二十二 アイリスの罪
モコさんの魔法のおかげで、怪我はあまり酷くならなかった。リコの傷もよくなり、お店も直され開店したとレオに聞いた。
あの日から一週間過ぎた。
レオが休みの日のお昼過ぎに、ルフが家に訪ねて来た。私を誘拐、恐喝をした公爵令嬢アイリス・ラータナの罪が確定したと、ルフは伝えにきてくれたのだ。
「こんにちは、レオ、ティーちゃん」
「いらっしゃいませ、ルフさん。いま、お茶をいれますね」
「いらっしゃい、ルフ。キッチンで話そうか」
「そうだな、ティーちゃんにも聞いてもらわないと、いけない話だしな」
テーブルに着いた二人にお茶を出して、私はレオの隣に座った。
それを見てルフは話し出す。
アイリスはこの国の宝ーー森の管理者レオの婚約者に危害を加えたため、彼女の罪は重いと判断されたそうだ。
「アイリスは婚約者に婚約破棄された後。髪をバッサリ切られて、北の山奥の修道院に入れられたよ」
「北の山奥の修道院にですか?」
「ティーは修道院のことを知らないか……貴族の令嬢が修道院に入れられると生涯独身、キビシイ修道院暮らしを送らなければならないんだ」
「え、キビシイ修道院暮らしですか?」
「そっ、アイリスはそこの修道院の下っ端の修道女見習いだとよ。それに周りの修道女達は公爵だったアイリスよりも、位が低いものばかりかもな。その人達にこき使われても文句は言えず、彼女は頭を下げなくちゃならない」
「アイリスには妥当な罰だな」
「でな、その修道院のそばには亜人の里があって。週一で修道院に来るらしいから、アイリスはどのような顔をして応対するんだろうな、ニシシ」
「修道院に来る亜人に手を出せば、アイリスの罪がますます重くなる。国外追放……か、更に上の罪になるかもな」
可愛そうだと思ってしまうけど、痛い目にあったから同情はしない。
「レオ、ティーちゃんはアイリスと二度と会わなくて済むな」
「そうだな。ルフ、話はこれだけか?」
「いや、もう一つある。アイリスの両親ラータナ公爵達はアイリスの婚約者に相当な額のお金を無心していたらしくてな……それを返すため公爵家を売り、田舎の別宅に両親、アイリスの妹、息子と夜逃げのように引っ越したんだと……しばらくしたら、没落するんじゃないかって話だ」
「アイリスのせいで、妹と弟は良い結婚相手に恵まれないだろうな。落ちぶれたら、ますます悲惨になるな」
「仕方がない、レオ……これは罪を起こした者の末路だ。真っ当に生きていれば起こらないことだ」
ルフの言葉にレオは深く頷いた。
罪は罪、起こしてしまったら取り返しがつかない。アイリスはいくら悔やんでも、その罪を生涯背負って生きていかなくてはならない。
話が終わるとルフは仕事に戻ると言い『またな』と王都に帰っていった。
+
それから数ヶ月後の春先、レオは三ヶ月の休みが取れた。
「ティー、いきなりだけど三日後にルース村に行こう」
「三日後ですか?」
私の生まれ育ったルース村に残してきた両親のお墓に、婚約と、結婚の報告しに行くと、夕飯が終わったテーブルに地図を広げた。
「王城の書庫で借りてきたんだ。この地図なら細かく載っているから、ルース村が載っていないか探してみて」
細かく記された初めて見る地図、王城から借りてきたと、地図に北の最北にあるルース村が小さく載っていた。
「レオさん、ありましたここです。ここがルース村です」
「へぇ、ここがティーの生まれた村か……こんな遠い所から、ここまで一人で来たんだね」
「はい……あの時は無我夢中だったから、どれだけ移動したかなんて分からなかったけど。私はこんなに遠くまで来たのですね」
「そうだね。俺の所にお嫁に来てくれたんだ」
「フフッ、そうなりましたね」
移動はレオは人と乗る相乗り馬車が苦手だということで、小さな荷馬車も借りるこたにした。その荷馬車で寝泊まりしながらマント領ルース村を目指すことにした。
「ティー、夜はなるべく街に泊まってゆっくり日中に行こう。お金の心配はいらないからね」
「はい」
地図で確認を終えて二人並んで三日後に出る為の、荷物をまとめていた。
荷物をまとめながらレオは機嫌良く。
「あー、ティーの生まれた村に行く日が、待ち遠しい」
「何もない小さな村ですよ、風景は綺麗ですが……」
荷物をまとめていた手を止めて、レオは首を横に振る。
「俺にとって、そこはティーの両親がいる所だからね。とっても楽しみで緊張する場所だよ」
「楽しみで緊張する場所ですか……私は素敵なレオさんを両親に紹介できる、幸せなところかな」
「幸せのところか……ティー。僕と一緒に幸せになろうね」
「はい、二人で幸せになりましょう」
見つめ合い瞳を閉じると、レオの優しいくちづけが降ってきた。




