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ー幕間ー 飛んできた港

「ロイレスト文明」(仮称)について


複数存在する「先史文明」の中でも、とりわけ謎の多い文明。

そもそも自称自体が不明であり、種族がどんな姿をしていたのかもわかっていない。

遺物の分析から少なくとも統率された軍隊を持ち、広大な勢力圏を有していたことはわかっているものの、それほどの国力を有した文明がなぜ今存在しないのかはわかっていない。

回収できた記録媒体についても、大半のデータが消去あるいは破壊されおり、重要と思われるものはほとんど残されていなかった。

ちなみに仮称の元となった「ロイレスト」だが、当初国家あるいは文明の名前だと思われたものの、翻訳が進んだ結果文脈からすると料理の一種であることが判明した。結果的に誤訳ではあったものの、少なくとも食事が必要な種族であり、食材を加工して複数の料理を制作する文化が存在する文明であることが明らかになった。


ー出典:Nelt百科事典


―-海皇都から銀河中心部方向へ1420光年


ラーレ星雲 航行警戒区域内

キト16星系 第二惑星

調査ポイント8-2地点


翠暦3172年3月13日 海都標準時 午前6時頃


見渡す限り荒れ果てた不毛の大地、薄灰色と黒色だけが地平線まで広がっている。地殻変動によって生み出された稜線は、雨にも風にもさらされることなく、生み出されたままの荒々しい鋭さを保っていた。

その山脈に明らかに不自然な構造物が食い込んでいる。周りの地形の様子から察するに、もともとここに存在したというよりも「墜落した」と表現したほうが正確だろう。

「…間違いない…こいつは空を飛べる…」

その構造物の周りの地面をスキャンした地質学者は、ディスプレイを一瞥して呟いた。

宇宙服のヘルメット越しに目の前に投影されたディスプレイには、地面に刻まれた溝や穴の輪郭が強調され、どれくらいの質量のものがどれほどの速度で動いた結果生まれたものなのかが詳細に映し出されている。

少なくとも人が住むのには全く向いていない環境だが、空気も水もないこの星では地面の痕跡はそうそう消えることはない。にわかには信じがたいが、目の前の山のような大きさの何かが空、それも宇宙を飛んでいたことの確かな証拠が地面に深々と刻まれていた。


「どう見ますかな?」

切り立った山肌の上から、エルディア人の考古学者が調査隊の隊長に尋ねる。

立っている場所は丁度構造物と山脈の衝突点で、大きくえぐられた山肌が当時の衝撃の大きさをそのままの形で残していた。

『ざっくり見た感じだと、艦首…でいいのか?まあいい。突っ込んでる側を上げようとしながらも間に合わず墜ちた感じだな』

ヘルメットのレシーバーから返事が返ってくる。

外側から観察したところ、どうやらこの構造物はとても横長だったようだ。そして、進行方向にまっすぐ山脈に突っ込んだ形と考えられた。

「同感ですね。単なる落下にしては周辺の破壊痕が少ない。最大限衝撃を和らげようとしたように思えます」

この星の重力自体はそこまで強くないが、それでも宇宙から数kmもの物体がそのまま落下すれば山脈自体がなくなり、周辺に巨大なクレーターができているだろう。しかし、現に山脈も落下した物体自体もかなり原型を留めている。つまるところ、現状はこれを遺した者たちにとっても不本意で、なんとしてでも回避したい結末だったに違いない。また、少なくとも乗っていた者はこれだけの衝撃を許容できない生態をしていることもわかる。

『その割には地面にスラスター吹かしたような跡が見えないのが謎だな。衝撃でかき消されたのかもしれんが…』

レシーバーを送信モードにしたまま、こちらに話しているのかわからないような口調で呟きつつ、隊長が登ってきた。

かなりの傾斜だがあっという間に軽々と隣にまでやってくる。重力が小さいことを加味しても、普段から現場で慣れていることがよくわかった。

「外からわかるのはこれくらいでしょうかね」

隣に立つ隊長に通信越しで話しかける。


そう言いながらも、頭の中で今わかっていることを整理していった。

まぎれもなく人工物であり、それも宇宙、ほとんど確実に星系外から持ち込まれたものであること。

建造物というよりも艦艇に近く、単独で宇宙空間が航行できる可能性が高いこと。

乗っていたであろう者たちは、恐らく人間とそこまで乖離した存在ではないであろうということ。

『先生もワクワクしてんな?』

ヘルメット越しでも分かるほどの笑みを浮かべながら、隊長はこちらに振り向く。


どうやら隠しきれていなかったらしい。

エルディア時代にもこういった別文明の遺産というものは発見されていた。

小惑星帯に隠れるように配備されていた監視衛星。

星系全体に撒き散らされた、かつては巨大なステーションであったであろう大量のデブリ。

それらもまた、自分たちと異なる技術で異なる歴史を紡ぎ、残してきた存在を知れる魅力的な遺産だ。

しかし、エストライの勢力圏、とりわけ銀河の中心付近ではもっと驚くべきものがたくさん見つかっている。フェルゼンはその最たるものだったが、今回のこの構造物はそれよりすごいかもしれない。


これまでの遺産や遺物の過半数は、ある程度の技術的な一貫性が見られた。そのため同一文明と考えられているが、遺っている痕跡の割に情報が少ない。

いずれも破壊された後の残骸か、重要な部分を意図的に破壊されたものばかりだ。そのことから、「戦争中だったのではないか」という仮説があるが、それすら仮説の範囲を出ない。

いずれにせよ、強大な軍事力と銀河の中心近くから、エルディアのあった外縁部付近の腕までの広い勢力圏を誇っていた文明が忽然と姿を消してしまっている。もしかしたらここにそのヒントがあるかもしれないと考えると、年甲斐もなく興奮を抑えられなかった。


『皆さん、入り口できました〜』

突然ヘルメットの中に声がこだまする。

到着した調査隊は二手に分かれることにしていた。

すなわち外部や地表を調査する地質学者たちと、内部への安全な入り口を確保する保安部員やエンジニアたちだ。

そちらの準備が終わったらしい。

隊長と共に険しい山肌をゆっくりと下っていった。

この構造物…というよりも、艦で一番目を引く巨大なエンジンノズルの近くに隊のメンバーが続々と集まってきている。誰も彼もが興奮冷めやらぬ様子なのが側から見てもよくわかった。もちろん自分も既にそうなっている。

『…こいつが動いてた時はどんな音を出してたんだろうねぇ』

巡洋艦どころか戦艦すらすっぽり収めてしまえる大きさのノズルを見ながら、隊長がふと漏らす。

「…人生で最後に聞く音になりそうですな」

間違いなく轟くであろう、空間ごと揺るがす凄まじい音を思い浮かべた。





どうでもいいお話


ここ最近前書きと後書きを世界観の解説に回していたのですが、久しぶりに作者の自我を出そうと思います。

というのも、話のテンポが現状でいいのか不安がありまして、できれば読者の皆様からご意見をいただきたい所存でございます。


参考までに、現在一話あたりの目安を2000字〜3000字程度としておりまして、内容は話によって濃かったり薄かったりするのですが、概ねワンシーンに収まる形にしているつもりではあります。


もしよろしければご意見やご感想を書いていただければ大変励みになります。


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