第二十八話 焼け付く砲身
4隻の意味
エストライでは戦隊あるいは駆逐隊は4隻1組で編成される。これ単純に指揮系統を安定させる以外にも、僚艦の被弾時に、迅速に援護に入れる最低限の数というのも関係している。
1隻が被弾し、航行不能に陥った場合、2隻が牽引して、残りの1隻が周辺の警戒及びワープ時の安定性を高める。
2隻が被弾した場合、1隻ずつ牽引してワープすることができる。安定役がいないため、その分衝撃や揺れは大きくなるものの、ワープ自体は可能だ。
3隻あるいは全艦が、航行不能になるほどの損傷を負った場合、救援を待つか、どこかの惑星に降下するしかない。
出典:Spedia.org
-たか座方面 第三警戒ライン フルト星系
「艦首方向右40度に重力震!」
「第47航空戦隊より入電!本艦直下20度にオルム出現しました!」
玄弾の艦橋では忙しなく報告が飛び交っていた。真ん中に鎮座する球状の投影映像には、この星系の様子が立体的に映し出されている。その映像のあちこちで、赤い光が輝いては消え、再び別の場所に現れる。
「…キリがありませんな」
通信長を兼ねる副長が、顎に手を当てながら言った。
第83巡洋戦隊、一澪たちがシラーナル星系から例の情報を持ち帰ってから既に5時間が経過している。直後に出現した、千体を優に超える大群を艦首砲の斉射で撃破してからというもの、オルムの動きに変化が現れた。
要は波状攻撃である。一箇所にまとまってワープアウトすれば、必然的に予兆となる重力震も大きくなる。そうなってしまえばこちらのものだ、準備万端の艦首砲を浴びせかけることができる。しかし、小規模かつ複数方向からのワープアウトの場合、予兆の観測もその後の対応も難しくなる。奴らはそのことに気がついたようだ。
「いくらコロニーがあるとは言え、再生産速度には限りがあるはずです。…転機はきます、必ず」
少しずつ積み重なる乗員の疲労と、弾薬の消耗を勘案しながら、ライゼは発破をかける。
現に既に山場を超えた実感はあった。数時間前までさも当然のように群れに混ざり込んでいた大型個体の姿は既に無く、攻撃の間隔も開きつつある。ここからは根比べだ。
「第53宙雷戦隊より支援砲撃要請。座標、端末に回します」
まだ元気のある通信士の声が響く。
「受け取った。取舵20、底舵10」
手元のディスプレイを数回叩き、航海長が操舵輪を回す。ちょうど正面に浮かんでいた赤茶けた星が動き、少し外れたところに艦首が向いた。
「艦首砲、エネルギー充填開始」
戦術士が操作板を軽く押し、右手で引き金を握る。今日一日で、訓練よりもはるかに多く引き金を引いただろう。最初強張っていたその背中からは、もう緊張がほとんど見えなかった。
「測的よし、照準よし。射線上及びその周辺に友軍なし」
手慣れた様子で玄弾が手順を進める。モニターに映る群れの映像からモヤが消え、群れの中核に画角がピタリと合う。直後に砲撃直前であることを知らせるブザーが鳴り響いた。
「艦首砲、発射」
ライゼの命令に合わせて、艦首がより一層輝きを増す。
「撃ち〜方ぁ始め!」
戦術士が思い切り引き金を引く。直後に放たれた閃光は他の戦艦のそれより遥かに明るく、空間を切り裂きながら進む。そのいく先を見届けることなく、再び艦首が別の方向を向いた。
艦橋の窓の外で眩い閃光が迸る。配下の戦隊は2隻1組でエリアを分担し、甲宙機隊や宙雷戦隊では対処しきれない群れに対して砲撃を行う。さながら砲兵隊だ。第八要撃艦隊本来の戦い方ではないものの、既に十分な活躍をしてくれている。
しかし、徐々に限界が見えつつあった。前線が後退しているわけでも、極端に損耗が増えているわけでもない。見えないところで、少しずつ損傷や故障が重なる。人の疲労も積み重なっていく。第一種戦闘配置の状態でも、長丁場になれば交代で休憩を取ることができる。その間に仮眠を取ったり、軽く体を動かしたりすればある程度の疲労は取れる。しかし、あくまで戦闘中だ。心身ともに摩耗する環境であることに違いはなく、徐々にパフォーマンスは落ちていく。
最前線で戦う駆逐艦なら、尚更だ。
「銛雷残弾数16。主砲身過熱、冷却を」
「これ以上の戦闘継続は…」
「くどい!」
香風の艦橋はまさにそうだった。
あちらこちらから湧き出るオルム個体の群れの対処に追われ、その予兆を知らせる重力震のアラートは絶え間なく鳴り響いている。いつ終わるとも知れない戦いの中で艦の損傷が少ない。それでも弾薬が減り続ける事実は、精神と余裕を着実に削っていく。
「攻撃来ます!」
レーダー員がモニターを睨みつけて叫ぶ。
「っ両舷増速、天舵60!」
航海士はこのままでは被弾する、と多少強引に舵を上げた。急角度で上昇する艦艇部を光弾が潜り抜けていく。
加速しながらの急な操艦。普通の宙雷戦隊の乗組員なら慣れている。第五機動艦隊所属なら尚更だ。ただ、今回ばかりは状況も悪かった。
「どわっ危ねぇだろ!」
戦術長が声を荒げる。どうやら急加速でヘッドレストに強かに頭を打ちつけたらしい。
「直上から小型個体群!」
今度は香風が、大きな声で戦術長に呼びかける。
「チッ、近接対空戦闘!撃ち方始め!」
まだ何か文句を続けようとした戦術長だが、もうそんな余裕は無くなっていた。両舷に装備された対空間レーザーが、雨霰と緑色の光を上向に降らせる。
『清風より香風!カバーする、戦列に戻って!』
後方の僚艦からもサブフレームに通信が届く。先ほどの急な操艦で、少し他の艦から離れてしまった。そのせいで小型個体が集中してしまい、僚艦は誤射を警戒して中々撃てない。
「底舵30、左軸転10!」
それを聞いて、慌てたように航海士が艦を戦列に復帰させようとする。
砲塔はサブフレームが制御しているので、照準が狂うことはそうない。一糸乱れぬ動きで次々と小型個体を撃ち落とす。
それでも全ては落とし切れなかった。
「ダメっ左舷被弾します!」
避け切れない、と香風は周辺の隔壁を閉めにかかる。直後に強い衝撃が艦を揺らした。鋭く尖った円錐状の小型個体が、深々と突き刺さって爆発する。
後ろから援護しに来た清風も、全ては捌き切れず艦尾に被弾してしまった。
「被害状況知らせ!」
艦長の声が響く。
「…左舷対空火器全損、VLS及び銛雷発射管大破!」
即座に香風が報告する。
艦橋を重苦しい空気が包む。遠因を作ってしまった航海士は、逃げ出したい気持ちに駆られた。
「く、玄弾より撤退命令です!旗艦からもきてます!」
その空気を一瞬で払拭したのは、通信士の驚きの声だった。
突然降って湧いた撤退命令に一瞬当惑したが、艦長は思考を切り替えて戦隊旗艦に追従する。
「了解した。清風はどうだ?」
『こちら清風。操舵装置中破、単艦でのワープはちょっと無理かも』
香風宛に清風から通信が入る。自分たちを助けにきてくれたばかりに大怪我をさせてしまったと、香風は申し訳なく感じた。
「曳航するぞ。航海士、艦隊各艦と連動。ワープ準備に入れ」
「了解!」
傷だらけの艦から、オレンジ色のビームが伸びる。駆逐隊の他の僚艦が、清風の後方に陣取って同じようにビームで押し始めた。残りの一隻が香風の前に出て、機関を最大限動かし、ノズルから青い光をより強く放つ。少しでもワープ時の時空間の乱れから、後ろの艦を守るためだ。
それを見届けた後、17隻の艦艇は次々と光の渦潮に吸い込まれていく。
先ほどまであれほど忙しなく、あれほど騒がしかったフルト星系は、ようやくしばしの平穏を取り戻した。数多くのデブリと、不穏な気配を戦いの残渣として残しながら。
オマケ
艦艇解説
海風型駆逐艦
全長:130m
武装:13.2cm実体弾兼用連装集束徹甲式陽電子砲塔
3基6門(上部前方1基 後方1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計36セル
(上部と下部に12セルずつ 両舷に各6セルずつ)
80cm銛雷発射管 計24門
(艦首8門 艦尾4門 連装旋回式発射管3基12門)
多目的投射機 12基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基
艦載機搭載数1機
同型艦多数
駆逐艦の中でも、より雷撃性能に特化した設計の駆逐艦。
主として、第五、第七、第八艦隊に多く配備される。任務上、高速で敵に接近して銛雷を叩き込む、という条件を満たすため機関が大型化し、秋月型や五月雨型と比較して若干シルエットが大きくなっている。
第八要撃艦隊に配備される海風型は、多少設計に変更があり、よりアクティブステルスに優れた能力を持っている。
命名基準は「〇〇風」




