冷たい婚約者の本音
私は彼の言葉に耳を疑った。
(私のことを好き……? 彼が?)
私が彼の方を見つめると、彼はふいっと視線を逸らした。
そして彼が言葉を続けた。
「俺は、お前を守っていたんだ。他の令嬢たちから」
「え……?」
「あいつらは、俺とライラの婚約をよく思っていない反対派の派閥だ。放っておけば、お前に危害が及ぶのは目に見えていた。だから俺は彼女たちに近づいたんだ」
あまりに予想外の出来事に、言葉が出なかった。
「……私のため?」
「ああ、そうだ。そうでもなければ好きでもない相手と一緒にいない」
彼の言葉の意味は分かるものの、頭が追いつかない。
彼は、彼女たちが私に危害を与えないように守っていた……?
「それなのに、お前が毒薬を飲んだと知って……俺は、自分がどれほどお前を追い詰めていたのかと思った」
彼のその言葉に少し胸が痛んだ。
「私を守ってくださっていたのなら、そうと言ってくださればよかったのに! それにルーカス様が冷たい態度を取るから……」
「お前がコンラートと仲良くしているからだ」
「え?」
彼は眉間にしわを寄せた。
「俺が好きでもない令嬢の相手をしている時に、いつもコンラートと笑って過ごしていただろう?」
「そんなこと……」
彼の顔を見ると、やはり真っ赤に染まっていた。
「コンラートは、いい男だ。俺より剣術も身分も上だ。そして何より……お前は俺のことを『ルーカス様』と他人行儀に呼ぶのに、コンラートとは自然に話すじゃないか」
「……!?」
確かに、コンラートといる時はいつも自然体で話している。しかし、以前はルーカス様とも自然に話せていた。彼の態度や振る舞いが、私をそうさせたのだ。
「ですが、先に距離を取ったのは、ルーカス様だと思います」
そう言うと、彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
「……それは、すまなかった」
彼から謝罪されたのは初めてだった。私は思わず驚いた。
「もしかして、ルーカス様はやきもちを焼いていらしたのですか?」
「だから、そう言っているだろう。なんで俺がこんなこと言わなきゃいけないんだ」
「じゃあ言わなきゃいいじゃないですか! 急に好きだとか、やきもちを妬いたとか言われても感情が追い付きません」
彼と話せば話すほど、彼の口から予想もしない言葉が飛び出し、頭が真っ白になってしまう。
「以前のように……」
「はい……?」
「ルーカスと呼んでほしい。そんなかしこまった言葉遣いじゃなく、以前のように自然に接してほしい。」
私は少し考えた後、答えた。
「ええ、わかったわ」
彼はほっとしたような顔をした。
「それで、ルーカスは私との婚約破棄は本当に望んでいないということなのよね?」
「ああ、ライラ以外との結婚なんて考えられない」
彼からの言葉に驚いてしまう。
「まだルーカスの言葉を信じられない。だから、これからは態度で示してほしい。私を好きだということを」
そう言って彼を見つめた。
「ああ、もちろん。信じてもらえるよう尽くすよ」
そして彼は続けた。
「母上や家族には、自殺のことも婚約破棄のことも事実を話していない。だから、俺の気持ちが伝わるまで、婚約破棄の話は保留にしてほしい」
「うん……わかったわ」
そして、私とルーカスの話し合いが終わった。
今日の彼の言葉は本心なのだろう。しかし、どうしても信じられなかった。
冷たい視線の裏には、嫉妬が隠れていた。彼は令嬢たちから私を守ってくれていた。頭では理解できているつもりでも、気持ちが追いつかなかった。




