第398話 北畠左少将は、飛躍の一手を相談する
永禄9年(1566年)11月中旬 伊勢国霧山御所 北畠具房
先の紀州攻めにおける功績によって、我が北畠家は南伊勢で19万石を治める事になった。父が謀反を起こす前の領地と比べたらまだまだ及ばないが、この調子で頑張ればいずれ全てを取り戻すか、はたまたそれ以上の成果が期待できるだろう。
だから、俺は次の一手を如何に打つべきか家臣たちと相談する。参加者は俺の側近である家城主水、弟の次郎、それと父の代からの重臣である藤方刑部と鳥尾屋石見だ。
「畏れながら、まず当家は紀伊少将様との縁がございますれば、これを利用しない手はないかと」
「そうだな。それは石見の申す通りではあるが、どのようにすればよい。嫁でも貰えばよいのか?」
自分でそう言いながら、実は自信が持てないでいる。師兄に鍛えられたおかげで太っていた体型を改善する事ができたが、気の利いた話の一つもできなければ、女にモテないと那智大社で思い知らされたばかりだ。
何しろ、浅井殿に誘われて一度巫女たちと遊ぶべく大社に行ったのに、いつの間にか皆浅井殿の方に群がって、俺の所には誰一人残らなかったわけで……ああ、思い出しただけで涙が出てきそうだ。でも、おかげで巻き沿いを喰らわずに済んだのは幸いだったけど。
「殿……殿、だ、大丈夫ですから。今度は政略結婚となりますので、気の利いた話ができなくとも逃げられるようなことはあり得ません」
「左様、左様。主水殿の言うとおりです。兄上……あまり大きな声では言えませぬが、気の利いた話ができなくても酒を飲ませて眠らせて、そのままヤっちゃえば、こちらのモノですよ。某はこれで嫁をモノにしましたので」
「だが、次郎。おまえはそういうが……結果としてその嫁に長野の家を追い出されて戻って来たではないか。本当にそれでうまくいったと言えるのか?」
「う……それは……」
「俺はな。それではダメだと思うのだが……」
しかし、これは失言だったようだ。次郎は大泣きして「兄上の馬鹿!」と言って部屋を飛び出して行った。「殿、次郎様はまだ引き摺っているのですから……」と石見がため息交じりの言葉を述べたので、反省するしかなかった。
「そ、それで、話を戻しますが……石見殿。その紀伊少将様には適齢の女性といえば、もしかして今評判のあずさ姫様にございますか?」
「ま、待て。あずさ様は止めておこう。あのような気の強い女の子を押し倒そうとしたら、俺のアレが切り落とされかねないし……」
あの古座で、あずさ様が浅井殿のアレがあまりにも罪作りだから切り落とすと……懐剣を握りしめて襲い掛かったとか掛からなかったとかという噂話は、うちの兵たちの会話から耳にしている。真偽のほどは定かではないが……。
「殿……先程ダメだと申されましたが、次郎様の提案を実行されるおつもりだったのですか……」
「う、うるさい!あ、あくまで、他に方法がなかった時の最終手段だ。勘違いするな!」
あ……そういえば、無理やり女をモノにしようとして、非業な最期を遂げた三好筑前守なる者も居たな。やはり、無理やりは良くないな。仕方ない……侍女を相手に今日も会話の練習に精を出すとしよう。
「もういいですか?さっきから話が前に進まず……そろそろいい加減にしてもらいたいのですが?」
「す、すまぬ、石見。だから、そのように青筋を立てて怒らずとも良いではないか」
「誰が某を怒らせていると……ふぅ、まあいいでしょう。では先に進みますが、そのお相手はあずさ姫ではありませんのでご安心を」
「そうか。それで、相手は誰だ?」
「ご正室、おとわの方様の姪にあたる姫君を紀伊少将様の養女とした上でお迎えするのです。高瀬姫と申されて、齢は14歳と伺っております」
「伺っている?それはつまり、誰かから打診されているという事か?」
「その通りにございます。具体的な名を挙げますると、姫の実父である井伊肥後守様からの提案にございまして」
井伊肥後守殿と言えば、京で俺と共に太守様の御前で褒美を賜っていた方だが……そういえば、あの時娘がどうのこうのという話があったような気がするな。
「ちなみに、石見。その高瀬姫とは美人なのか?」
「殿……最初に申し上げましたが、これは政略結婚にございますれば、殿が気の利いた話ができないからと相手が逃げるような事ができない代わりに、殿も相手が不細工であっても逃げる事ができないのです」
「え……そうなの?」
美人じゃないと嫌だなと思いつつも、石見が再び額に青筋を立てて「受けるのか受けないのかはっきりして下さい!」と迫られたら、首を縦に振るしかなかった。
しかし、どういう女の子なのだろうか。美人な嫁さんが来ることを願って、伊勢神宮にお参りした方が良いのかもしれないな。




