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第四十話 撒き餌

ーシラーナル星系 第六惑星軌道


海都標準時 9月20日 午後5時


数隻の駆逐艦を従えて、四隻の巡洋艦が静かに進んでいた。

作戦目標は第三惑星だが、彼らの目的地はそこではない。主星の周りを周回しているこの軌道の主、第六惑星だ。

「先行中の第524駆逐隊より発光打電。…『ポイント、到達、敵対反応、無し』」

艦橋の窓から微かに瞬くその光を、目を凝らして読み取った巡季(めぐき)が報告する。

そもそも信号を読み取っているのは彼女自身の素体ではなく、艦自体の高微細カメラだ。本来なら「目を凝らす」という表現自体が適切ではないかもしれないが、実際そうしているように見えるのだから仕方がない。

「わかった。針路そのまま。多目的投射機、発射準備」

人に見えるが決して人ではない彼女を見て、ふとよぎった思いを脇に押しやって、艦長は号令をかける。

先刻あった作戦開始前のブリーフィングで、星系各所にビーコンを散布する案が採用された。つまるところデコイである。第83巡洋戦隊の偵察では、相手の正確な位置をつかめていない。そんな中有人機を突っ込ませるのは無謀、というよりも効果が薄いことが予想された。長距離の通信が危険である関係上、彩星(いろほし)を使った偵察も難しい。

結果的に、無線封鎖状態の巡洋艦部隊を先行させ、デコイ代わりのビーコンを散布。第六惑星及び第五惑星衛星軌道上に多数撒いた後、ビーコンの起動信号を発信する子機を時限式にセットして中間点で投棄。通信派を感知して発砲した大型個体の位置を強襲する、という手はずになっている。


「投射機スタンバイ……投射はじめ」

予定の位置に到着したことを確認してから、戦術長は引き金を引いた。

艦の後尾にある、舷側を向いた縦長の箱のような構造体。斜めに、艦体に深々と刺さっているように見えるそれの蓋が開く。それから、中に収まっていた正八面体のようなものが投げ出される。本来は探査用だったり、救難用だったりするビーコンは、待機状態のまま宇宙空間を漂い始めた。

「…食いつきますかね」

副長を兼ねる通信長が、座席から振り返りながら艦長にそう漏らす。

当然のことだが、ビーコンの発信する通信波は艦同士の連絡に用いる物とは全く異なる。位置座標とビーコン自身のシリアルナンバーを繰り返すのみで、ほとんど変化がなく一定だ。ビーコンとはそういうものだが、その違いにオルムが気が付くかどうかは実質的に賭けになる。

「…わかりません」

艦長は短くそう答えた。

ここで起きているのは異常事態だ。オルムがどこまでの知能を持っているかに関して、これまでの定説は完全に覆っている。

後続の僚艦と共にビーコンがある程度散らばったのを光学モニターで確認した後、巡季たちは針路を変えた。

「一斉回頭、取舵40。第二戦速から、第三戦速へ」

航海士の号令と共に、艦が滑るように向きを変える。

左手で一段階レバーを前に倒すと、ノズルから伸びる青い光の輝きが強まった。



―巡季たち第41巡洋戦隊から4.2光秒



その艦はどことなく奇妙な形をしていた。

戦艦のようなずっしりとした艦体と、4基もの主砲を持ちながらも、正面から見て左手には艦尾から伸びた飛行甲板のようなものが斜めに引っ付いている。空母と戦艦を足して二で割り、若干バランスを整えたら恐らくこの形にたどり着いたのだろう。

その艦の格納庫では、攻撃機の発艦準備が行われていた。

「各種計器異常なし。点検よし」

コックピットに乗り込んだパイロットが、所定の点検を終えてキャノピーを閉める。

エレベーターへと続く短い通路をゆっくりと自走し、機体は昇降用のエレベーターに乗り込んだ。所定の位置でロックがかかると同時に床がせり上がり、飛行甲板に機体が姿を現す。

エレベーターが止まると、いくつかある滑走路へと続く誘導路の一つに光が灯った。

『ホーリス1、一番カタパルトの使用を許可します』

管制士の声がレシーバーから聞こえてくる。

「ホーリス1、一番カタパルト了解」

それに従い、初速を稼ぐためのカタパルトに前輪をロックする。

すると甲板からから、分厚い板が起き上がってきて後方の視界を遮った。その板を尻目に、機体のエンジンの出力を上げていく。エンジンノズルから噴き出ていた青い炎は、徐々に黄色へと変わっていった。

「…ホーリス1、発艦準備完了」

最後の点検と進路の障害物の確認を済ませ、レシーバーに話しかける。

『了解。ホーリス1、発艦を許可します』

管制士からの返答は早かった。

今回は単独任務であるから当然の話だ。発着艦機が複数いる状況だと、待たされることも少なくない。全通甲板ではない、航空戦艦ともなれば尚更だ。

「ホーリス1、ノチラ・ブランド、発艦」

パイロットがそう言うと、直後に機体が急加速する。甲板の端に近づくと、カタパルトが機体の前輪を離したのが音で分かった。打ち出された機体は勢いそのままに甲板を離れ、艦橋と前部の主砲を横目に二つのガス惑星の間に向かって飛んでいった。



「ホーリス1、発艦完了。データリンク、一時切断します」

艦橋に管制士の声が響く。

艦橋の真ん中に鎮座する星図には、変わらずその機体は映っている。しかし、徐々にその反映が遅れ始めた。異常ではない。レーダーで追う以上、距離が離れるほどタイムラグが生じるからだ。

「警戒態勢、異変を見落とすな」

艦長が少し身を乗り出して命令する。

発射元を突き止めなければ、この作戦の意味がなくなってしまう。

「了解」

電測士は先にディスプレイを整理していた。

エネルギー密度、重力波、光学センサー、もし発砲されれば、そのどれもに反応があるはずだ。

反対に、この艦の主人である伊勢(いせ)は目を閉じる。艦の外側に集中するために、素体からの情報を減らしているのかもしれない。

「ホーリス1、進路変えた。帰投中と思われます」

機体管制用のレーダーを見ながら、管制士が報告した。

十秒ほど経った後、レーダーの画面がにわかに騒がしくなる。ビーコンが作動し、星系全体、あるいはもっと遠くまで発信した通信波を受け取ったからだ。


既に甲五任務部隊の各艦は、フルトで散々飲まされた煮湯をのしを付けて投げつけるために手ぐすね引いて待ち構えている。

龍鳳(りゅうほう)でも、有人機のパイロット達が出番を今か今かと待っていた。


「さあ、撃ってこい」

引き金に指をかけ、伊勢の戦術長はそう呟いた。

オマケ


艦艇解説

門瀬(かどせ)型航宙母戦艦

全長:457m

武装:36cm連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔

   4基8門 (上部前方2基 下部2基)

   垂直ミサイル発射管 計64セル

   (上部と下部に24セルずつ 両舷に各8セルずつ)

   13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔

   3基6門 (右舷2基 左舷1基)

   多目的投射機 12基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 42基

   艦載機搭載数 52機(内補用8機)

   七〇式航空機型統合戦闘雷撃機「柳星(りゅうせい)」2個宙隊合計24機(4機は補用)

   七二式甲冑型汎用攻撃機 2個宙隊合計16機(4機は補用)

   六八式汎用輸送機4機


戦艦と航宙機母艦の双方の特徴を併せ持つ艦艇。正式な艦種としては航宙母戦艦となっているものの、かつての洋上艦艇時代に存在した艦種名からもっぱら「航空戦艦」と呼ばれることが多い。

元々は汎用性に優れた護波型戦艦の特化発展型として開発されたが、度重なる設計変更に伴い別物レベルに変化している。

艦体に所狭しと武装を詰め込んでいるため、居住性は若干劣ってしまっている。ただ、ほぼ全てが無人機であるため、艦体の大きさのわりに乗員数は少ない。



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