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第四十六話 失って気づく物

―シラーナル星系外縁部から11.3光秒


海都標準時 9月20日 午後9時14分


恒星と恒星の間は相当に広い。星間物質や小惑星がたくさんある星系内部の喧騒を抜ければ、全方向に広がるはるか遠くの恒星の光とそれを覆いつくす暗闇がひたすらに続いている。

そんなだたっぴろい空間を、弾倉を空にした甲冑たちが同じように翼の下を寂しくした航空機型に背負われて飛んでいた。小型であるが故に航続距離と最高速度に限界のある甲冑型は、移動中はこうして航空機型に半ば相乗りする形で移動するのが常態化している。そのために柳星(りゅうせい)や六八式輸送機には格納式のハンドルが翼部にわざわざ取り付けられているほどだ。

その編隊の進行方向に、どこかのっぺりとした大型艦が何隻も音もなく居座っていた。


少なくとも外から見る限りは。


「前方より編隊接近。機体コード照合、七二式は第44戦隊、伊勢(いせ)所属、柳星は本艦所属機です」

正面から近づいてくる光点をモニター上で確認し、管制官が声を上げる。

消耗した機体は巡季(めぐき)型や門瀬(かどせ)型といった前線に近い艦が回収することが多い。しかし、そうした半分が母艦で残りの半分が巡洋艦や戦艦、といった艦は格納庫の容量に限界がある。第一波の攻撃を終えた機体のうち、比較的損傷の少ない隊はこうして後方の正規空母まで帰還することはままあることだった。


普段なら超光速通信を使って手隙の艦に宙隊を回し、応急修理を終えた機体はこちらへ戻している。

ただ今回の場合はそうもいかない、後方の龍鳳(りゅうほう)達母艦群と前線の間を発光信号を使って連絡する必要があり、どうもスムーズにいきそうになかった。

お互いにお互いの状況を把握するのに時間がかかる上、発光信号はそこまで複雑なメッセージを送るのに適しているわけでもない。おかげで、発艦した機体が墜ちてもないのに帰ってこない、逆に発艦トラブルで着艦したい機体が渋滞する、なんて事態を引き起こしている。


ただでさえ甲冑型は航空機型の送迎なしで移動するのに向いていない。最低でも一個宙隊8機を移送するのに4機の航空機型を用意しなければならない上に、巡季型は飛行甲板がほぼ着艦専用で航空機型の発艦は強引にやっても一機ずつが限界だった。

そもそも柳星はエレベーターに収まらないので露天修理になる。少なくとも交戦中の艦にやらせていいことではない。砲撃の回避機動でも取ろうものなら、整備士ごと機体が強制的に発艦するはめになる。被弾でもした日には目も当てられないことになるのは明白だった。

仕方ないので航空機型は全機、門瀬型まで下がらせ、その帰投中の編隊を捕まえては、格納庫に収まらない分の甲冑型を便乗させて送ってもらう、という強硬策に出たようだった。


その結果、旗艦の龍鳳は所属がバラバラの機体や、前線から送られてくる数十秒から数分遅れの情報を元に、全体の調整に追われている。

「第三次攻撃隊6個宙隊、発艦準備完了とのこと」

近くにいる他の空母とは、普段通りに通信できている。単にオルムに位置を悟られないようにしたいだけだからだ。

「中継艦晴月(はれつき)から発光信号、『門瀬より、補修部材減少、補給求む』だそうです」

問題は前線で、今もこうして連絡を取ってはいるものの、あまりに長い文は送れないため正確な把握が難しい。


「…攻撃隊の発艦は少し待たせる。43戦にいる宙隊をこっちに下がらせてからだ。門瀬には六八式で部品を送る、積載準備」

その只中でカロントは次々と指示を出していく。

横にはサブフレームの龍鳳がいて、彼女も発光信号を読み解きながら投影された星図を更新していた。

「前方の柳星が着艦許可を求めています」

管制官がモニターを見つめたまま声を出す。

先ほどの編隊はもうかなり近くまできていた。龍鳳は一旦発艦を止め、今は帰ってきた機体の受け皿になっている。

「着艦を許可する」

カロントが許可を出すと、管制官は龍鳳の方に着艦機の管制を引き継いだ。


甲板にゆっくりと機体が近づいてくる。ところどころに焦げ跡があり、背負っている甲冑型も傷だらけだ。甲板に存在する引力に引かれながら、時折スラスターを吹かして減速しつつ高度を下げる。胴体から飛び出した着陸脚が甲板に接地すると、エンジンノズルから出ていた炎が一段と弱まった。完全に停止すると、翼から甲冑が降りてきて自力でエレベーターまで歩いていく。その後を追いかけて柳星が移動すると、後続の機体が同じようにアプローチに入ってきていた。






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