第249話 嘉兵衛は、城に帰りお仕置きを受ける
永禄4年(1561年)11月中旬 尾張国古渡城 松下嘉兵衛
城に近づくにつれて、その銃声の音は大きくなっていく。耳にする限り、鉄砲の数は1挺や2挺とか生ぬるい話ではなく、少なくとも20挺から30挺といったところか。
「殿……」
「わ、わかっている。土下座だな。まずは門が開くと同時に土下座で……」
ちなみに、すでに頭は丸めている。藤吉郎や慶次郎は止めに入ってくれたが、髪の毛はまた生えてくるが、命は刈り取られたらそれでおしまいだ。惜しむべきではないと強行した。
そして、辞世の句を後続の信長に預けた俺は、先頭に立って城へと向かう。門はやがて開かれた。
「おとわ……」
「遅かったわね、嘉兵衛。それで、その頭はどうしたの?」
「え、えぇ……と、バレている……よね?」
「そうね。衣装箱に女医服とメイド服とチア服がなかったから、遊んできたのよね?それで……その娘がその相手?」
「か、甲斐の守護、た、武田信玄の娘、佐保と申します。父の命により、大蔵様に嫁ぐことになりました。以後、どうか……」
「わかったわ。そんなに怯えなくてもあなたは大丈夫よ。太守様の姪でもあるあなたに危害を加えたりしないから……さあ、こっちにおいで。そこに居たら危ないから」
「は、はい!」
「お、おい、佐保……俺を置いて行かないで……」
しかし、おとわの迫力に負けてしまったのか。佐保は俺を置いて向こうの世界へ行ってしまった。加えて左右に居並ぶおとわの親衛隊は一斉に俺に向けて銃口を向けた。約束通り、慶次郎たちが前に立ちはだかってはくれたが……俺の命は正に風前の灯火だ。
「嘉兵衛……もう一度訊くけど、その頭はどうしたの?」
「いや……浮気を許してもらいたい一心で、頭を丸めました。反省しております」
だけど……おとわはニッコリと笑った後に、「それじゃないのよね」と盾になっている慶次郎たちの間を抜いて俺の足下に鉛玉を撃ってきた。
「うわっ!」
「……もう一度訊くけど、何を反省しているって?」
その時、おとわの後ろに立つ寧々の腕に赤子が抱かれているのが見えた。それが恐らく俺の娘だと理解した瞬間……そういえば、名前をまだ付けていない事を思い出した。加えて、忙しくて届いた手紙に返事をしていなかった事も。
「す、すまない。手紙を貰ったのに放置して、娘の名前さえも決めていなかったな……」
「そうね。ホント、酷い父親。ちなみに、この子の名前は『巴』としたわ。巴御前の巴よ。異議は認めないからね!」
「わかった。俺も巴で良いと思う。それで……あと、どうしたら許してくれる?」
「いつどんな時も、わたしとわたしの子らを何よりも優先すること!側室は増やしてもいいけど、必ずわたしの許可を得てから迎える事!今回のように事後報告は許さないからね!」
今回の管領様にされたように、睡眠薬を飲まされて既成事実を作られたらどうしようもないんじゃないかと……そう思わないでもないが、こちらにおとわの銃口は向けられたままなので「承知した」と答えた。
「それと、閨の担当はわたしが決めるからね!これは正室の役目と心得て文句は言わない事!いいわね?」
「それも了解した。他にはなにかあるか?」
要求はどうやらそれでおしまいのようだ。おとわは銃を下ろして、左右の親衛隊もそれに従う。そして、酒宴の用意ができているからと……俺だけでなく皆にも、広間へ向かうように告げて引き揚げて行った。
「た、助かったのか?」
「お、おそらくは……」
ただ、信長は危険な臭いを察したのだろう。酒宴に参加せず、用事ができたと俺に告げてから清洲城へと旅立っていった。俺も一緒に行きたい所だが、それは許されない。覚悟を決めて、おとわの指示に従う事にした。
なお……酒席の膳には、赤や紫色をしたキノコが浮いているドス黒い味噌汁が用意されていた。
「寧々が皆のためにと用意したお味噌汁よ!お代わりもあるから、遠慮なく食べてね!」
強制的に飲むように命じられた俺たちは、その晩からしばらくの間、誰もが厠を友としたのだった。




