73 アヴェイルの祭り3
「え、それでは団長様は王子妃の従兄弟にあたると………?」
驚いたように尋ねる父ダフマンに、ユーリは静かに頷いて見せる。
「はい。父の姉の娘がエカチェリーナ王子妃です。騎士団に入ったのは自分の意思ですが、縁あって王宮にはよく呼び出されています」
「ユーリはアルフォンス王子の王女様の遊び相手なんです。こう見えて、なかなか面倒見が良いんですよ」
「セドリック、」
唸るように名前を呼ぶとセドリックは「褒めているんだよ」と穏やかに諭す。鬼の騎士団長も、継母の弟であり年長者でもあるセドリックの前では普段の圧は感じない。
それにしても、ユーリと王宮にそんな繋がりがあったとは。以前、国王陛下の病気の話を聞いた際に何か関係を仄めかしていたような気もするが、いかんせんここ数週間は激動だったのではっきりとは覚えていない。
「こうして僕がユーリと話せているのも、ジャンヌさんのお陰なんです」
柔らかな声でそう言うセドリックに、父は目を丸くして私を見た。私自身そんな感謝の言葉を受けると思わなかったので驚く。
「メイドのことを教えてくれたでしょう?」
「あ……イボンヌさんのことですか?」
「はい。イボンヌ・イワノフはバレンタイン公爵家で確かに勤めていました。いつの間に退職したのかは知りませんが、彼女が姉へ酷い虐めをしていたことは裏が取れています」
「………申し訳ない」
ユーリが低い声でそう吐き出したので、セドリックは首を横に振った。しかし、ユーリは苦い顔のままで表情を崩さない。
「誰も気付かなかった。父も俺も、母が一人で抱え込んでいる不安を理解していなかった。それどころか俺は、あの人のことを恨んで、」
被害者面を、と言ったところでユーリは口を噤んだ。私と父は顔を見合わせるも、どんな言葉を掛けたら良いか分からない。公爵家のことは公爵家の事情があり、不躾に意見すべきではないと分かっていた。
メルトンが立ち上がって鶏肉の焼け具合を確認するためにオーブンを開ける。目を閉じたままのクリストフの鼻がピクリと動くのを見た。
「だけど、ユーリは子供だった」
最終的に口を開いたのはセドリックだった。
彼特有の優しい声で諭すように続ける。
「それに、責任があると言うなら僕だって同じだよ。姉が話してくれる近況を疑いもせずに喜んで聞いていた。君のせいじゃない」
ユーリは顔を上げずに、ただ黙って組んだ自分の両手を見ているようだった。彼が継母を憎んでいた過去を私は以前聞いたことがある。安易に他人が供給する食事に手を付けない理由も。
「………本当に申し訳ない。後悔してる」
「十分に気持ちは伝わったさ。姉さんだってユーリを大切に思っていたから、今頃空の上で涙を流してるかもしれないよ」
明るく笑おうとするセドリックの様子が切なくて、私は思わず目元を擦る。関係のない第三者が勝手に貰い泣きするのは失礼だ。
「さぁさぁ、皆さん。焼き上がりましたよ」
良い匂いとともに飴色に焼き上がった大きな鶏が食卓に運び込まれる。私は後ろを向いて立ち上がって、急いでハンカチで涙を拭った。クリストフの歓声を聞きながら席へと戻る。
「まぁ!すごいご馳走ですね、美味しそう!」
素直な感想を述べると、メルトンは嬉しそうに笑顔を見せた。
「喜んでいただけて嬉しいです。こちらのレシピは我が家の秘伝なんですよ!息子たちも好物なので、皆さんのお口に合えば良いのですが……」
「合います!ええ、必ず!」
すでに食い付きそうな勢いで首を縦に振るクリストフに私たちは一同笑った。メルトンが切り分けた鶏肉を皿の載せてくれたものを私は参加者たちへと配る。
心なしか顔色の良いユーリに皿を渡しながら、私はそっとその横顔に話し掛けた。
「たくさん食べてください。メルトンさんのお料理は美味しいので、きっと感動しますよ」
「あぁ、腕前はセドリックたちから聞いてる」
「貴方と同じものを食べられて私も嬉しいです」
正直な気持ちを述べただけだったが、ユーリは驚いたようにこちらを振り返った。私は何かおかしなことを言ったかしら、とその視線を受け止めつつドギマギする。
「いやはや、もう待ちきれません!」
泣き出しそうなクリストフの声を皮切りに、私たちは自分の席に着席して食事を開始した。今日のユーリの行動には色々と疑問を覚える点はあったが、この時は追求するほどでもないと考えていた。




