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第4話:爆走!カッパ・デリバリー 〜元河童、大雨の日に「水を得た魚」となる~

かつて、川辺で相撲を挑み、尻子玉を狙って恐れられた河童も、令和の世では「配達品質クオリティ」と「配達速度スピード」の二重苦に追われるギグワーカーである。

登場人物


川太郎(23):本名・河野 太郎。元河童。デリバリー配達員。頭の「皿」は最新の耐水性ヘルメットで隠している。乾燥に弱く、常に霧吹きを携帯している。


店長(45):人間。デリバリー専門のゴーストレストラン「キッチン・リバーサイド」の主。川太郎の異常なスピードに薄々恐怖を感じている。


注文者の女性(30):マンションの15階に住む。大雨で絶望している最中に、窓の外から現れた川太郎と遭遇す


【本編】


「チッ!また乾燥注意報かよ~これだから都会の夏は嫌なんだ  湿度が50%を切ると、思考がキュウリの漬物みたいになっちまう」


川太郎はスマホの配達アプリを操作しながら、シュシュッと手慣れた手つきで自分の顔に霧吹きをかけた。 

彼の肌は、どれほど高級な化粧水や「ヒアルロン酸配合」のクリームを塗りたくっても、五分も経てば干からびカサついてしまう。

彼のデリバリー用自転車は、一見普通のマウンテンバイクだが実はフレーム内部に高圧ポンプを内蔵した河童専用?の水陸両用の特別仕様(自作)だ。


「川太郎く~ん! 10番の『特製冷やし胡瓜うどん・大盛り』入ったよ!

 注文者はタワマン15階! 大至急らしいから、一秒でも早く届けて!」 


店長の怒鳴り声が飛ぶ…

 「了解~…お~っと!外は雨か~!それもかなりの猛打賞ときた!  ヒャッホ~イ!最高だ~!」


勢いよく店を出た瞬間、空からはバケツをひっくり返したような…

いや、滝壺の裏側に迷い込んだかのような豪雨が叩きつけて来る!

周囲の配達員たちが


 「うわ、最悪だ!今日は事故る前に上がるわ…」


と口々に愚痴をこぼしながら雨宿りを探す中…

川太郎の瞳には野生の、そして湿り気を帯びた歓喜の輝きが戻っていた。


 「ふふふ…フハハハハ!ガハハハハ!これぞ天の恵み妖怪冥利だ! 

  ようやく、俺の『本領』を発揮できる環境が整った!

  東京のコンクリートジャングルが、俺のプールに変わる時間だ!」


川太郎はヘルメットのバイザーをカチリと下ろした。

雨が降れば降るほど、彼の魔力は指数関数的に増幅される。

雨粒がヘルメットの通気口から入り、その奥に潜む「皿」が完全に潤い

限界まで飽和した瞬間、全身の筋肉が爆発的な出力を生み出した。


 「キュウウウッ~!(河童の咆哮)」


自転車のペダルを漕ぐ足は、もはや人間の可動域を超えていた。

水かきがあるかのような力強いストローク?

水溜まりを跳ね飛ばすのではなく、水面との表面張力を利用して滑るように加速していく。


 「到着予定時刻は15分後かぁ~!三分!

  イヤ!この川太郎には、二分半で十分だ!」


川太郎は渋滞で完全に機能停止した目黒通りを冷ややかな目で見ると…

迷わずコースを外れ、増水した「目黒川」の護岸へと向かった。

彼は自転車を肩に担ぐと、ガードレールを華麗なフォームで飛び越え

濁流となった川面へ垂直に着地した。


 「ヒャッハー! 渋滞知らずの高速道路ウォーター・ウェイだ!」


なんと、濁流の中に河太郎は自転車ごと突き刺さり水面を時速80キロで爆走し始めた。

カヌー部のエリートも腰を抜かすほどの超高速移動…

途中、橋の上で雨宿りしていたサラリーマンが


 「あ、あれ!な…何? カ…カッパがチャリで川を走ってる!

  ウ…UMAなのか?…仕事のし過ぎだ…おれ…」


と震える手で取り敢えずスマホ撮影を始めたのだが… 川太郎は巨大な水飛沫スプラッシュの中に消えていった。


 「目的地まであと300メートル…おっと、ここから最短ルートは…

  あの地獄のアスレチック、急勾配の崖か~!」


GPSが示す配達先は、急な崖の上に建つタワーマンション。

通常ルートなら大きく迂回し、信号待ちを三回挟まなければならない。

しかし、今のフルチャージ状態の川太郎に迂回の二文字はない!


 「ショートカットだ!河童流 壁面垂直走法!」


彼は自転車を背負い、雨で泥濘んだ垂直に近い崖を一気に駆け上がった。

普通なら足を取られる泥沼が、彼にとっては最高にグリップの効いている潤いとなるのだ。

驚異的な指の力(かつて数多の尻子玉を抜いてきた伝説の握力)で岩や根を掴み

アッという間にマンションの15階に至り…そのベランダの手すりに到達した。


 "ピンポ~ン!"


 「ハ…はい?…どなたですか?…」

注文した女性が、インターホンのモニターを見て、思わず飲んでいた炭酸水を吹き出してしまった。

そこには、全身から湯気(というか水蒸気)を出し…

目は異様なほど爛々と輝き、汗すらかいていない

(代わりに全身から雨水がナイアガラの滝のように滴っている)

青年が、窓の外に立っていたからだ。


「お届けに上がりました~!10番のキュウリうどんです…

 12分30秒早いですが、麺のコシは最高の状態にしております!」


 「え、あ、はい…と言うか…あなた、ここ何階だと思ってるんですか?

  なんでマ…窓の外にいるんですかぁ…?」


 「イヤぁ~、これも現代の『空中配送ドローン』の一種だと…

  ハイ…思ってくだされば…イイのかな…っと…

  出来るだけの最短ルートを選んだ結果ですので…ハイ…」


川太郎は、チップの代わりに保冷剤(冷凍庫に余っていたもの)を一つ受け取ると

再び窓から雨の夜空へとダイブし濁流の目黒川へと消えていった。


その後、店に戻った川太郎を待っていたのは、同僚の店員もそうだが恐怖に引きつった店長の目だけが

笑っていない笑顔だった。


 「カ…川太郎くん?…君~、このド…土砂降りの雨の中で…

  そのぉ~…1時間で…25件も回ったのかい?

  他の配達員はみんなリタイアしたって言うのに…

  君の売上だけがバグってるんだけど!い…一体どんな裏技を使ったんだよぉ~…?」

 「雨が、僕の背中を押してくれたんですよぉ~!

  それより店長、賄いのキュウリ…一本と言わず、丸ごと一袋もらえますか?

  全身がまだ『水分』を求めてるんです」


川太郎は、ヘルメットの中で再びカサカサに乾き始めた自分の皿を 愛おしく撫でながら

瑞々しいキュウリを豪快に齧った…

現代の東京は、彼にとって致命的なほど乾燥しすぎてはいるがたまに訪れる"天恵(ゲリラ豪雨)"が

ある限りこのデリバリー稼業は、彼にとっての天職なのかもしれない。

【今週の妖怪就職豆知識】

 元河童がデリバリー業界で「レジェンド」と呼ばれるためには以下の対策が不可欠です。

「超強力吸盤付きグローブ」の常用:雨の日のスマホ操作はもちろんビル壁面を自転車を背負って登る 際の命綱となります。

「私は汗をかかない特異体質です」という営業スマイル:実際には周囲の水分を皮膚から全吸収しているだけですが、清潔感をアピールしチップの増額を狙いましょう。

「水路」の徹底的な暗記:地図アプリに載っていない地下水路や排水溝を把握することで、交通ルールに縛られない「真の最短ルート」を構築できます。なお、あまりにスピードを出しすぎて配達先の住民に「カッパの霊を見た」とSNSで拡散されるとエリア出入り禁止になるリスクがある為、配達時は一般人の目に触れないように心掛け茂みや水中を選ぶのがプロの嗜みです。

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