二十九 幸せの帰り道 2
帰りの旅途中で洗濯物が溜まったら、宿屋の人に洗濯場を借りて洗濯をしていた。
今日、泊まる国は魔法国ミシャンル。
レオは各国に着くと冒険者ギルドに行き、自分が所有する『ギルドカード』を見せて、お金をその国の貨幣に変えていた。
カードを見せるのはどうして? と聞いた私に『このギルドカードは身分証にもなる』と。カードにはレオの出身国、討伐履歴、冒険者ランクが記されているとも教えてくれた。
(身分証になるのなら、私もギルドカード欲しい。国に戻ったらレオさんに相談しよう)
たくさんの冒険者が行き交うギルドの中で、レオを待っていると、彼はウキウキして戻ってきた。
「ティー、いまカウンターで話を聞いたんだけど。冒険者ギルド隣の洗濯場で、魔法を使って洗濯できるらしい」
「魔法で、洗濯が出来るのですか?」
「そうみたい、この国でも魔法の洗濯機は冒険者ギルドにしかないんだって。今日はティーの手が荒れなくていいね」
「私だけではありません。毎回、手伝ってくれるレオさんの手もです」
「俺は男だから、手が荒れてもいいの」
詳しくレオに話を聞くと"水と風の魔石"を使用して、洗濯を行うらしい。
「水と風の魔石? よく分かりませんね」
「……モンスターを倒すと取れる、魔石を使うんだ」
二人で首を傾げて、取り敢えずはやってみることになり、宿屋に洗濯物を取りに戻って冒険者ギルド横の洗濯場に戻った。
朝早い時間だからか私たちの他に誰おらず、洗濯場の中はガランとしている。
「レオさん、見て、四角い箱がたくさん並んでいます」
「ほんとうだ。ティー洗濯機に『魔法使い用』と『旅人用』って書いてあるよ」
「あ、本当だわ」
(魔法が使えない、私たちは旅人用になるのかな?)
でも、どうやってこの四角い箱を使うの。辺りを見回すと洗濯場の入り口に『魔法洗濯機の使い方』と書かれた貼り紙がしてあった。
「レオさん、ここに洗濯機の使い方が書いてあります」
「本当だ、なになに? 水の魔石を専用魔石入れにいれて、洗濯物の上に粉石鹸をかける。次に洗濯機の蓋を閉めると、水が出て三十分あいだ洗いと濯ぎをします。濯ぎが終わったら専用魔石入れに風の魔石を入れて蓋をすると、約三十分くらい風乾燥いたします……か。ティー、水と風の魔石、粉石鹸は隣の冒険者ギルドで買えるみたい。ちょっと、行って買ってくる」
「はい、お願いします」
しばらくしてレオは戻ってきたのだけど、彼の後ろには冒険者らしい出立ちをした、赤い髪の綺麗な女性が後ろに着いて来てきた。
「ティー、お待たせ。これが洗濯物を洗う粉石鹸で、この水色の石が水の魔石で、緑色の石が風の魔石だって」
レオはそう言い、二センチ位の小さな色の付いた、石を見せてくれた。
「これが魔石という石ですか?」
「そうだよ」
説明してくれるレオよりも、私は着いてきた赤髪の女性が気になっていた。
「……あの、ところでレオさんの、後ろの方は誰ですか?」
「えっ? ……君は、だ、誰?」
レオに気付いてもらい、女性は微笑む。
「やっと気付いてくれた、私は冒険者のユズって言うの、よろしく!」
彼女はレオの方だけを向いて自己紹介した。
まさかこの女性……レオが素敵だから、冒険者ギルドから着いてきたの。
(そりゃ、レオさんは長身でガタイも良くカッコいい)
これまでにも他国の冒険者ギルドに行けば、冒険者の女性は彼の方に振り返ったり、話しかけられたりしていた。
それは街を歩いても同じ。
「洗濯するの? 私は魔法が使えるから手伝ってあげる」
彼を馴れ馴れしくレオと呼び、タメ口で話す女性。彼女は私に近付き、手に待っていた洗濯物を奪うと勝手に洗濯しようとした。チラッと私を見て、彼女はクスッと見下したかの様に笑った。
「勝手にするのはやめてくれ、君には頼んでない」
「君じゃないわユズ、そう呼んでよ。私の魔法を使えばレオの洗濯が早く終わって。この後、街の中を案内するわ」
人の話を聞かない彼女の行動に、レオは苛立ちを表した。
「結構だ、俺達の洗濯は自分たちで出来る。俺は初めに大丈夫だと断っただろう!」
「自分たち? この田舎臭い子はあなたの荷物持ちじゃないの?」
「ティーは荷物持ちなんかじゃない、俺の大切な嫁さんだ、君のその態度は腹が立つ!」
「えぇ、あなた結婚していたの? それもこの子と……! 嘘よ。Sランクのあなたがこんな子とだなんて、私の方が魔法とか使えるし、夜の役にも立つわ」
クネッと体をしならせて、レオにアピールした。
彼の尻尾が苛立ちを表して、獣人の姿を隠すローブの中でウネウネ動く。
「そんな必要ない、俺にはティーがいればいい!」
自分よりも見劣りする私がいいと言い、全然びかないレオ。彼女はそれでも諦めず、自分の体を更に使いレオの腕に擦り寄ろうとする。
彼はそれを振り払い。
「結構だ! ティー、宿屋で洗濯場を借りて一緒に洗濯しよう。この水と風の魔石はモコの土産にするよ」
洗濯物と私の手を掴んで、洗濯場を出て行く。
「レ、レオさん!」
「待ってよ。私の方がその子より絶対いいって」
「うるさい!」と宿屋に向けて歩き出した。
手を引かれながら戻る宿屋への帰り道、彼を見ればわかる、怒りと尻尾の動き、彼は私のために怒ってくれたんだ。
(……嬉しい)
「ありがとう、レオさん」
「なに、嬉しそうなんだよ。俺のお嫁さんに悪く言うなんて腹が立つ!」
ブンブンと、さらに尻尾を揺らした。
その様子を見て、私は更にレオに引っ付き。
「仕方がないよ、私の旦那様はカッコいいから……」
ちょっとだけ拗ね気味に言ってみたのに。
「えっ、俺がカッコいい?」
その一言で彼の機嫌が一瞬にしてなおる。
いままで怒っていたのに嬉しそうに笑い『ティーが、俺をカッコいいって言ってくれた』と照れている。
「早く宿屋で、洗濯して休もう」
「はい」
私たちはいつも通り宿屋の洗濯場を借りて、石鹸と洗濯板を使い洗濯を始めた。
「魔法で洗うのは楽かもしれないけど、俺はティーと洗濯する方が楽しい」
「私も楽しいよ、レオさん」
洗った洗濯物を部屋に干して、レオは私に『本当は、すぐにでもこの国を出ようと思っだけど』安全を考えて、明日の早朝にしたと教えてくれた。
「ティーに魔法を見せようと思って、この国によったけど……嫌な思いをさせたね」
「私の為にこの国に寄ってくれたの? ありがとう、レオさん……でも、私は魔法が凄いって知っているよ、前にモコさんに傷を治してもらったから」
励ましの詰まりで言ったのに、レオの眉がピクッとうごく。
「あの時か……俺のせいで、ティーに怪我をさせた」
レオの声が小さくなる。
「ごめん、ティー」
(……し、しまった)
あのときの話をするとレオが落ち込んでしまうから、極力しないでいたのに。私の前で大きなレオの耳と尻尾がペタンと垂れて、肩をガックリ落してしまう。
「疲れたし、今日は寝ようか」
と言う、レオを私はギュッと抱きしめた。
「レ、レェ、レオはあのとき私を助けてくれたわ、今日だって、守ってくれたじゃない。ありがとう、レオ」
(元気付けようと、頑張って、レオって呼んでみたのだけど? ……あれっ、腕の中でレオさんが動かない)
見上げると、いつも凛々しいレオがニヘッと、目尻を下げて嬉しそうに笑っている。
「レオか、いいな」
もうレオって、私のこと好きすぎる。
私も負けずに、レオのこと好きだけど。
「ティー、俺をレオって呼び捨てで呼んだ。嬉しい、嬉しすぎる、これから俺をレオって呼んでよ、ティー」
(ええ、そんな可愛顔で言うなんて卑怯)
「……わかった。レオって呼ぶね」
「やった」
笑ったレオが可愛かった。
+
早朝、荷馬車の従者席に座り、地図を広げたレオ。
彼は地図を確認した後、隣に座る私に見せながら地図を指差した。
「ティー、今日はこの道を通り一つ国を越して、大国ビーランまで行こう!」
「わかりました。大国ビーランに行くのなら、お昼は通り道にあるニャーロ街かな?」
「そうだね。出来ればお昼までに行きたいね」
行く場所を決めて、荷馬車を走らせ国の門に近付くと。門近くで、きのう洗濯場で会った、冒険者の女性が立っていた。
彼女は旅支度をしたのか……手に大荷物を持っている。そして荷馬車に乗る私たちを見つけて、笑顔で手を振り、レオ、レオと彼の名前を呼んでこっちにかけてきた。
(えっ、まさか? あの人、私たちに着いてくるつもり?)
門番もこっちに走ってくる彼女を見て「あの方はお連れの方ですか?」と聞いてくる。
レオは首を横に振り。
「いいえ、俺は妻との二人旅です。あの人は他の冒険者の人と、俺たちを間違えているみたいですね」
そう門番に告げて荷馬車を走らせた。まだ声を上げる彼女に見向きもせず、レオは魔法の国の門をくぐる。
とうとう、荷馬車に追いつけなくなった彼女は。
「なんでよ。私も冒険に連れて行ってよ、レオ!」
彼女は昨日では懲りず、私たちの帰り道に参加しようとしていたみたいだ。
全くもって、迷惑な話である。
私は魔法国が見えなくなり、のどかな畑道に差し掛かる頃、レオに話しかけた。
「レオ、あの人……ギルドでレオのギルドカードの内容を聞いて、着いて来ないよね」
「うーん。着いて来られないと思うよ。ギルドには守秘義務があるから、冒険者たちの出身地までは教えられない。もし、そんな事をしたら罰せられたはず」
とレオは言った。




