第四十九話 破城槌
―シラーナル星系 第三惑星から約5.3光秒
海都標準時 9月21日 午前1時20分
惑星の影をゆっくりと十隻ほどの艦隊が航行していた。
艦首を鋭く前へ突き出し、推力を抑えたまま惑星へ近づいていく。周りの艦に自分の存在を知らせる、舷側の航行灯だけが小さく光っていた。
「乙四任務部隊、交戦開始した模様!」
電測士が投影された星図を見ながら声を上げる。
星図上では惑星の反対側に集まった光点から、おびただしい数の飛翔体反応が放たれていた。一拍置いてから惑星の輪郭が明滅したのが艦橋の窓越しに見えた。その瞬きが収まった頃、通信卓から着信を知らせる電子音が鳴り響いた。
「龍鳳より入電。『構造体の脅威を排除されたし、非侵食域には十分注意せよ』」
素早く卓を操作し、内容を読み取った通信士が艦長の方を向く。
目の前に広がる惑星の表面には、菌糸のような網目状の構造が根を張っていた。その結節点は紅く脈動し、時折全体がまるで血管かのように波打つ。防衛用の個体の姿は全く見られない。
手筈通り乙四が存分に注意を引いているようだった。
「簡単に言ってくれるな…星にびったり張り付いたあんなのを中身傷つけずに削れってか」
命令内容を聞いた艦長は深々とため息を吐く。
星ごと破砕するのであれば話は簡単だ。流石に一撃とはいかないだろうが、穿峰の艦首砲であればこの一個戦隊で三分の二はえぐり取れる。最も、その星は確実に使い物にならなくなってしまうだろうが。
作戦概要には納得しているし、政治的に星ごと吹き飛ばすと不味いことも理解している。それはそれとして、実際にやるのは簡単でないことぐらいはわかってほしかった。金槌一本でできることには限界がある。
「全砲門開け。目標、構造体接合部。艦首砲は使うなって指示だからな。多少手間だが主砲で決めるぞ」
やれと言われた以上、引き受けた以上、最大限努力するしかない。覚悟を決めて艦長は命令を出した。
どんなつくりをしているのかは知らないが、オルムディア個体の中枢は大体赤く光っているところと相場が決まっている。数こそ多いが相手は動かない星で、さらに反対側に展開したミサイル戦艦が降らす雨の対処に躍起になっていた。それに、完全に構造体が根を下ろし侵食された土地で人間が生存できるはずがない。無事な部分さえ外せば、多少砲弾が過貫通して地面を抉ったところで作戦上問題はない。
そう考えると少し気が楽になった。
「了解。主砲塔指向、弾種榴弾。精密照準、攻撃目標、敵構造体接合部。友軍射線同期」
戦術長が淡々とコンソールを叩いて手順をこなしていく。
艦橋の窓から見下ろせる位置にある砲塔が、重々しく旋回しながらゆっくりと砲身を持ち上げた。
「第二戦速、取舵20、左軸転10」
艦体後部や下部の砲も使えるように、航海士は速度を一定に保ったまま艦の角度を修正する。
照準をアシストするように艦全体が回り、砲門の正面に惑星のほうが滑らかに移動した。他の艦も散開しながらそれぞれ照準を合わせている。
「測敵良し、射線上及び加害範囲付近に友軍艦無し…計算終了、全艦射撃用意、良し!」
穿峰は目線を遠くへ向けたまま、前半を誰ともなしに呟いた後、突然こちらへ意識を戻してそういった。
「全艦撃ち方始め」
こちらを振り返った穿峰と目線を一瞬合わせ、艦長は号令をかけた。
「撃ちー方ー始め!」
それを聞くや否や戦術長は命令を復唱し、右手の引き金を引く。
ピタリと狙いのついていた砲門から、一瞬の閃光と共に砲弾が飛び出した。艦体を揺らす重低音が一拍遅れて艦橋に届く。放たれた砲弾はわずかに重力に引かれ、網目状の接合部に吸い込まれるように命中した。砲弾が突き刺さると同時に爆発し、黒ずんだ外殻がはじけ飛ぶ。乾いた木の根が裂けるように、中から赤い何かが飛び散った。
「効果あり!」
光学モニターをじっと見つめていた電測士が、その様子を見て声を上げる。
装填の終わった主砲が続けて二射目を叩き込む、弾け飛んだ外殻のさらに奥に砲弾が飛び込み、さらに奥深くに突き刺さった脈動していた器官ごと内部構造を吹き飛ばした。爆炎が吹き上がり、管のような何かがちぎれ飛ぶのが一瞬だけ見える。
惑星を覆う結合部のあちらこちらで爆炎と閃光が瞬き、痙攣するように網目が振動した。
「敵反応多数出現!」
電測士の焦ったような声が艦橋へ響く。
投影された星図の中で、先ほどまで無反応だった惑星からわらわらと赤い光点があふれ出してきた。戦術長が見ている光学モニターの中でも、赤い結節点が次々と明滅を始める。まるで痛みに反応しているようだった。惑星の反対側からも乙四に対峙していた個体群も、一部がこちらへ向かって来ているのが映る。艦載機型と思しき小型の反応が、網の下側からハチか何かのように一斉にこちらへやってきた。
「…ようやく気づいたか」
艦長が低く呟く。声に焦りの色はなかった。
予想通り、むしろ遅いぐらいだ。巣を攻撃されて反撃に出ない生き物はほぼ存在しない。
「各艦対空戦闘用意。駆逐隊前へ、本戦隊は砲撃続行!」
命令が矢継ぎ早に飛ぶ。
艦隊前方では、秋月型が散開しながら前へ出始めていた。小型であるが故の高機動を活かし、迫り来る個体群との間へ割り込むように展開していく。
第68戦隊はなおも速度を落とさず、惑星軌道へ向けて砲撃を続けていた。最初は表面を削るだけだった砲撃も、繰り返すごとに内部へ深く食い込み始めていた。
投影された星図の中で、構造体が徐々に欠けていく。
崩れ落ちていく構造物のさらに奥、地中に深く根を下ろした球状の塊の中で、これまでより強く紅い光が瞬いた。
オマケ
艦艇解説
穿峰型高速打撃戦艦
全長:492m
武装:46.3cm三連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔
4基12門(上部前方2基 後方1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計48セル
(上部と下部に24セルずつ)
多目的投射機 8基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基
80cm艦首固定式外部展開型爆縮砲
艦載機搭載数 4機
同型艦4隻
基本的に重火力を運用する第六攻塞艦隊の中でも機動力に優れた艦艇。
大半のエストライ艦艇と異なり、機関から異なる。エルディア由来の四次元爆縮式位相機関を搭載し、従来の艦首砲を超える火力を運用できる。
一方で安定的な高出力稼働には向いていないため、主砲を連続で発砲する場合は実体弾を主軸にする必要がある。




