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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第三章 公爵家の真実
69/82

68 閉幕3



 王都から車で二時間程度。

 私たちは南部の新しい家に到着した。


 ユーリからは事前に向かうべき住所が書かれた紙を預かっていたので、私は何も考えずにそれを運転手に手渡したのだが、辿り着いてみて驚愕した。



「ここって………」


 荷物を受け取る父を横目に開いた口が塞がらない。

 目の前には、何度か訪問した家があったのだ。


「ありがたいことだな。イーサンが騎士団に勤めていた縁でその上司が家を貸してくれるとは。離縁したら私たちは追い出されると思うかい?」

「あ……えっと、どうでしょう」

「部屋に灯りが付いているから、きっと団長様が中にいらっしゃるんだろう。私も礼を伝える必要がある」


 私が何か反応を示す前に、父ダフマンは玄関に向かって歩き出した。すぐにその背中が玄関の向こうへと消える。


 ここは、間違いなくユーリが居たあの場所だ。

 二度ほど訪問したから記憶している。家の周りに生える木の感じや屋根の色、一人で住むには十分だと言っていた彼の家そのもの。


 私は慌てて建物の中へと駆け込む。

 思った通り、そこにはユーリが居た。



「だ、団長様、どういうことですか……!?」

「言っただろう。ちょうど空き家があった」

「ここは貴方の家ですよね!?」


 勢いよくずいっと近付くと、声がうるさかったのかユーリは眉を寄せて顔を背ける。


「俺は家に戻ることになった。君がセドリックに伝えた情報によって長年の誤解が解けたんだ。愚かだと笑ってくれても良いが、」

「そんなことは思っていません。ただ驚いて……」

「もう荷物は運び出したから家は空だ。好きに使ってくれて構わないし、好きなだけ滞在すれば良い」

「いいえ、団長様にはこれ以上迷惑を掛けられません!私たちはハンベルクの祖父母を訪ねます」

「ジャンヌ、」


 突然呼ばれた名前に私は言葉を止めた。

 高圧的ではないのに変に緊張する。


 ユーリは固まったままの私を見下ろして、少し離れた場所に立つ父ダフマンに目をやった。しばらく迷いを見せた後、身体を父の方へと向ける。


「クレモルン男爵、ここで待機してください」

「しかし、娘の話が本当であれば……」

「騎士団からのお願いです。僕たちには大切な国民の生活を守る義務がある。ハンベルク子爵家の住所はヘルゼンにも知られているでしょうから」

「………!」


 父はハッとしたように顔を強張らせた。

 私は黙って経緯を見守る。


 親切心に甘えるべきなのだろうか?

 ユーリ・バレンタインという男に対しては、本当に返し切れないほどの借りが積み重なっていくので、内心気が気ではなかった。隊員の妻、という身分でなくなったら彼だって目を掛けてくれないはず。



「また余計なことを考えているんだろう?」


 ぐるぐると思いを巡らせる私を正面から見据えて、ユーリはわずかに口角を上げる。父の手前、どんな態度を取れば良いか分からない。


「外出は自由ですか……?」

「クリストフかセドリックを見張りに就かせる。何か動きがあったときに備えてだ。出来るだけ単独での行動は控えてほしい」

「では、郵便を一通出してほしいのです」

「郵便?」


 首を傾げるユーリに、私は茶色い封筒を渡した。


 わずか四枚ほどの書類が入った封筒。

 されど、大きな意味を持った封筒。


 手に持ったままで不思議そうな顔をする団長を見て、私は笑顔を浮かべる。二度目の人生の集大成ともいえるこの書類が、次に日の目を見るのが楽しみで。



「商工組合に宛てたものです。一つのとても興味深い噂を調査していただきたく、匿名でお出しすることにしました」

「どんな噂だ?」

「ヘルゼン商会が、人工の毛皮を天然と偽って販売していると聞きました。ロゼリア王国の評判を落とすことにも繋がりかねませんから、慎重に調べていただく必要があります」


 ユーリの向こうで父が息を呑む音がした。

 何か思い当たる節があったのだろう。


 ずっと、考えていた。

 二度目の人生を生きる中で、ずっと。


 アマンダとイーサンの不倫が発覚して、アマンダが私を消し去ろうとしていると分かったときも。ヘルゼン伯爵が父をコケにして無理難題を押し付けようとしているときだって。


(さようなら、お義母様………)


 ペチュニア・ヘルゼンを陥れる手段が欲しかった。どんなかたちでも良いから、あの高笑いを止めて、踏み躙った相手のことを思うきっかけを作りたかった。


 だから、種を蒔いてみたのだ。



「ヘルゼンには、破滅してもらう必要があります」

「最後に悪妻らしい行動をするということか」


 私はユーリの目を見て頷く。

 終わりの時が迫っていることを確信しながら。



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