表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/67

第四十三話 前進

ーシラーナル星系 第五惑星近傍宙域


海都標準時 9月20日 午後8時32分


青白い推進光が暗闇の中で伸びていく。

つい先ほどまで点滅する光に依存し、それゆえに緩慢だった艦隊の動きは、今や滑らかで素早くなっていた。

かくれんぼは終わり、戦いは次の段階へ進み始めている。


吹雪(ふぶき)より第53宙雷戦隊へ。針路そのまま、先行偵察。対空警戒厳となせ」

その指示とほぼ時を同じくして、前方の艦たちのノズルから見える青い光が一層強まった。

潜伏していた大型個体へは、既に弦鐘(つるがね)型を中核とした戦艦部隊が猛撃を加えている。現に星系の内側では、絶え間なく閃光と火球が広がっているのがここからでも見えるほどだ。今のうちに無線封鎖を解除してでも、新型を排除する。というのが現状の作戦になる。

一方で、今でも星系外縁にいるであろう航空戦隊は、全く音沙汰がないままだった。艦載機はきちんと陣形を組んで飛んでくるし、時折後方の駆逐艦を通じて情報共有もしているが、相変わらず通信チャンネルは開こうとしない。


「ここからが正念場だな」

背後のの艦長席から、独り言が聞こえる。

「フルトで不完全燃焼だった分、きっちり返してやりましょう」

安全装置のロックを外しながら、戦術長がそれに答えた。

吹雪も内心で同意する。フルトではいつどこからくるとも知れない敵に対して、終わりの見えない防衛戦を強いられた。普段あまりしないことをすると、予測外のエラーや損傷が出る。だから彼女は待ち伏せよりも強襲の方が性に合っていると思っていた。

それに、敵にみすみす主導権を渡すのはどこかモヤモヤする。言語化が難しいし、合理的ではないけれど、艦長や乗組員の気質がうつったのだろう、と自分で自分を納得させる。


少しずつ前を進む駆逐艦たちとの距離が空いていった。道案内をするように、尾翼だけ色の違う機体に導かれた航宙機隊が速度を上げてガス惑星へ近づいていく。

そろそろ、先ほどの甲冑型航宙機のデッドコピーと接敵した地点だ。

「…第42巡より、交戦したパイロットおよび無人機のデータきました」

通信長がそう言って顔を上げる。

吹雪にもデータが届いた。暗号化を解除し、展開する。

「『敵艦載機型個体は格闘戦志向強し。高速で接近後、近接火力による一点突破を狙う傾向あり』、とのことです」

ディスプレイに表示された情報を通信長は読み上げた。

「…甲冑の模倣か」

戦術長が眉をしかめる。

吹雪も自分の中でデータを確認してみた。

送り主の初春(はつはる)らしく、補足や解析情報は簡潔に淡々と書かれている。確かに大きさも、速度も、基本的な構造も、甲冑型によく似ていた。

ただ、宙隊単位で戦闘し各機が役割を持っている甲冑型とは異なり、単体の戦闘能力に特化しているように見える。


「画像、メインモニターに出します」

そう言って通信長がディスプレイを軽く叩くと、艦橋にいる全員が上の方にあるモニターに目を向けた。

どよめきは上がらない。それでも艦橋の空気が張り詰めたのがわかる。

投影された敵影は、人型に近い骨格を持ちながらも、明らかに異様だった。

鎌状の腕部からは3、4本のチューブのようなものが見える。そこからパルスレーザーに近いものを照射できるらしい。

甲冑型が胴体に推進器を「背負う」構造なら、これは胴体の一部が推進器になっている形だろう。

頭部は細く尖り、一対の目と思しき透明な器官が赤い光を湛えていた。

脚部は細く逆関節で、足としての機能が薄いように見受けられる。

全体的にみて、どこか昆虫を想起させるようなシルエットだった。

「劣化だな」

艦長が小さく呟く。

思わずそちらに振り返った。吹雪の目にはデザイン以外は合理的な設計に思えたからだ。据付の武装に推進器、手持ちに頼らずとも単機で戦える点は優れているように見える。敵としては厄介だが、量産性もありそうだった。

「…合理性を突き詰めすぎて余裕がない。その上、まともな対艦兵装も手薄だ。外付けの武装というのもこの見た目では考えにくい。他にも新種がいるなら話は別だがな」

画像を指しながら指摘する艦長を見て、そこまで怪訝そうな表情をしていただろうかと視線を落とす。

それと同時に納得した。

確かに誘導兵器の類もなければ、小型個体のように、それ自身が武器となるような形もしていない。そもそも体格が違いすぎる。小型個体は十数mの体にありったけの炸薬を詰め込んでいるからこそ、戦艦級にも脅威となりうるだけの貫徹力と炸裂力を持つのだ。

高々5m程度の大きさのものが突っ込んだ程度で堕ちるほど、エストライの艦艇は脆くない。高速航行中の星間塵のほうがまだよっぽど脅威だ。


そう考える吹雪の思考を遮るように、先行中の音無瀬(おとなせ)の声が聞こえた。

「レーダーに感あり!前方上方、11、10方向!」

時を同じくして電測士の声が艦橋へ響く。

『敵機捕捉しました。大元はまだですが、飛来した方向からするに衛星の裏じゃないかな』

わかった、とだけ返す。

音無瀬の報告からはまだまだ余裕が感じられた。本気で切羽詰まっている時は短文しか送ってこない。宙雷戦隊旗艦は指揮下の16隻の面倒を見つつ、自分の照準や回避も計算しないといけないから大変だ。

正面の星系地図に複数の赤点が浮かび上がる。

「距離1.3光秒!超小型です!」

電測士の報告が続く間に、すっかり小さくなっていた前方の宙雷戦隊の推進光が一斉に散らばる。

「数は?」

艦長の声は先ほどまでと変わらず落ち着いていた。

「推定四十以上!」

増え続けるカウント音を他所に、適当なあたりで区切って電測士は答える。

予想よりは多いが、圧倒されるほどではない。と言った数だ。


先ほどの音無瀬の報告を艦橋で共有する前に、今度は初春から指示が来る。

『敵機の相手はこっちがする。53宙雷と共に空母型の排除を』

今度は了解と返事をした。

「艦長、初春から『敵機の相手はこちらがする。宙雷戦隊と共に空母型を排除せよ』だそうです」

声が溢れる前に、そのまま続けて報告する。

「また、音無瀬から空母型は第二衛星の軌道上にいる可能性があるとのことです」

「…わかった。敵機は捨て置き最大戦速にて第二衛星へ向かう。逃げられる前にとどめを刺すぞ」

艦長の命令と同時に、舞雪の艦体がわずかに傾く。

ノズルが閃光を放ち、滑るように一気に加速していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ