第五十二話 生ぬるい風
―シラーナル星系 第三惑星軌道
海都標準時 9月21日 午前1時47分
穿峰の艦橋でけたたましい警報音が鳴り響く少し前、惑星の反対側では熾烈な砲撃戦が展開されていた。
惑星表面を覆う、複雑に絡み合った白い構造体。その網を抜け出すようにして数えきれないほどの小型個体が吐き出されてくる。形は不ぞろい、連携もまばら、その上どこか大きさも小ぶりに見えた。
放射状に展開した小型個体たちのさらに奥では、惑星を背にして基本個体や少数の大型個体が戦列を組んで待ち構えている。こちらも今まで交戦した個体たちより一回りほど体格が小さく、光弾の威力も低い。
「…流石に息切れしたようですね」
陣形の中央に居座る弦鐘の艦橋で、静かに艦長は呟いた。
視線の先にあったのは、窓の上にあるメインモニター。無数の紅く光る眼が映像越しにこちらを見つめているが、大きさの故か威圧感はあまり感じない。
「本隊右翼下方より、小型個体多数近づく。数46」
電測士の目が、予測より数秒の遅れと共に襲い来る小型個体の群れを投影星図上で捉える。
数は少なく、速度も遅い。
「本戦隊は砲撃続行。迎撃は駆逐に任せます」
「了解。第41戦隊全艦、攻撃目標に変更なし。第431及び第432駆逐隊は対空戦闘用意」
下した命令を弦鐘が近くの僚艦へと伝達する。
その間にも艦橋のはるか上を何発かの光弾がすり抜けていった。どうやら体が小さいと照準も甘くなるようだ。
お返しとばかりに主砲が轟く。放たれた8発の青い閃光は小型個体の群れを無視して突き進み、後方に陣取った基本個体の戦列を襲った。ミサイルを重視していようと、主砲はれっきとした戦艦級である。通常の基本個体ですら一発一発が致命打だ。そんな砲撃を一回りも小ぶりな個体が二発ずつ喰らえばひとたまりもない。胴体をえぐり取られ、跡形もなく宇宙の塵と化した。
今度は、先ほど難を逃れた小型個体の群れにミサイルの雨が降りかかる。元々大した迎撃手段を持たず、頼みの綱の速力すら劣化している急造品に抗う術はなかった。複合レーダーで正確に誘導されたミサイルは、示し合わせたかのように同時に小型個体の群れを消し飛ばす。
「敵反応減少中、残存数6割」
次々と消えていく赤色の反応を見ながら、電測士が報告する。
「第68戦隊より入電、『掃討作戦は順調、現在約3割』とのこと」
左手で耳にヘッドフォンを押し当てながら、通信長が送られてきた内容を読み上げる。
艦長は自分の席に配置されたディスプレイに目を落とした。光学モニターに映し出される惑星の輪郭が、ところどころ赤い火花のように明滅している。その光をバックに、航空機型の編隊が大型個体に突進していくのがちらりと映った。
どうやら向こうの作戦もうまく事が進んでいるらしい。
「…VLS、40から52番までハッチ開け、目標、散開中の小型個体」
その間にも戦術長は黙々と自分の仕事をこなしていた。
手元のディスプレイに投影された光点を、ザっと左手の指で囲って弦鐘に目標を指示する。右手はその間何をしているかと言えば、卓上に並んだスイッチをカチカチと起こしていた。
弦鐘は目標とする個体を光学的に観測すると、すぐにミサイルに個体の速度や予測進路といった諸元を書き込んでいく。ミサイル側の準備ができるにつれ、戦術長が見るディスプレイの光点に次々と黄色い枠が描き足されていった。準備が整ってから、彼女は口を開く。
「射線クリア、照準よし」
弦鐘の声を聞いて、戦術長は念の為卓上のコンソールを確認する。
万が一ハッチが閉まったままだと大変なことになるからだ。発射管側にもセーフティーがあるとはいえ、発射前の確認は義務付けられていた。
「VLS発射始め、前方VLS再装填」
きちんと確認した後、戦術長が号令をかける。
押しボタン式のスイッチを入れると、砲塔付近の舷側から一斉にミサイルが飛び出していった。
放たれたミサイルは橙色の軌跡を残して、それぞれ決められた個体へと吸い寄せられるように飛んでいく。途中でスラスターを吹かし、ノズルを曲げ、巧みに進路を調整しながら真正面からぶつかりにいった。
「…だんちゃーく、今!」
電測士の声と同時に、暗闇の宇宙が一瞬だけ明るく照らされる。
その一瞬後に、投影された星図から次々と赤い光点が消えていった。
盾を減らされた大型個体や基本個体が、反撃とばかりに砲火を集中させてくる。しかし、砲撃のために開口部にエネルギーを集め始めた瞬間を航宙機隊は逃さなかった。
接近した格闘戦を重視する甲冑型は、更なる拿捕を予防するため防空に回されている。代わりに大型の相手を任されたのは、一撃離脱特化の柳星だった。基本個体の戦列に強引に割り込んで開口部の真正面に滑り込む。翼部に備えられたスラスターをフルに活用し、無人機ならではのマルチタスクで一瞬で照準から発射までを難なくこなした。後は機体を90度回転させ、爆炎を背景に離脱するだけである。
本来の一撃離脱ではないものの、奇襲と発砲直前に阻止できる分有効な戦法だった。
「敵反応さらに減少、残存数5割」
投影された星図を覗きながら、電測士が報告する。
数時間前までびっしりとあった赤い反応は、撃ち抜かれ、散り散りにされた結果すっかりまばらになっていた。
「順調ですね。そろそろいいでしょう、龍鳳に打電。『防衛個体の半数を殲滅、揚陸の準備されたし』」
今でこそ落ち着いているが、いつ事情が変わるとも限らない。今のうちに第九が惑星地表に降下して、生存者がいないことが確認できれば、このまま巣ごと破壊してしまいたい、というのが艦長の本音だった。
しかし、予定とはそううまく進まないものである。
「…ッ構造体より高エネルギー反応検出!」
普段とは打って変わって焦った様子で、弦鐘が声を上げた。
同時に戦術卓と電測卓がうるさいほどの警報音を奏でる。画面は赤く明滅し、「脅威検出」の文字が踊っていた。
「まさか…砲撃!?」
艦長は思わず立ち上がる。
惑星規模のコロニーから放たれる攻撃だ。ビームだろうがなんだろうが、艦隊に深刻な損害を与えることは想像に難くない。
「オルム群、進路変更!」
「超大型の反応確認!構造体全体…いえ、惑星内部にも活性化反応あり!」
続け様に電測士と戦術長が警報音に負けじと声を張り上げた。
察したのか弦鐘が音量を絞る。危機感を煽る音こそなくなったが、赤く光る各所のモニターが緊急事態であることを変わらず訴えていた。
お知らせ
AIの使用に関して
先日、小説家になろうの運営様からのお知らせに、「AI利用状況設定の必須化」というものが告知されました。
それに伴い、本作品においてAIをどのように使っているかを共有しておきたいと思います。
まず、本作品に関しましては、運営により定義された4段階の使用状況の中でも、「間接使用」に該当すると考えています。
利用しているのは「ChatGTP」で、設定の整理及び各話のプロットの設定、また本文の校正などに使用しています。
しかしながら、本文の内容は作者自身が夜なべしながら手打ちで入力しており、AIが作成した文章ではありません。また、根幹となる設定や人物描写などもAIに作ってもらったわけではありません。
その他ご質問などございましたら、お気軽にコメント下さい。
これからもこの世界のいく末を見守ってくだされば幸いです。




