第六十三話 読めぬ思考
―シラーナル星系 第三惑星
海都標準時 9月21日 午前8時17分頃
見渡す限り白い網で覆われた星の表面が、節々で赤く脈打っている。まるでその一つ一つが連動しているかのように、紅い光が次々と打ち寄せる波となって広がっていった。
「弾着―今!」
その赤い輝きの一つを、一条に収束した閃光が貫く。
ザクロのように弾けた接合部を貫通してなお有り余るエネルギーの奔流は、道中の白い構造体を焼き、砕き、衝撃波で吹き飛ばして惑星本来の地盤へと突き刺さった。
直後、地震と見まがうほどの振動と共に地面が盛り上がり、弾け飛ぶ。凄まじい爆風が土煙をまとって円形に広がり、白い大樹の幹のような構造体を薙ぎ倒した。空に向かって傘のように広がったコロニー体が、地面が揺れるほどの衝撃で崩れ落ちる。
「…反応消失。ハブと見られる接合部の破壊を確認しました」
戦艦穿峰の艦橋に、電測士の報告が響く。
彼が見つめているディスプレイから、赤く縁取られた光点が一つ消えた。
「これで8つ目か…中核の絞り込みはまだか?」
艦長が少し伸びてきた口髭を触る。その声にはうっすらと疲労の色が滲んでいた。
「…まだ掴めていません。中核からの一方通行ではなく、双方向で信号を送っているようで…もうしばらくかかりそうです」
視線を下げて、少し申し訳なさそうに穿峰は答える。
「気にするな、乙四が粗方個体を片付けたからな。邪魔は入らない、一個づつ潰していけばいい」
自分の考えを整理する意味も含めて、艦長は一つ息を吐いた。
窓から見える星の表面に青い光束が再び降り注ぐ。
別働隊の鷹峰達が発砲したのだろう。8基の三連装砲から放たれた青い閃光が螺旋を描き、とりわけ明るい光となって一直線に突き進んでいく。大気を引き裂きながら飛んでいったそれは、紅く光る接合部を砕き、空から見えるほどの粉塵を上げて菌糸の中に沈み込んでいった。
直後に大きな爆炎と煙が噴き上がり、周りの構造体がガラガラと崩れていく。
地中に埋まっていたハブが強引に掘り起こされ、打ち砕かれて機能を停止した。
これで9個目だ。
穿峰はもう一度構造体全体のエネルギー反応を観測する。
彼女のシステム内では、地表を覆い尽くすコロニーを構成する接合部に流れる電気信号が可視化されていた。幾重にも重なった不織布の繊維のように、広がっているそれは所々が強く瞬いている。
そのハブとなる接合部から末端へ、上方へ、他のハブへと絡み合い、一つのネットワークを作り上げていた。
人の脳細胞と同じように。
先ほどまでと同様に、信号の流れはコロニー全体に満遍なく広がっている。
今回もハズレか、そう思い艦長に報告しようとした瞬間。
流れが、変わった。
広がっていた反応が、一箇所に集まっていく。発信源ではなく、ハブでもない。
空に広がるコロニーを支えている、傘のような柱同士の中間点。エルディアから提供された本来の地形データからすると、中規模の湖があった場所に信号が集まっていく。
「信号に異常あり!」
穿峰は艦長の方を勢いよく振りむいた。
声をかけられた艦長と、次のハブへ狙いを定めていた戦術長が何事かと振り返る。
「どうした?」
「信号が一箇所に集まっています。北緯127、西経24。地点チコ3の4、その地下です!」
読み取った情報をそのまま艦長へ投げかける。
この間にも反応は少しずつ強くなってきていた。
「当該地点より重力震、エネルギー反応共に増大!方位106、距離8000!」
今度は電測士が大きな声をあげる。
「両舷増速!取り舵!」
艦長の号令が響く。
航海士が操舵輪を回すより一歩早く、何かが地上から飛び出した。




