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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第四章 新しい未来
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71 アヴェイルの祭り1



「いやはや、普段のジャンヌ嬢もお綺麗ですが、今日のお姿も一際お美しい!ヘルゼンくんは惜しいでしょうね、きっと今頃自分の失敗を悔やんでいることでしょう!」


 私はクリストフからの大量のお世辞を笑顔で受け流しながら、キョロキョロと辺りを見渡した。すぐにその視線に気付いたように後ろのセドリックが口を開く。


「ユーリは居ませんよ。大切な予定があるということで、今朝方早くに出掛けました」

「そうですか………」

「むむっ、なにか団長殿にお伝えすることがありましたか?このクリストフでよければ、喜んで伝言を承りますが」


 そう言って胸を叩くから、私は耐えきれず吹き出した。


「大丈夫です。ただ、最近お顔を見ないので元気にされているのかなと思いまして」

「なるほど!それで言いますと非常に元気です!さすがは鬼の騎士団長、リンクス兄弟の件以降は更に厳しく目を光らせて任務にあたってらっしゃいますよ」


 声高らかに言い終えると、急にげっそりした顔になって小声で「良い迷惑です」と言い添える。私はクスクス笑いながら、丸まった背中に励ましの言葉を掛けた。


 アヴェイルの冬祭りは、王都の祭りほどの規模ではないものの賑わいを見せていた。通りを左右から囲うように立ち並ぶ店たちを眺めながら、私たちは進んで行く。父ダフマンは今日、まだ出歩けないハンベルクの祖父母の元を訪問していた。



「ジャンヌ様、あちらに飴屋が……!」

「まぁ、行ってみましょうか」


 私の手を引いて歩き出すメルトンについて行きつつ後ろを振り返ると、クリストフはフラフラと肉の串を売っている店へと吸い寄せられていた。仕方がないのでセドリックに合図を送って、メルトンの後を追う。


 と、飴屋の近くに私は見知った男を見かけた。


「奥様、あれはユーリ様ではないですか?」

「ええ。そのようですね……」


 視線の先で、ユーリは幼い子供を抱いて笑っていた。彼の笑顔自体相当珍しいものなのだが、腕の中で嬉しそうに丸まった子供の存在、また、二人の隣に立った若い女の姿を見て私は言葉が出なかった。フードを被っているけれど、顔立ちが美しいことは分かる。


 抱かれた女の子は、宝石みたいなエメラルドの瞳。


 考えたこともなかったが、何ら不思議ではない。

 ユーリは騎士団長で、公爵家の跡取りなのだ。

 彼が一人で生活していた理由こそ不明だが、もしかするとバレンタイン公爵家には妻と子供が待っていたのかもしれない。


 そんなこと露知らず、私はあまりにも縋りすぎていた。今後は自分で、と決意しながら心のどこかではまだ頼りにしていた。



「団長様は大切な予定があるとセドリックさんも仰っていましたし、ご家庭の事情があったんでしょう。せっかくの祭りの日ですから、私たちに付き添う必要はありませんもの」

「ご挨拶はされないのですか……?」

「はい。今日はご遠慮した方が良いかと」


 ちょうどその時、私たちの後ろを歩いて来ていたセドリックが合流し、これまた遠くの方から私の名前を呼ぶクリストフの声がした。私はもう一度だけ振り返って、幸せそうな三人の姿に別れを告げる。


(良かった。全部余計なお節介だったのね)


 公爵家に戻った彼にはきっと良い料理人が居る。人を信じられなかった孤独な騎士団長はもう過去のものとなったから、何も心配は要らない。


 大丈夫、彼はもう一人じゃない。



「ジャンヌ嬢!いったい何処に行かれていたのですか?この串焼きは一度試してみる価値ありです。二本買ったら一本サービスしてくれるそうなので、とりあえず六本頼んでおきました」

「まぁ!二本も食べられるかしら……?」


 心配そうに目を泳がせるメルトンの前でクリストフはにっこりと笑って「六本は私が食べます」と言った。


 結局、かなりのボリュームを誇る肉を前に私とメルトンは早々に音を上げ、ほとんどをクリストフが食べることになった。一通り店は見て回った後、私たちは仮装した子供たちの行列を楽しみ、再び父の待つ家へと戻った。その後、ユーリたちとすれ違うことはもうなかった。


 ところが。



「いやぁ皆が帰るのを今か今かと待っていたんだよ。団長様が来てくださってね、最近の王都の情報なんかを教えてもらっていたんだ」

「なっ、え………?でも今日は、」

「用事が早く終わったんだ」


 澄ました顔で父の前に座るユーリを見て、立ち尽くす私のそばでメルトンが口を開いた。


「あら、もうご家族は……」

「メルトンさん!」


 私は慌ててメルトンの肩に手を置いて首を横に振る。他人の家庭の事情に踏み込むべきではない。ユーリが今まで私たちに話さなかったということは、彼はプライバシーを重んじるタイプなのだ、きっと。


 目を丸くするメルトンを自分の後ろへと隠して、私は「どうぞごゆっくり」と言い添えた。

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