第三十三話 嵐の前の喧騒
雷究都について
バーナル星系の第三惑星。
衛星を3つ持つため、潮の満ち引きや気圧変動が大きく複雑である。その影響で天候が安定せず、常に惑星表面の半分以上が雲に覆われ、一部地域では観測開始から現時点まで継続して嵐が発生し続けている。
主要な都市はある程度天候が安定している地域に集中しているものの、それでも他の惑星よりも平均日照時間は短い。
主要な産業は工業であり、同時に気象安定化システムの開発や、常に発生している雷をエネルギー転用する研究が進められている。
ー出典:Spedia.org
―エスト星系から遥か3660光年 バーナル星系 第三惑星
雷究都軌道上物資集積拠点
9月18日 雷都標準時 午前5時14分
いつ見ても半分ほどが雲に覆われた惑星を、挟んで見下ろすように二つのステーションが浮かんでいる。より正確な表現をするのであれば、惑星の周りを公転している。ただし、雷究都の自転速度とほぼ同期しているため、惑星の表面から見れば浮かんでいると言っても間違いではない。
そのステーションの片割れ、無機質で無骨な貨物駅の周りは喧騒に包まれていた。大量の輸送艦とそれを護送するための護衛艦、そうした艦艇を誘導するための先導艇がせわしなく動き回っている。近場の星系の警邏艦も応援に駆り出され、星系を発つ輸送隊と星系に到着した輸送隊の管制に勤めていた。
「第二十七輸送隊全艦、カーゴ接続確認。3号コンベア動かします」
貨物駅の輸送機械を一括で管理する中央コントロール室では、職員がやや緊張した面持ちで職務に当たっていた。
なにせ普段は、ここまでの密度で輸送艦が来ることなんてない。輸送艦とはいえ星間護衛総隊所属の軍用艦艇である。日頃相手にしている商船とはわけが違う。商船相手なら手を抜いてもいいというわけではないが、やはり軍艦となると全く別の緊張感がある。
コントロール室の壁一面には、周辺の路線図や、集積拠点内の配置図が投影されていた。その地図には運行中の列車や構内の輸送車の位置を示す光点が明滅している。
「合金板の在庫は?」
そんなコントロール室の中で、室長が在庫管理の担当者に尋ねる。
ここ数日、銀路にしろ航路にしろ、大量の軍需品が運び込まれていた。それは雷究都に限った話ではなく、みずつぼ座地方にある主要な植民惑星はどこもそうである。一時は倉庫を埋め尽くさんとしていた補修用の部材や火器管制用の電子部品は、昨夜から始まった大輸送に伴いすっかり姿を消していた。
「えっと…残り約4000ですね、この次の便で運びきれるかと」
ディスプレイを軽くたたき、在庫担当が答える。
つまりはこの大仕事もようやく終わりが見えてきていた。予定では5時48分に嶺傘都行きの貨物船が到着する。それまでに航路とドックを開け、積み荷を倉庫から出してこなければならない。
当然ながら軍需品を輸送する際には、民間輸送を止めなければならない。今回の場合、民間輸送が少ない時間帯を選んで一斉に輸送隊を集めている。突然決まった話ではあったものの、これまでも緊急の物資輸送は何度か行われていた。軍に限った話ではなく、惑星規模の災害や、銀路の|双方向量子転送投射システム《量子投射機》の故障で、代行輸送が必要になった場合がそうだ。
ただ今回は何かが違った。
単発輸送ではない、系統だって流れている。各工業都市からの軍需品を集積し、星系基地へ送っていく。以前ワレリアで物流関連の仕事をしていた室長からすると、何か既視感があった。
「…戦争か…」
誰にも聞かれないほどの小さな声で、ぽそりと呟きを漏らす。
戦争の前兆は、必ず物流に現れる。速度は戦艦より遅くとも、動き出しは輸送艦の方が早い。今回の輸送に関しては完全に補修用の部品だ。それだけ大規模な戦闘が予測されているということだろう。
「室長、二十七輸送隊、積み込み終わりました」
オペレーターの声で、ふと我に返る。
輸送艦が、開いていた大口をゆっくりと閉じ始めていた。中には大量の梱包された箱や合金の板が並べられているのがちらりと見える。
「…よし、出発管制につなげ、次入れるぞ」
声は普段と変わらなかった。
ゆっくりと機関が動く音が大きく、高く響く。緩やかに滑り始めた輸送艦は、隊列を崩すことなくドックから出港していった。その奥には、既に次の輸送艦が控えているのが見える。
もうひと踏ん張りと言ったところだ。
ー集積拠点外部
50隻を優に超える艦艇が連なり、同じ目的地を目指す輸送隊の出港を待っている。輸送艦は12隻で一列になり、それがいくつか立体に並んだ陣形を編成していた。
その周りを護衛艦が囲む。今はかなり近くに集まっているものの、一度外宇宙に出るとかなり輸送艦隊との距離をあけて航行するようになる。少しでも遠くで脅威を探知し、少しでも被害を減らせるようにするためだ。星系内では不要な上に、場所をとるのでできるだけ一箇所にまとまるのが暗黙の了見となっている。
「…全艦、出航準備完了しました」
輸送艦隊の旗艦を務める、護衛艦時守の艦橋に声が響いた。
集積拠点から出港した輸送隊が配置につき、機関の出力が安定したのが見て取れる。
「よし、先導艦に連絡。本艦隊はこれよりフォルド星系へ向かう」
通信士から準備ができた旨を聞き取った艦長は、テキパキと指示を飛ばす。護衛艦が滑るように陣形を整え、艦隊全体が緩やかに加速を始めた。
「警邏艦明黄より入電です」
ステーションが小さく見えるようになった頃、時守が静かにそう言った。
「『先導を引き継ぐ、我に続け』だそうですよ」
艦長の方を見ながら、サブフレームはそう続ける。
艦橋の窓からも一隻の小型艦が、滑るようにこちらの進路の前へ出てくるのが見えた。
オマケ
艦艇解説
澪守型護衛艦
全長:138m
武装:13.2cm実体弾兼用広角型連装集束徹甲式陽電子砲塔
3基9門(上部前方1基 後方2基)
垂直ミサイル発射管 計24セル
(上部と下部に12セルずつ)
80cm銛雷発射管 計8門
(四連装旋回式発射管2基8門)
多目的投射機 16基
28mm三連装対空間防御レーザー砲塔 24基
艦載機搭載数6機
(六八式汎用輸送機2機 七一式航宙機型軽戦闘攻撃機4機)
同型艦多数
星間護衛総隊の中核となる護衛任務を行う艦艇。
駆逐艦や警邏艦より一回り大きく、巡視艦よりも小柄。武装に関しては他の護衛総隊艦艇よりは多いものの、国防艦隊の艦ほどは詰め込まれていない。主任務は戦闘ではなく、航路の誘導と安定化である点を考慮に入れればある種当然だと言える。
様々な航路を航行する関係上、汎用性に主眼が置かれており、航宙機運用から多数の偏向傘を用いた防空まで幅広く行える。




