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第四十四話 止まらぬ槍

―シラーナル星系 第五惑星 第二衛星軌道付近


海都標準時 9月20日 午後8時50分


最大戦速で突っ込む音無瀬(おとなせ)の艦橋から見える岩だらけの衛星は、どんどんとその姿を大きくしている。

遠くで光を放っている星々を背景に、ちかちかと瞬く小さな赤い光がかすかに見えた。一直線に突入してくる艦隊に臆する様子無く、真正面からぶつかろうとしてくる。

「艦載機型、50を超え、さらに増加中」

正面方向に赤い光点が電子音と共に増え続けるディスプレイに目をくぎ付けにしたまま、電測士が報告した。

声の調子は平坦なままだが、緊張感がぬぐえていない。

「まもなく副砲射程」

戦術長の報告と同時に、艦の側面から覗く丸みを帯びた砲身が機敏な動きで狙いを定めた。

周りを飛ぶように航行する駆逐艦たちの主砲も次々動き始める。


「…頃合いですね。全艦針路そのまま、両舷近接対空戦闘。押し通る!」

タイミングを計っていた艦長は、眼鏡を押し上げて命令を出した。

これだけの数を一挙に出してきたということは、目的は時間稼ぎに他ならない。遠距離からミサイルや主砲を使って撃墜すれば、飛散するデブリの速度は相対的にすさまじいものになる。となると迂回、もしくは減速しなければ艦に少なくない損傷が出るだろう。自分から流星群に突っ込むようなものだ。

本来なら回避機動を取り、遠距離から迎撃するのが定石となっている。大半の宙雷戦隊はそうするだろう。だが、それならすれ違いざまに叩き落せばいい、という結論に至るのが第五流だった。

「了解。全艦、両舷近接戦闘用意」

戦術長の号令に沿って、艦体のあちこちから飛び出している細い砲身が一斉に動き始める。

「偏向幕、艦首最大展開」

それと同時に、艦首の方に透き通った青色の幕が広がった。

固まったまま一直線に突っ込んでくる赤い光点の一つ一つに照準を合わせながら、音無瀬は余ったリソースを割いてシールドと配下の駆逐艦たちを調整する。

陣形は間隔の広がった、舷側方向に薄い楔型だった。もちろん僚艦に流れ弾や撃破したデブリがぶつからないよう、軸線はわざとずらしてある。


「…撃ち方始め!」

お互い全く減速しないまま、軌道が交錯する。

その一瞬前に、戦術長は引き金を引いた。

緑色のビームが雨あられと、細い砲身から噴き出す。負けじと副砲も青い閃光を二本の砲身から交互に迸らせていた。

敵機はその弾幕をかいくぐって果敢に突撃してくるが、鎌に仕込まれた程度の大きさのビーム兵装では、艦の表面に傷をつけることすらできない。

反対に艦載のビーム砲塔は、当たりどころが悪かろうと2発もあたれば確実に機能不全に追い込める。更に一度すれ違ってしまえば、高速性能を追求した海風型なら簡単に振り切れた。

緑色のビームが近づこうとする敵機の鎌を最も容易く吹き飛ばし、副砲の閃光が2匹まとめて消し飛ばす。向きを変えて後方から追い縋ろうとする連中には、置き土産とばかりに後部のVLSが開いてミサイルが放たれた。

かくして音無瀬たちは、一切速度を落とすことなく第二衛星へと向かう。

目標はただ一つ、まだその近くにいるはずの空母型に

引導を渡すことだけだった。


あえなく突破を許した艦載機型を、今度は初春(はつはる)たち第42巡洋戦隊が捉えた。夏空(なつぞら)冬霜(ふゆしも)を吹雪たち第56巡洋戦隊の援護に回し、一個駆逐隊と共に残敵を迎え撃つ。

残敵と言っても数は多い。音無瀬たちがほとんど辻斬りのような格好で陣形のど真ん中を突っ切ったため、取り囲もうと広がった個体が完全に置き去りにされたからだ。

逃した獲物の代わりとばかりにこちらへ向き直る群れをよそに、初春の格納庫では発艦の準備が行われていた。

甲冑型の発艦シークエンスは、航空機型のそれと大きく異なる。発艦というよりも射出という表現の方が近いかもしれない。

両手両足を畳み、艦内の床から見て上下逆さに吊るされた機体は、無人の格納庫から吊られたまま発艦口まで引き出される。

手足を気をつけの形に広げ、逆さのまま発艦用のレールに接続された機体に、それぞれの用途に合わせた武装が持たされた。それは盾であったり、肩に背負う誘導兵器であったり、はたまた大型のビーム機関砲であったり様々で、宙隊ごとにバランスよく配分される。

「第一次攻撃隊、発艦準備完了」

武装が取り付けられたのを確認してから、初春はそう言って艦長の方へ向き直った。

既に護衛の秋月型と共にミサイルを撃ち始めてはいたが、やはり一定数は迎撃され予想より数が減らない。

「わかった。発艦始め」

艦長は一つ頷いてすぐに命令した。

「了解、第一次攻撃隊、全機発艦」

初春が命令を復唱すると同時に、艦艇にある発艦口がハッチのように開く。

それに呼応するかのように、先ほどまで大人しく吊るされたままだった甲冑が目を覚ました。細いバイザーのようなセンサー部分に光が灯り、持たされた武器を握るマニピュレーターに力がこもる。

発艦口が完全に開くと、機体はレールの上を撃ち出されるように一気に加速して、その穴から外へ投げ出された。先ほどまでは頭上に引っ張っていた引力は、外に出た今では足の方に力を加えている。

「…全機発艦完了、主任務を迎撃に設定」

瞼を閉じて、初春が簡単に指示を出す。

その命令の通りに、滑り出した機体たちは盾を構えた2機を先頭に、次々と姿勢を正して紛い物どもを迎え撃ちに加速していった。


オマケ


機体解説


七二式甲冑型汎用攻撃機

全高:5.2m

全幅:1.4m

武装:28mm対空間防御レーザー機銃

  (腕部格納各1丁)

  小型ミサイル発射管

  (脚部各3門)

  オプション武装

  七二式大型防楯

  改六八式機載銛雷(2発まで積載可)

  40mm対空間レーザー機銃

  80mm実体徹甲狙撃銃

  28mm対空間レーザー機銃(携帯型)

  七三式戦鎚


格闘戦に特化した人型艦載機。

高G環境下で長時間戦闘するその特徴から、すべてが無人機として運用されている。

本体に内蔵されている武装は必要最低限であり、戦闘力の大半を外付けの武装に依存することになった。また小型であることから装弾数に厳しい制約があり、特に実体弾を使用する武装を装備した場合継戦能力が著しく低下してしまう。戦鎚というおよそ近代兵器に似つかわしくない武器が開発されたことからも、それが顕著に表れている。

一方で乱戦における戦闘能力に関しては極めて優れており、一度間合に入れさえすれば高い瞬間火力と運動性を存分に発揮できる。

巡航速度は遅いため、航空機型にタンデムという形で前線まで移動する形態が常態化した。

総じて、単体での能力に限界はあるものの、前線母艦となる巡木型や航空機型艦載機との連携によって高い性能を発揮する機体と言えるだろう


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