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【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!  作者: 冬華
第7章 京・政争編

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第310話 信長は、吉事を利用して浮上を狙う

永禄8年(1565年)2月中旬 尾張国清洲城 織田信長


昨日、津島代官だった孕石主水が挨拶にきた。何でも、観音寺の町奉行に異動する事になったようだ。


『本来ならば、近江・坂田郡6万石は某が賜る予定だったのですよ。それなのに、その事を知ってあの大蔵が妬んで、わざと浅井に譲ったのです!酷いと思いませぬか!』


顔を真っ赤にして、散々大蔵殿の悪口を言っていた主水の顔を思い出して、つい笑いそうになった。大した活躍もしていないのに、どうして6万石を貰えるのかと訊ねたら、俺が手柄を何も上げていないのに8万石を加増されたから、自分も当然だと思っていたようだ。


しかも、坂田郡を貰えるという話は、観音寺城内の便所掃除を担当している下女の知り合いの従弟の伯母の友達のさらにまた友達から聞いたそうだ。その事を思い出して、今度はこらえきれずに俺は笑う。どうしてそんな与太話を信じられるのかとその大物ぶりに呆れて。


「いや……それでも奴は近江か。それに引き換え俺は……」


今回のご沙汰で、俺は8万石の加増を確かに受けた。だが、それはこの尾張においての事だ。美濃の降伏により前線は遠くなり、それに伴い犬山城の朝比奈様は稲葉山城に入られるという。


主水といい朝比奈様といい、共にこの尾張で戦っていた仲間が前に進む中で、俺一人が置いて行かれる……そんな感覚が恐怖となり、不安を掻き立てる。18万石という身代が俺の終着点になるのではないかと……焦りが芽生える。


しかも、財政難で金平糖は在庫切れだ。代わりにみたらし団子を食べているが、これも市の口添えで、大蔵の店から安く譲って貰ったものだ。何だか何もかもがみじめになって、瞼から汗が流れそうになった。


「殿、申し上げ……って、どうされたのですか!?そのようにお泣きになられて!」


「う、うるさい!暑くて目から汗が流れているだけだ!」


「暑いって……外は大雪ですぞ?」


あ……本当だ。色々と考えているうちに落ち込んでしまって、そんな事にも気づかなかったな……。


「それで、よろしいですか。そろそろ用件を申し上げても?」


「構わぬ!但し、勝三郎。今見た事は他言無用ぞ!」


「承知いたしました。では、早速申し上げますが……去る2月4日、駿府にてお屋形様のご側室・寿の方様が男児をご出産されたとの事」


「であるか」


確かに跡取りが居なかった駿府の御屋形様に男児が生まれた事は今川家にとってこれ以上にない吉事だ。しかし、今の俺は喜べる気分ではなかった。「それがどうした」と勝三郎に言い放ちたいとさえ思える程に。


だが、勝三郎はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか。「これは好機到来ですぞ」と言い出した。


「なんだと?」


「よくよくお考え下さいませ。使者は駿府からの長旅で疲れています。ですので、この清洲で病に倒れてもおかしくはありません。そこで……太守様の心証をよろしくするために、殿がおん自ら観音寺城に知らせるのです。豪勢な祝いの品を持参して」


ちなみに、使者が病に倒れるのは、もちろんこちらがそうなるように工作するわけだが、それは言わぬが花だ。俺も知らぬ顔をして勝三郎に訊ねる。太守様の心証を良くして、何を得ようと欲するべきかと。


「そうですな。多くを望んでは逆に機嫌を損ないかねませぬ。ここは、空席となった津島の代官職を求めるに留めるのがよろしいかと」


代官職は領主と違って、集めた税を我が物にはできないが、商人たちに便宜を図る事で私腹を肥やすことは黙認されているらしい。孕石主水もかなりの蓄財を為したと大橋家の義兄から聞いている。


つまり……これからは恵んでもらったみたらし団子ではなく、金平糖を前のようにたんまり食べる事だって可能になるわけだ。


「しかし、勝三郎。今の話は非常に魅力的な話だが、肝心かなめの祝いの品はどうする?吉兵衛(村井貞勝)もヤケ酒が過ぎて寝込む程に我が家は財政難だ。頼りの大橋家もこれ以上貸したら店がつぶれるというし、ない袖は振れぬぞ」


「そこは市姫様を介して、松下家から敢えて借りましょう」


「敢えて借りると?」


「莫大な借金ができることで、松下家としても我ら織田家が潰れると大きな損失が出ますから、貸し倒れを防ぐために協力を引き出すことも可能になります」


「なるほど。加えて申すならば、早く借金を回収するために、俺の出世を後押ししてくれることもあり得るな」


「御意にございます」


良し!そうとなれば、すぐに行動だ。使者が病になるためのおもてなしは勝三郎に任せる事にして、俺は早速金策のために古渡に向かう。


「しかし、勝三郎。今日は冴えているな」


「あ……いえ、これは」


「誰の入れ知恵だ?」


勝三郎も頭が悪いわけではないが、流石に違和感はぬぐい切れない。だから、もしや竹中半兵衛の見えない左手が回っているのではと疑ったが、勝三郎は武田家の武藤喜兵衛から助言を受けたと話してくれた。


「あの者はかなりの知恵者です。もちろん、武田家の者なので完全に信用するわけには参りませぬが……」


「今回の件は武田にとって利にも損にもならぬか。だから、俺に恩を売って利とする。まあ、それならば信用できるな」


ただ、改めて思うは自前の知恵者が欲しいという事だ。そうだ、近江に行ったら探してみよう。もしかしたら、良き出会いがあるかもしれないし。


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