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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第8章 紀伊・国獲り編

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第400話 嘉兵衛は、古渡を旅立つ

永禄9年(1566年)12月上旬 尾張国古渡 松下嘉兵衛


予定通り三浦様が駿府からやって来られて、古渡の城を明け渡した。もっとも、領地に関する帳簿等の引継ぎがあるので、全てが終わるのはおそらくまだ10日余りかかるだろうが、それは藤吉郎の弟・小一郎とその配下数名が残って対応するとの事だ。


なお、その三浦様はというと、引継ぎは部下に任せてそのまま京に向かわれるらしい。駿府で何かあったようだが、それは訊ねても教えてくれなかった……。


「殿、お迎えに上がりました」


「安房守、ご苦労である」


そして、俺は今、この古渡の港から堀内安房守が率いる熊野水軍の船に乗って、紀伊に向かって旅立つ。陸路で向かう事も検討したけど、馬に乗っての長旅も中々に疲れるから、少し楽をしようと考えたわけだ。


なお、此度の国替えでは、残留組を除く家臣とその家族、更には和歌山に移住を希望する民たちを乗せるため、沖には入港待ちの船が多数浮かんでいるのが見える。


「では、誰がどの船に乗るかであるが……」


それゆえに、俺は弥八郎を別の船に乗せるように差配しようとした。当然だ、和歌山までの数日間を同じ船の中でクドクド小言を聞かされたら、確実に船酔いしてマズい話になるからだ。


しかし、その願いは叶わない。なんと「そのように言われると思いまして」と、この安房守が先手を打つかのように乗船の割振りを皆の前で発表したのだ。その結果、俺と弥八郎は同じ船に乗る事が決まった。


「いやあ、道中何かと打ち合わせとかもあると思いまして」


「ははは!安房守殿、よく気が付かれましたな!!」


上機嫌な弥八郎は、安房守の肩を二度三度叩いて褒め称えた後、俺の方をチラリと見てぼそりと呟いた。「お休みは終わりましたから、ここからは容赦しませぬぞ」……と。


「ま、待て。一体何を容赦しないと申すのだ……?」


「さて、それは船に乗ってからのお楽しみという事で。それより、安房守殿……そちらの若者はもしかしてご子息かな?」


「あ……いえ、倅ではなくて、前にお話ししました……」


「九鬼右馬允にございます。右少将様、弥八郎殿、以後お見知りおきを」


この男が九鬼嘉隆であるならば……そう思った俺は思い切って訊ねてみた。矢や鉄砲玉をはじき返す鉄張りの船、所謂『鉄甲船』を本当に作る事ができるのかと。


「いやはや、右少将様は人とは違う面白い発想をなされるお方だとお聞きしておりましたが、なるほど……この問いかけも面白いですね。鉄板を表面に張り付けたら……確かに、火矢も村上水軍が使う炮烙玉も、無傷ではじき返すことができるかもしれませぬな」


「じゃあ、作れるのか?」


「そうですね……ただ、船全体を鉄板で覆うと、船全体が重くなりすぎるでしょうな。南蛮船のように大きな帆を張れば、多少はマシになるかもしれませんが……やはり、機動力は通常の安宅船と比べて落ちるかと」


その上で、今言ったことを承知の上で資金も材料もそろえる事ができるのならば、作ること自体は可能であると右馬允は答えたが、機動力がなければ例え遠距離攻撃で沈まなくても、接近戦の標的となるから、乗り込まれてそれでおしまいだ。


ゆえに、この話は例え話とこれにて打ち切りにして、そろそろ出航の時刻という事で俺は弥八郎らと船に乗り込む。


「では、これより出航します」


「よろしく頼む」


俺の答えに安房守が右馬允らに指示を下して、皆が慌しく持ち場に着くと……しばらくしてから船はゆっくりと岸から離れた。古渡の町は視界から遠ざかっていき、入れ替わるように別の船が港に入っていくのが見えたが、それも段々と小さくなっていく。


「さらば、古渡よ」


だから、最後に別れを告げるかのように俺は呟く。桶狭間の戦いの後に与えられたので、およそ6年間の居城であったが、名残は尽きずに……その姿が見えなくなるまでこの場で見届けようとした。


しかし……鬼はそのような贅沢を許してはくれない。


「おやおや、いくさだの京でのお務めとかで碌に居られなかったお城に何の未練があるのやら。そんな暇があるのなら、部屋に戻られて書類をお目通し下さい」


「あ、いや、船で書類を読むと酔うからそれはちょっと……」


「大丈夫です。そう言われると思って、あずさ様より船酔いによく効く薬を頂いております。さあ、参りましょうぞ。時間はたっぷりとありますからな!」


おのれ、あずさ。余計な事を……と心の中で叫びながら連行された先で、俺を出迎えたのは書類の山だった。


「え……これ、全部?」


「あはは、面白い事を言われますな。殿はこれより43万石を治められるのですぞ。領地が増えたら当然、扱う書類も増える。これは一部で、残りは別の部屋に……」


「う、うそ……」


これらの書類は、これから治める紀伊の統治に関するもののようだが、こんな事なら陸路で行けばよかったと俺は心の底から後悔するのだった。


(第8章 紀伊・国獲り編 完 ⇒ 第9章 四国・お遍路巡り編へ続く)

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