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第六十七話 基準の違う「十数メートル」

―シラーナル星系 第三惑星 E2大陸


海都標準時 9月21日 午前11時頃



水気をすっかり失ってひび割れた大地の上を、乾ききった風が吹き抜ける。頭上には平たい傘のようにオルムディアのコロニー体がそびえ立ち、傘の裏側から胞子を撒き散らしているのが遠目からでも煙のように見えた。

その「キノコ」の下で守られるように生えているのは、エストライの領内で見られる大木ほどの大きさの「ハナ」。天を突きさすかのように鋭く伸びる四本に分かれた紅い花がぽつぽつと茎から芽生えている。その花弁が散ると、枝分かれした茎は長く細く地面へと伸びて、花は大きな繭のような実をつけた。その大きさは数メートルから数十メートルまで様々で、中には一つの花弁から小さな繭が幾つも実っていることもある。


群生したその繭の花々の中で、そのうちの一つが大きく脈打った。白い繊維質の繭の内側で、紅い光がドクンドクンと鼓動している。徐々にその動きが大きく、間隔は短くなっていき、内側から針のような黒い装甲が繭を引き割いて飛び出した。繭を縦に割るように黒い針が動くと、それまで中身を大切に守っていた繭が役目を終え、いともたやすく二つに裂ける。そこから身を乗り出したのは、幾らか光沢のある黒々とした鎧を纏った個体。平たい体に六本の脚を持ち、大きなハサミと鋭く長い尾で攻撃する陸上個体だった。


繭から出て暫くの間は表面の装甲がまだ固まりきっていない。だから乾燥させるためにその個体は繭の上でじっとしていた。

乾燥しきった風がキノコやハナを揺らし、そのいびつな形のせいでうめき声をあげる。他に動物もいない遠くから地鳴りだけが響く、酷く静かで、無機質なのに有機的な空間。

そんな静寂を、鈍い破裂音がつんざいた。

陸上個体がその赤い目で音の発信源を捉えるより早く、水気を含んだ柔らかい装甲に砲弾が突き刺さる。間髪入れずに信管が起爆してハナと繭が吹き飛び、巻き上げられた土ぼこりが円形に広がった。


周りのハナが一斉に反応する。

みるみるうちに茎が黒く色付き、少しでも表面を装甲で覆おうと慌てて動き始めた。同時についさっきまで大人しかった繭が、次々と紅く脈打ち始める。バリッバリッという繭が裂ける音があちこちで響いた。

直後、未だ収まらぬ土煙を貫いて、4発の砲弾が寸分たがわず撃ち込まれる。飛翔中に砲弾は外殻をパカッと割って、子弾をまき散らしながら一斉に着弾し、轟音と爆風で辺り一帯を薙ぎ払った。


「目標の消失を確認、次の地点へ移動する」

土ぼこりから離れるように、4つの影が低いエンジン音を響かせながら進んでいく。

パーツのほとんどが直線で構成された角ばった車体に、後頭部の伸びた砲塔、マズルが若干太くなった円柱状の砲身に、悪路をものともせずに走破する無限軌道。

宇宙文明というには些か古典的過ぎるほどの「戦車」がそこにはあった。

「先行偵察部隊より通信、『前方より「コーン」及び「サスアリ」多数接近』とのことです」

存外静かな車内で、通信手が無線機に耳を傾けて報告する。

「数は?」

その隣に座る車長が装填する弾種を選びながら尋ねた。右手は砲の操作ハンドルに掛けられていて、準備万端といった様子だ。

「…コーンは約40、サスアリは100体を超えるかと」

レーダー画面を睨みつけ、ざっと概算して通信手は答える。どうせ後から数は増えるのだ、きっちり数えてもしょうがない。

「十分だ。進路変更、地点3‐1に移動する。上の連中にも言っとけ!」

「「了解」」

車長の命令に、通信手と操縦手の二人が同時に返事を返す。この戦車の定員は3名、一番忙しいのは車長だった。

操縦手がシフトレバーを倒し、操作用のレバーを押し込むと車体はスムーズに右へ曲がる。後続の戦車もぞれに続き、速度を上げながら離脱していった。


その進路に合わせるように、前から偵察部隊が合流しに戻ってくるのがレーダーに映る。彼らの駆る機動戦闘車は基本的に装輪式で、段差や悪路に対してはホバーで走破できる便利な代物だ。

さらに低空を航宙機の編隊が大気を引き裂く爆音を鳴らしながら飛んでいく。林のように立ち並ぶ白いキノコの茎を器用にかわしながら一気に高度を上げ、置き土産として懸架された爆弾を切り離して立ち去った。

少し後に地響きと轟音が遠くから聞こえ、キノコが一本スローモーションのように倒れる。


無線機の会話も喧しい。

『こちら第32小隊、誘導に成功、地点3‐3に誘導する。支援求む』

『こちら第261偵察小隊、花畑を発見、地点クエ2‐5』

『第68戦隊鷹峰(たかみね)より第261偵察小隊へ、了解、これより砲撃を開始する。退避されたし』

『第902航宙隊より第32小隊へ、進行方向2時の方向より接近する個体群を確認、掃除はいるか?送レ』

『第428駆逐隊より第24小隊へ、地点3‐1上空に到達。いつでもどうぞ』


自分たちへ宛てられた最後の通信だけを通信手は読み上げた。

「早いな…たく、空飛べる奴らは動きが早くていいよなぁ」

ため息交じりに車長がぼやく。

それを左から右に聞き流しながら、通信手の視線は要請と報告と、時折ジョークが入り混じるログに加えてレーダー画面の間を忙しく行ったり来たりしていた。

そんなレーダー画面に赤い光点が幾つも灯る。

「…!前方1時の方向に感あり!数30、速い!」

「躱せんな。左に進路変更、各車射撃用意」

語気を強める通信手に対して、車長の命令は思いの外冷静だった。

小隊は縦列の隊形を崩すことなく前進を続け、砲塔だけ迎え撃つ準備をする。

「走行間射撃用意、各車自由射撃。射程に収め次第撃て」

落ち着いた声色のまま、車長は砲の引き金に手を掛ける。無限軌道が段差に乗り上げるたびに座席は揺れて、照準器の中に映る景色もガタガタと震えが止まらない。しかし、照準を示す中心の十字と赤い円は、吸い付くようにコーンの群れのど真ん中にピタリと合っていた。


車長が飛び出したハンドルのような引き金を思い切り引くと、主砲から炸裂する破裂音と同時に砲弾が放たれる。重力に引かれて微妙に落下するそれは、鋭く尖った殻を持つ十数メートル程度のコーンの群れに向かって吸い込まれていった。

命中する直前で爆発した砲弾は、群れの行く手を阻むと同時に熱と爆風、そして飛散する破片でダメージを与える。

他の3両も立て続けに砲弾を撃ち出し、一瞬車体が反対側に沈み込んだ。しかしそんなことをものともせずに車体は前進を続け、コーンの群れを撃ち減らしながら指定された開けた地点に到達する。

そこはちょうどキノコが生えておらず、薄汚れた空が広がっていた。


後方から空飛ぶコーンと這い回るサスアリの群れが迫ってくる。

小隊の車列は砲撃を止め、一直線に反対側へと急いだ。

群れがその空き地の真ん中あたりまで来た時、空からミサイルが降ってきた。次々と爆炎と煙が立ち上り、群れを丸ごと飲み込んで消し飛ばす。

それが収まった頃、上空から通信が入った。

『こちら第428駆逐隊、当該地点の小型個体及び陸上個体の殲滅を確認』

陸上戦力にとっては大物なコーンやサスアリだが、艦艇から見れば「小型」だ。

「…やっぱ空飛ぶのってずりぃよなぁ…」

車長はため息をついてまたぼやいた。

「ですねぇ…」

今度ばかりは、通信手も同意せざるを得なかった。


陽動作戦は、始まったばかりである。



オマケ



兵器解説

六八式主力戦車

全長:10.2m(砲身含む)

車体長:7.5m

乗員:3名(車長、通信手、操縦手)

主砲:128mm電磁併用式高初速滑空砲

副武装:同軸機銃1丁、無人銃座1丁


エストライが保有している現行の主力戦車。

引斥偏向装置の応用たるホバー機構を備え、通常走行は無限軌道で行うが障害物を乗り越える際などに補助的に使用できる。これによって従来の戦車よりも高い機動性を持つが、エンジン出力の都合上長時間の使用は困難。

主砲は大気中での使用を前提とされているため、陽電子砲ではなく実体弾砲を採用している。

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