表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/46

第三十六話 学ぶもの

――フルト星系 第四惑星軌道


翠暦9月17日 海都時間午後4時57分


眼下に広がる、美しい緑の大地の惑星の陰に隠れて、十数隻の小型艦が息を潜めている。と言ってもその様子を外から窺い知ることはできない。

本来艦体を保護するために使用される偏向防御幕だが、扱い方によっては身を隠す隠れ蓑にもなる。恒星の放つ光や、惑星や衛星の反射光をセンサーで感知し、調律して受け流す。背後の星の光が透けて見えるため、まるでそこには何もいないように見えるわけだ。


「…測敵良し」

前衛を張る宵風(よいかぜ)の艦橋に少女の声が響く。

艦橋の窓から肉眼で見えるのは、豆粒ほどの大きさのガス惑星と、はるか遠くで輝く星々だけだ。しかし彼女の視界には、艦の各所に備えられた高微細カメラや光学センサー、レーダーや重力震ソナーからの情報が統合された光景が映っている。光でも十数秒かかる距離である分、その情報は十数秒前のものだが、それでも十分だった。

宵風自身の観測と僚艦から送られてきた測定データをもとにして、宵風は予測進路を弾き出す。件の蕾を中核とした群れはこちらの存在に全く気が付いていないのか、速度も進路も全く変わらない。狙うには好都合の的だ。

「個体群の予測進路と推定座標を玄弾(くろひき)に転送!急げ!」

艦橋の中心部に浮かぶ星系地図に、新しい光が灯るのを見ると直ぐに、艦長は命令を出す。

我が物顔で闊歩するオルムを前に、ずっと待機していたフラストレーションを、ようやく発散できそうだった。

「了解、玄弾へ座標送ります」

通信士の返事にも心なしか気合が入っている。

「暖機運転は十分でしょう。最大戦速、いつでもいけます」

機関の情報を示すモニターを見ながら、機関長も笑みを浮かべた。

「旗艦律瀬(りつせ)より入電!『艦首砲発射まで残り30秒、注意されたし』!」

通信が入ったことを知らせる通知音が鳴ると直ぐ、通信士が内容を読み上げる。

艦同士の通信の場合、比較的近距離であればほとんどリアルタイムで通信できる。むしろそうでなければ、星系の各所に散らばった艦隊の統制を取ることなんてできないだろう。

直後に律瀬から陣形再編命令が出された。宵風たちを先頭にし、立体的な楔形の陣形を組み始める。


スラスターの作動する音がある程度落ち着いたすぐ後、主星の方で空色の球が次々と花開いていった。間隔をあけてあちらこちらで広がる空色の光を追いかけるように、数本の青い閃光が反射と屈折を繰り返してこちらへ迫ってくる。

緑が広がる惑星にまっすぐ向かっていたオルムの群れも、主星の光とは別の何かが輝いているのに気が付いたのだろう。個体同士の間隔が広がり、護衛するように先導していた小型個体の群れが進路を変えた。

しかし、それは遅すぎた。

宵風たちの眼前をわずかな残像と、偏向傘の残渣のみを残して通過したエネルギー波は、既に拡散を開始している。浅い角度で広がり始めたそれは、群れの中核に対して真正面からまるで散弾銃のように突進した。反射を繰り返した他の閃光は、まったく違う軌道で同じ群れを襲う。

側面から、腹側から。

距離によって多少威力が衰え、さらに拡散したとはいえ、玄弾や黒槌型の艦首砲の威力は折り紙付きだ。並大抵の個体が対処できるものではない。

取り囲むように浴びせられる密度の高い即死級の砲撃の雨。そのうちの一発が、中央の「蕾」を真正面から貫く。外殻をえぐり取られ、中に詰められていた「種」がこぼれ出ていった。その個体が体勢を立て直す前に、今度は上方から降ってきた拡散した陽電子の衝撃波が胴体部分を貫徹する。

固く閉ざされていた外殻が、内部から歪み、弾けた。

全長1kmを優に超える大きさの巨大な生命体が、ゆっくりと崩壊を始める。貫かれた外殻はバラバラになり、内部に格納されていたコロニー化のための繁殖用のコアは、極度の熱と衝撃によってその機能を失う。着陸用の脚も力を失ってぎこちなく固まり、妖しい紅い光も彩度を失くして灰色になっていく。



「…超大型個体の撃沈を確認しました」

高エネルギー波による一時的な光学センサーの乱れが落ち着くと、宵風が静かに目を開く。

既に群れを構築していた個体の大半は生気なきデブリと化している。一部の難を逃れた悪運の強い個体は、少し混乱したように動き回ったものの、すぐに生き残ったイカのような大型個体の下に集まろうと移動し始めた。

やはり大型以上のサイズの個体は、ある程度の指揮能力を有していると言えるだろう。

「残数、大型2、基本15、小型42」

その動き始めた個体の数を電測士が数える。

あれだけいた群れも相当数撃ち減らされていた。しかし、こちらの戦力は軽巡1隻と駆逐16隻。相手がいくら手負いとはいえ、無策で突入するには数の差が大きい。掩護射撃を求めようにも、着弾まで時差がありすぎてそうそう当たるものではないだろう。

「律瀬より入電です!『第84宙雷戦隊全艦へ、陣形そのまま、斜行突入。全艦咄嗟戦闘用意、攻撃目標個別。群れを分断する』」

通信士が通信内容を読み上げると、艦長は不敵に笑った。

数の差があるなら、集まる前に各個撃破してしまえばいい、という意味だろう。どうやら律瀬の方もフラストレーションが溜まっていたらしい。


「針路、律瀬と連動。取舵20、右軸転15。最大戦速へ」

航海長は操舵輪を回しつつ、左手でレバーを倒した。

滑るように、滑らかに艦は加速していく。僅かにロールして、オルムの群れと上下を合わせた。

「VLS、ロック解除。全砲門開け、自動追尾開始」

その間に戦術長が武装の準備をする。

安全のために、普段はロックされているミサイルハッチはいつでも撃ち出せるようになり、幾らか小ぶりな砲身が前方の個体を捉えた。

「律瀬より!『攻撃始め、攻撃始め』!」

通信士のその声と同時に、宵風は近くにいる数体の基本個体に照準を合わせる。同時に、シールドとしての効果を高めるために、ステルス機能を切った。

「照準完了」

「VLS、ハッチ開け。発射弾数4、発射始め。主砲、弾種光束、撃ち方はじめ!」

戦術長の号令に合わせて、上部甲板からミサイルが次々と飛び出していく。一拍置いて、主砲から閃光が放たれた。


そもそも小型艦の存在には全く気が付いていなかったのだろう。いきなり姿を現した宙雷戦隊を前に、後方からの砲撃能力しか持ち合わせていない基本個体は、抵抗さえままならず次々と外殻を叩き割られ沈黙する。

それに比べると機敏な小型個体は果敢に突進を試みる。しかし、統制された大群での強襲であればともかく、完全に分散しきった数十体のヤケクソじみた突進で崩れるほど、駆逐艦の対空間兵装は貧弱ではない。艦の側面に配置されたレーザー砲塔が、一つの生き物のように一斉に動き、透き通った緑色の弾幕を浴びせかける。

次々と外殻を抉られ、へし折られて爆発する小型個体を無視し、宙雷戦隊は残された大型個体へ向かう。

広範囲に面上に展開し、収束式の光弾を警戒しつつ急接近していった。


「…大型個体、後退していきます」

電測士が投影された星系地図を見て報告する。

形成不利を悟ったのか、ジルヨの時と同じく逃亡を試みているようだ。

しかしながらあの時逃げ切れたのは、速力に優れた艦の大半を予測困難な収束砲で戦線離脱させたからである。ただ今回は逆に大型個体の方が手負いであり、こちらは相手の手の内を知った上で、突入と追撃に特化した海風型。

逃がすはずがない。

『全艦統制雷撃用意、外殻の傷跡を狙え』

宵風宛てに律瀬からも命令が入る。

数本触手を失い、尚も懸命に後退する大型個体にトドメを刺すべく、肉薄した。

「照準完了!」

銛雷(せんらい)発射管開け!全門斉射!」

戦術長が引き金を引くと同時に、艦首の固定管だけでなく、甲板上の旋回式の発射管からも一斉に槍が放たれる。

宵風たち8隻から一斉に放たれた槍は、一斉に触手で覆われているはずの内側に突き刺さり、一拍置いて炸裂した。瞬く前に紅い光が失われ、内部から爆発を起こして体が崩壊した。


「…両大型個体の沈黙を確認」

推力と目的地を失った巨体が、徐々に回転しながら崩れていく様を見つつ、宵風はポツリと言った。

もう一体の方もしっかりと律瀬たちが沈めてくれたようだ。

強酸を噴射したり、触腕を振り回したりしたようで損傷艦が出ているらしい。


「…艦隊旗艦玄弾より入電。『侵入した個体の全滅を確認。状況終了、本艦の周りに随時集まれ』だそうです」

ひとまず喫緊の脅威は去った。

しかし、根源を断つにはまだ時間がかかりそうである。

艦橋の外では、崩壊した個体の残骸が、静かに漂っていた。

オマケ


艦艇(?)解説

オルムディア超個体群 超大型個体

全長:1200〜1500m

武装:投射型強酸

個体数:不明



フルト星系にて初めて確認された個体。

おそらくコロニー形成用の入植個体と推定される。

外観としては固く閉じた蕾に8本程度の足を生やしたものがイメージできる。

蕾部分は貯蔵庫となっており、オルムディアにとって生育しやすい環境を整えるための胞子のようなものを抱えている。どうやらその種は熱や衝撃に弱いと見られ、保護のための構造と思われる。

大型であることや護衛が厳重であったことなどから、基本的に個体を使い捨てするオルムディアにおいても、比較的丁重に扱われていると見られている。

また、大型個体(イカ型個体)よりも指揮能力に優れていると思われるが、どちらかというと指揮の中継拠点として機能しているように見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ