光がヴィーシャの掌に集まるとザップの傷口がみるまに塞がっていく。


……ダンジョンに入る時ヴィーシャが俺に見せたのはやはり。



「お、おいヴィーシャ、大丈夫なのか?倒れたりしないだろうな?」


「まだ慣れていないけど大丈夫よ」



ヴィーシャは次々に皆の傷を治していった。さすがに全てを終わらせた時には額に汗が浮かんでいたが、以前の様にふらつく事はない。


一息つくヴィーシャに声を掛ける。



「完成させたのかヴィーシャ?」



ヴィーシャはしかし、眉をひそめた。



「完成させた……というより『教えて貰った』っていうのが正しいわね」


「誰に?」


「……叔父様」



叔父様というと公爵様か?



「どうやって?」


「……この間私の部屋に訪ねて来られたわ、私が未完成ながら回復魔法を編み出した事を聞いて興味を持ったらしいわ」


「聞いた?誰から?」



ヴィーシャが冷ややかな目を俺に向ける。



「貴方がチビ……ゴホン、陛下に教えたんでしょ。で、陛下が叔父様に」



そうか、ヴィーシャと陛下は従姉弟なのだから公爵様は二人の叔父か。



「叔父様に……ヒントを貰って、というよりほとんど答だったけど、教えて貰った訳」


「つまり公爵様は回復魔法を既に完成させていたのか?」


「……えぇ、あの方はとっくの昔にね」



ヴィーシャは大きな溜め息をついた。



「……とっくの昔に完成させて、公表するの忘れていたのよ……あ~腹立つ!なんで叔父様はいつもああなのかしら!」



いつも……?



「魔法の研究に関しては凄い方よ、認めるわ。でも知識を増やす事以外はどうでもいいって人なのよ。お陰でステラには天然呆け扱いよ!私まで同類にみられたわ!」



あー。


なんか……済まん。



「いいのよ。ガンズのお陰で研究が進んだんだし。覚えてる?あの展開図に『召喚』があったでしょ?」


「ノラが言っていたやつか」


「『召喚』の先に付いていた付属式は物じゃなくて場所……他の平行世界だったのよ……ステラ達の」



俺は思わずステラ達を見た。


彼女達の世界は体内に魔力が少なく大気に魔力が充満していると以前ヴィーシャが考察していた。



「世界を『召喚』だと?」


「と言っても、『召喚』されるのは魔力だけだけど。あれが無いと術者の自前の魔力だけで回復魔法を使うから消耗が激しいのよ。で、魔力を他の世界から引っ張って肩替わりさせる訳ね」



ヴィーシャが俺を見てフッと笑う。



「帰ったら詳しい話をするわ」



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