ー幕間ー のどかな開花
カデイザについて
元々海皇都のイレカン列島に自生していた樹木。
冬が明けたころに紫色を帯びた深い青色の花をつける。
概ね6m程度の高さまで成長し、三段階目以降の枝分かれした枝は細くやわらかで重力に従って枝垂れる。
海と空をイメージさせる色合いからか、エストライの国民的な花となっている。
―出典:今更聞けない!ネットでよく見る単語全集サイト
―シラーナル星系から遥か4000光年と少し
ナナリ星系 第三惑星 山野都
愛畝区 臨江公園
翠暦9月20日 山都時間 午後3時
今年も見ごろを迎えたカデイザの花が咲き誇り、瑠璃色のトンネルを作り出している。穏やかな風に吹かれて、枝垂れた柔らかな枝がカーテンのように揺れると、その残像を残すかのように花弁が舞い散った。
季節の花というのは不思議なもので、よほどのことがなければ毎年決まった時期に見れるにも関わらず、何回目の花見でも新鮮な気持ちで眺められる。
それが花自身の持つ美しさ故なのか、国民性から来るものなのかは定かではない。現にそういった文化のない惑星の住民の目には、毎年毎年単なる花をありがたがるエストライの人々が異様に映るらしい。一方で一面に広がる深い青の森に感激し、苗木を持って帰ろうとする人もいると小耳に挟んだこともある。
―単純に好みの問題なのかもしれない。
そのカデイザの花弁が一つ肩にはらりと落ちた。
払い落そうかと思ったが、右手を動かしたときにはもう風にさらわれている。意識していなかったが、今日は風が少し強いらしい。
「おーい、こっちだ!」
風になびく枝と、時折旋風にまかれて舞い上がる花びらを眺めながら集合場所へ歩を進めていると、どこか聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
視線をそちらへ向けると、見知った顔が手を振っている。他にも数人の人影がそばにいるのも見えた。地元民はもう集まっているようだ。
「場所取りしてやったんだから感謝しろよ~今日は人が多いからな」
軽く手を挙げて答えてから、足早に近寄ると彼はそんなことを言ってきた。
確かに今日は人が多い、といってもここの普段を知らないので何とも言えないが、混雑しているのは間違い。名所のひとつで交通の便もよく、さらには休日で天候も快晴ときたものだ。むしろ混む理由しかないともいえる。
「ほんと今日が一番見ごろじゃないか?」
わざと視線を並木へ放る。紫のかかった深い青と、空の澄み渡ったような青のコントラストがきれいだった。
「無視かよ…まあ、ある程度目途立ってから招集かけたからな。晴れるかは運だったけど」
今年はツイてる、と彼は笑う。
暫く顔を合わせていなかったが、その笑顔はかつての記憶そのままだった。その懐かしさからか、単につられたのか、こちらも思わず笑みがこぼれた。
「久々でも、晴れ男なのはそのままっぽいな」
隣に立つ旧友に、そう返した。
「だろ?…とりあえず立ち話もアレだし座れよ」
彼が指さした方には、見知った顔が何人かと、知らない顔もちらほらと混じっていた。
敷物の上に胡坐をかく者や、折り畳み式の椅子やベンチを持ち寄っている者など、まるで統一感がない。でもそのバラバラ具合が、普段の画一的な日常からの開放を体現しているような気がした。
促されるままに敷物に腰を下ろすと、丁度正面に居た人と目が合う。多分初対面のはず、少なくとも見覚えはない、と判断して軽く会釈する。相手も少しいぶかしむような目をしたまま頭を下げたため、多分想定は当たりだ。
とりあえず自己紹介からするのが礼儀だろうと口を開きかけた時、目の前に使い捨てのコップが突き出された。
「ほい、飲み物。飯はあの辺にあるから適当に取ってくれ」
初手から出鼻をくじかれた形になったが、ひとまず礼を言う。
「ありがと」
中身は果物系のジュースだった。
惣菜や飲料が雑多に置かれたテーブルには、炭酸飲料と思しき特徴的な容器もいくつか置かれている。それを見るに、自分が炭酸系が苦手なのを覚えてくれていたらしい。
気を取り直して自己紹介をすることにした。
「初めまして、エイメルっていいます。マデロアとは学生時代からの付き合いで、久しぶりに顔を見に来ました」
親指で旧友を指しながら簡単に話す。
端末一台あれば顔を見ながらでも話せはするが、正直こういう機会でもないとわざわざ連絡を取り合わない。少し寂しくはあるが、そういうものだと思う。
相手は数回頷いたあと、同じように紹介し返してくれた。
「よろしくお願いします。マデロアの同僚の、ウリデです」
そう言って頭を下げた。
「あ、そうか。初対面か」
共通の知り合いであるマデロアが口を挟む。
「卒業してからできたお前の知り合いは、多分俺知らないぞ」
至極当然のことをやれやれと言ってみる。
相変わらず誰とでも親しくなれる奴だ。ただの同僚をわざわざ花見に誘ったりはしないだろう。個人的にも仲がいいと見える。
「そりゃそうか…にしても、普通に話すんだな」
マデロアが少し不思議そうに尋ねてきた。
そこまで人見知りと思われているのだろうか、こっちだって仕事柄見ず知らずの人と話すのはなれているはずだが。
こちらが質問の意図をを読み取れていないと思ったのか、彼はこう付け加える。
「ほら、ウリデってこの辺の人じゃないだろ?」
先ほどの質問の意味が腑に落ちた。
要は彼が異星人だから馴染めるか少し不安だったらしい。そんな不安があるなら誘わない方がいいんじゃないか、とも思ったがそれは胸にしまっておく。
「んー仕事でいろんな星の人と会うから、そこまで…」
少し言葉を探す。
新鮮味がないとも違和感がないとも言いにくい。
「…慣れてる」
とりあえずこれでいいだろう。
「あー、そっかお前税関…」
向こうも納得がいったらしい。
銀路が繋がっている星の間の移動は何の問題もない。しかし、やはり貨物船や大規模な移民船なんかの場合は手続きが必要になる。それが俺の仕事だ。
「え、すごい」
ウリデがそう漏らす。
「別にすごくはない」
肩書だけ見れば立派かもしれないが、実際のところは書類の確認と簡単な質問程度だ。それらも検査官が艦をスキャンする間の時間稼ぎに過ぎない。時折記載漏れがあったりするが、その確認と訂正レベルの仕事だ。
一瞬風が強く吹きつけた。
花びらが舞い散り、パラパラとこちらへ降り注ぐ。その一枚が、ちょうどコップの中に入った。
これが焼き物の容器であれば風情もあったろうが、使い捨てコップだと邪魔が勝つ。そっと指でつまみ出して後ろへ弾いて飛ばした。




