第六十話 鉄の鳥の巣
―シラーナル星系 第五惑星軌道
海都標準時 9月21日 午前7時20分
海底で息を潜めていた艦が内側から少しずつ目覚めようとしていた頃、龍鳳たちは傷ついた艦載機たちの収容と整備に追われていた。
焦げた塗装と空になったパイロンをぶら下げて飛行甲板に降り立つ無人機の後ろでは、第三惑星と思しき小さな光の点が映る。その周りではチラチラと赤や橙の光が瞬いていた。もしも宇宙空間でも音が聞こえるとすれば、遥か遠くの花火大会のように聞こえたことだろう。
星系外縁の戦闘は既に終結していた。僅かに生き残った個体は第三惑星へと撤退し、周辺の哨戒は少数の駆逐隊と第八から借り受けた第83巡洋戦隊が引き継いでいる。第四投射艦隊の任務は当初の目的通り、シラーナルⅢの制宙権奪取に集約されつつあった。
先行している第41戦隊こと弦鐘たちは、尚も湧き出してくる残存個体相手に砲撃戦を繰り広げている。第68戦隊の穿峰たちも同様だ。
龍鳳達航空戦隊の役目はその援護ということになるが、空母の主兵装である艦載機は消耗品だ。一度の出撃のたびに毎回補給と整備が必要になってくる。強力な兵科である一方で手間がかかるのだ。
格納庫では整備員や車両、整備用のロボットなどが慌ただしく行きかっていた。軽傷な機体は誘導の元、整備台まで自走し、それができない機体は運搬用のカーゴに載せられて連れられて行く。注意を促す黄色い回転灯の明かりと、ホイッスルやブザーの音が庫内に響きわたっていた。エレベーターも忙しなく上下を繰り返している。補給と再整備を終えた小綺麗な機体を飛行甲板へ押し上げた帰りに、やっとの思いで着艦した傷だらけの機体を下ろす。
「先にこっちに配管回してくれ、あとそいつだけなんだ!」
「左上げるぞ、翼の付け根にチェーン掛けとけ」
「エンジン試運転終わりました!いつでも出せます!」
めくれ上がった金属を削り取る甲高い音に負けないくらい大きく、整備科の作業員たちの声が飛び交っていた。
所属の書かれたヘルメットは積み重なった擦り傷と汚れに覆われ、煌々と輝く作業灯に照らされて鈍色の光を放つ。
整備科と一括りにされているが、実体は特定分野の職人集団である。航宙機は精密機器だ、それぞれの分野のエキスパートたちが連携して初めて、まともな戦力として勘定できるようになるような代物だった。当然のことながら、無人機だろうが有人機だろうがそこは変わらない。
紺色のごわついた作業着を着た若者が、吹き飛んだ尾翼の付け根を削り取る。金属が焼ける匂いが漂う中、別の作業員がエンジンノズルを棒状の電灯で照らし、眼を皿のようにして傷やヒビがないかを探していた。向こう側では甲冑型のコアブロック装甲が取り外され、新品が吊り下げられたまま固定されていく。
飛ぶのは航宙機であり、パイロットだ。しかし、それを飛ばしているのは整備科だった。
格納庫が熱と機械音の戦場だとすれば、空母の艦橋は命令と電子音が響く戦場と言えるだろう。
「402飛宙隊全機、補給完了。先行機、発艦準備完了しました」
「401甲宙隊が着艦許可を求めています。送迎役の421飛宙隊は祥鳳へ向かいます」
龍鳳が発着艦する機体を追いかけ、運用を把握するために目線を忙しく泳がせている。その横で通信士が、帰投する機体の所属を確認しながら周りの空母に連絡を取っていた。
「第三次攻撃隊、交戦開始した模様!」
その報告を遮るように、電測士が声を上げる。
レーダーが星図を更新する音が一定間隔で部屋に響き、入電があるたびに通信卓が通知音を奏でた。
「始まったか…」
艦長席でカロントは静かに声を漏らす。
一秒ごとに変わる星図の中で、青い光点が一斉に動き始めた。
短くなりました…申し訳ないです…!




