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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第三章 公爵家の真実
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55 賢い選択



 洋裁店に到着してすぐに、私は電話を借りてセドリックに連絡を入れた。退院したことを伝えたかったし、お見舞いに来てくれた際には出来なかった内容を話して、彼の意見を打診する必要があったのだ。


 セドリックはヘルゼン商会で扱うほど大量の毛皮は仕入れられないと言っていた。ならば、少量であればどうなのか。コリーナ洋裁店で受注する分には問題がないかもしれない。


 電話の向こうでセドリックが唸った。



『うーん、そうですね……要望を聞いてみないと分からないけれど、可能性はある』

「良かったです。コリーナさんはセンスのある方なので、是非とも力になりたくて」

『だけど良いんですか?ヘルゼンを通さなければ、商会の名を売ることには繋がりません。貴女には何のメリットもないでしょう』

「ヘルゼン伯爵には別の毛皮をご紹介しました。夫人は興味があるようだったので、いずれ店に並ぶ日も近いと思います」


 なら良かった、と安心したようなセドリックの声を聞きながら私はペチュニアの行動を想像する。


 彼女が私の思い描く通りの性格だったら、きっともうすでに話は進んでいるはず。ヘルゼンの下請け工場あたりにサンプルが届いて量産体制に入っていてもおかしくない。バッカスがどこまで把握しているのかは疑問だが。


「マホーンさん、一つお願いがあるんです」

『どうしました?』

「これは個人的なことで、依頼するのは申し訳ないんですが……」

『なんでも言ってください。ハンベルク子爵たちにはこちらも世話になっています』

「ありがとうございます」


 私は小声でセドリックに頼み事を伝える。

 その程度でしたら問題ありません、と明るい反応が返ってきたのを聞いて胸を撫で下ろした。


 準備に取り掛からないと、という声と共に電話が切れたので、私はいくらか軽くなった身体で店の売り子たちの元へと向かった。




 ◇◇◇




「あの、ここにあったデザイン画は……?」


 自分が使っていた机の上を指差すと、宝石店の店員たちはおずおずと互いに顔を見合わせる。私は嫌な予感がして息を呑んだ。


 不在にしていた間の話は一通り聞いて、冬らしい温かみのある色合いが人気だと報告も受けた。売り上げはそこまで大きな変化はないものの、コリーナから流れてくる客が多いということも。


 ヘザーやマリーに見てもらったブローチの試作品作りを再開しようとした矢先、見慣れたノートがない。



「お、奥様が……手に取られて………」

「奥様って、ヘルゼン伯爵夫人が……?」


 若い店員は泣き出しそうな顔で頷く。


「あのノートはジャンヌ様のものだとお伝えしたのですが、目を通したいと持って帰ってしまいました……すみません」

「そう。貴女のせいじゃないわ、私がこんな場所に置いていたから、」


 言いながら背を向けて考える。


 ペチュニアは私のやろうとしていることに気付くだろうか。高価で取り扱いの難しさから敬遠されがちな宝石を、気軽なものに変えたいという願いが、どうか彼女に知られませんように。


 ヘルゼン商会がこれまで鼻であしらってきた中流階級以下の国民を、私は顧客として受け入れたいと思っているから。



「宝石の仕入れ業者から連絡はありましたか?」

「あ、はい。小さなサイズでよければ比較的安価に仕入れることが可能だそうです」

「よかった!ありがとうございます」


 私は店員からメモ用紙を受け取って、自分の手帳へと挟み込む。従来のお金のある貴族向けの商品展開では、どうしても対象となる客層に限界がある。かといって、コリーナ洋裁店のように、すべてをオートクチュールにして顧客の要望を叶えることも簡単ではない。


「そういえば、商会の経理補助をしている友人に聞いたのですが………」


 そう言って近付いて来た店員の一人に、私は耳を寄せた。


「最近伯爵夫人の指示で大量の人工毛皮を購入したそうです。会長様を驚かせたいからと、耳には入れないよう注意を受けたらしく」

「あら。ヘルゼン商会が扱うには少し異質ですね?」

「ですよね……おおかた天然物と勘違いしているんじゃないかと心配しているんですが……」

「大丈夫よ、きっと。奥様は賢い方ですもの」


 私は努めて明るい声で返答し、その場を後にした。


 残りの限られた時間で何枚かの必要な書類に目を通して、私はコリーナ洋裁店へと移動した。洋裁店ではまたしても店主は不在だったが、運良くマリーが店番を頼まれていたので、コリーナへの伝言を託けた。



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