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第五十四話 休憩終わり

―フルト星系 第四惑星軌道


海都標準時 午前2時20分ごろ



一進一退の攻防が続くシラーナルを他所に、フルトでは退屈なほど時間がゆっくりと流れていた。

元々の防衛地点だったフルトⅣを眼前に見据え、50隻程度の艦隊がその軌道をのんびりと周回している。早い話が彼らは現状暇だった。

第八要撃艦隊はあくまで待ち受けるための艦隊で、自分たちから他所へ斬り込むのには向いていない。やれと言われればできはするだろうが、艦の性能を鑑みても他の艦隊と連携を取るのが難しいだろう。

第九強襲艦隊に至っては、そもそも対艦戦闘自体が考慮外だ。もちろん自衛や護衛はできるが、裏を返さずとも自衛程度の戦闘能力しか持っていない。


「手こずってんのかね…」

そんな暇をしている艦隊の一隻、第九強襲艦隊旗艦の風早(かざはや)の艦長室。生活感に溢れた部屋の主人であるイラクサはため息混じりに呟いた。

工作艦や医療艦を伴って、フルトに到着したのが大体15時間前である。戦闘が終わった第八の艦艇の、修理や補給なんかも終わっている。シラーナルが速攻勝負になると思っていたので急いでいたが、今思えばもっとゆっくり進めても良かったかも知れない。

第四投射艦隊(四投)の主力と第68戦隊(便利屋)投入してこれだとすると、空恐ろしいですね」

ほとんど無意識のうちに滑り出た言葉を、報告がてら雑談に来ていた副長が拾った。

言葉とは裏腹に口元は弛んでいる。そこまで深刻に受け止めているわけでは無さそうだ。

「思ったよりもあのコロニーが固いとかかな」

手持ち無沙汰で端末を弄りながら、同じように軽く返す。

「痺れを切らして星ごと破砕するのは勘弁願いたいですね…」

副長がやれやれと首を左右に振る。

流石に命令上やらないはずだが、やろうと思えばできるだけの能力を持っているのが第六攻塞艦隊(六塞)所属艦艇の恐ろしいところだ。


「いくらなんでもそりゃないでしょ。私らが着く頃には穴ボコだらけになってるかもだけど」

「そうなってたらダメなんですって」

そんな呑気な雰囲気に、突然机の通信端末の音が割って入ってきた。

発信元は龍鳳(りゅうほう)で、映像通信を求めている。そこはかとなく嫌な気配をひしひしと感じながら、軽く身だしなみを整えて応じた。

映像が投影されると案の定というべきか、若干表情の曇ったカロントが映し出される。この時点で、そこはかとなく覚えていた嫌な予感は、嫌な確信に変わりつつあった。


『状況が変わった』

映像が安定するや否や、何の前置きもなくカロントは言った。

『乙四から揚陸の準備をしてほしい、と通信があった直後に68も乙四もアラートを出し始めている。安定するまでもうしばらくかかりそうだ』

画面の向こうでため息を吐きつつ首を振るのが見える。

ここまで長丁場になると、流石のカロントでも疲れてくるらしい。

「また新型?」

既に空母型や艦載機型といった新型個体がシラーナルでは確認されている。奴らの進化速度には目を見張るものがあった。

『シラーナルⅢ周辺の個体はもう半分も残っていない。今更数体の新型個体がでてきたところで、戦局が変わるとも思えんな』

そう言うとカロントは肩をすくめた。

それから少し深刻な口調で続ける。

『コロニーが動いた。いや、起きたと言った方が正確か』

「今まで寝てたの?」

思わず体が震えた。

ジルヨから始まって、フルトにシラーナルと、合計すれば一万体近い数の餐界個体が確認された。その間に、大型個体、コロニー形成の超大型、空母型に艦載機型…。ここ一週間かそこらで、新型個体が次々と出てきている。

見なかっただけで元々いたのか、前の会議でスズナが言っていたように、こっちを見よう見まねで一から作っているのかは知らない。

居眠り状態でこれだとすると、完全に覚醒すればどうなるか分かったものではない。


『起きたというのはあくまで比喩だ。実際は表面の丸い接合部一つ一つが独立して動いていたんだろう。個体を生産し、生き残りからデータを集め、また違う個体を作る。まあそんなところだろう』

映像の向こうでカロントが頭をポリポリと掻いているのが見える。

「それがどうなったの?」

肝心なことを聞けていない。

動いたと言っても、いったい何がどうなっているというのか。

『そうだった。龍鳳』

カロントが、画角の外側に向かって声をかけた。どうやらサブフレームの龍鳳も一緒らしい。

そうすると、これまでカロントしか映っていなかった映像に、変わり果てた姿のシラーナルⅢが映し出される。

最初に資料としてもらった画像と違い、赤い光が強く、物々しい雰囲気をこれでもかと醸し出していた。


「…なるほどね。んで、こいつをどうしたいわけ?」

単にまだ時間がかかるから待て、そう言いたいわけじゃないだろう。それだけならわざわざ映像通信にする理由がない。

『…コアが地下にある可能性が高い』

一瞬目を閉じてからカロントはそう言った。

『降りろとは言わない。ただ、降りられるかどうかを確認してほしい』


「一番嫌な仕事じゃん」

ため息混じりにそう呟いた。

『他に頼める奴が居るか?』

画面の向こうのカロントは、表情一つ変えずに宣った。

どうやら休憩は終わりらしい。






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