二十 拐われたティー
ウェディングドレスの試着が終わり。後には午後に仕事が終わると言っていたレオを、リコの店で待つだけとなった。
時刻は十時過ぎ、リコのお店が開店する。リコの周りの他の店は早朝から出稼ぎに出ていたり、ギルドの依頼を受け冒険に出ていたりと、午後を過ぎだあたりから開くことが多い。
「リコさん、私もお手伝いします」
「あら、ティーちゃん助かるわ。この布を赤い棚にしまって、この花柄は青い棚にしまってね」
「分かりました」
注文の商品を仕立てるリコの指示で、店の奥で布をしまっていた。十一時過ぎチリリンとドアベルが鳴り、店にお客さんがいらっしゃった。
「お客様ね、私、接客に行ってくるから。ティーちゃんは休憩していて。キッチンに置いてあるものはなんでも好きに使っていいからね」
「はい、お茶をもらいます」
「どうぞ。このお客様がお帰りになったら、お昼にしましょうね」
彼女はそう言い残して店に出て行った。私はキッチンでお湯を沸かして、紅茶を二人分と軽く摘めるものを作っていた。
ガシャン!
店側のガラスの割れる音の後『きゃぁー! やっ、あなた達なんですか? やめてください』お客様の対応に出て行ったリコの叫び声があがった。
(リコさん?)
私はすぐさまお茶の準備をやめて店に出た。その私の目に飛び込んできた衝撃に驚くしかなかった。
ショーウィンドウのガラスは割れて、落ちて踏まれた手作りの服たち。そして複数の黒ずくめの男がリコを襲っていたのだ。
こんな真っ昼間に強盗?
「やめてください、リコさんを離して!」
「ティーちゃん、来てはダメ!」
そのリコの私を止める声は、私の耳に届かなかった。
「いたぞ!」
「アイリスお嬢様が連れてこいと、言っていたあいつだ! あの女だ!」
「捕まえろ!」
(アイリスお嬢様?)
男達はリコを離して、今度は私に向かって手を伸ばした。この人たちの狙いは私だ。
「いやっ、離してぇぇ!」
いくら暴れても男の太い腕からは逃れられない、そんな私に黒尽くめの男が近付き。
「田舎娘が、アイリスお嬢様の想い人に手を出すからいけない」
(アイリスお嬢様の想い人?)
「何、あなたは馬鹿な事を言っているの? レオとティーちゃん――二人は番なのよ。愛し合う二人を邪魔しないで!」
「何が番だ! 愛し合うだと? うるさい亜人め、黙れ!」
男はリコに酷い暴言を吐き、彼女の頬を頬を平手打ちした。それでもリコはその男を睨みつけた。
「本当のことよ!」
「番だと愛だと、そんな事はどうでもいい。貴様、殺されたいのか!」
リコが男に胸ぐらを掴まれた、私は必死に手を動かし男を止めようとした。
「やだ、やめて、リコさんに触らないで……リコさんは関係ないわ。着いて行くからリコさんを離して!」
「ケッ! 前に言われなくてもそうするよ。お前は少し眠ってな!」
「……ぐっ、はぁっ!」
私はみぞおちに拳をくらい気絶した。
+
「くそっ、離せ!」
「お願い、お願いだから、ティーちゃんを連れて行かないで!」
リコは男の足にしがみ付いたが、その腕を強引に離され、蹴られた。
「ぐっ」
「気持ち悪い亜人め。邪魔だ、どけ! アイリスお嬢様はコイツだけ連れてくればいいと言っていた、行くぞ!」
「……テ、ティーちゃん」
男達はティーちゃんを連れて店を出て行く。荒らされた店に残されたリコ。彼女は重い体を動かして奥路地にある雑貨屋モコの店に向かった。
開店前の雑貨屋の扉を叩き、店主を呼んだ。
「モコ、いる? もおォォ!」
奥で寛いでいた雑貨屋店主モコは、仲間リコの悲痛な声に慌てて店を開け出てきた。
「ど、どうした? は? リコ?」
頬を赤く腫らして、服は破けてボロボロなリコがいた。これは一大事だとモコはリコに近付いた。
「どうした? また人間にやられたのか?」
「うん、人間にやられた……私、守れなかった……あ、あぁ、ティーちゃんが……あ、アイリスに連れて行かれたの……この事を早く! レオに知らせて」
「あのお嬢様にレオの番が拐われただと、わ、分かった、ちょっと待っていろ」
モコはリコを片手に抱きながら、指笛を"ピィーッ"と鳴らした。その指笛を聞き、小さな動物たちが彼のもとに集まる。
「みんな集まってくれてありがとう。君たちに仕事だ、いま仕事に出ているレオと他の仲間を探して伝えて、ティーちゃんがアイリスに攫われたと! 集合場所は雑貨屋モコの店だ!」
モコの周りに集まった、様々な動物達は鳴き声をあげて、王都の中を走りだした。
「リコ、すぐにレオがここに来る。いま、ヒールをかけるね」
「ありがとう。あんたが頼もしいよ。モコ」
「こういう時に僕の忌々しい力が役立って良かった、ティーちゃんをみんなで助けよう!」
モコが放った動物達は、様々な仲間に声をかけて走った。そして一番に伝えなくてはならないレオの元にも。この時、彼はギルドで受けた特殊雑草集めに屋敷近くの森に来ていた。
「チュ」
「ん、どうした、ああ、モコのお友達のネズミくんか」
ネズミはレオの体を駆け上がり、彼に伝えた。
「チュ、チュチュ」
その内容にレオは毛を逆立て、体は一挙に膨れ上がる。
「僕のティーがアイリスの仲間に拐われた? そして、仲間のリコも怪我をしただと……奴ら、僕の番に手を出すなんて、許せない……グルルルルッ、ガォォォーーン!」
その声は森の木々を揺らし、地響きを引き起こす、獣の声。レオの声は王都の仲間たちにも聞こえた。
「ふうっー……ネズミくん、伝えに来てくれてありがとう。君は僕のたてがみの中で捕まっていて、モコの店に急ごう!」
モコの小さなお友達は店に多くの同志を呼んでいた、その仲間の一人が耳を立てて震え上がり、みんなも口々に言った。
「いま、レオがキレたぞ」
「そんなのあたりまえだ、大切な番が拐われたんだ」
「だけど俺たちではキレたレオを抑えきれない」
その中にいたレオの親友、狼のルフ。
「まあまあ、レオはキレちゃいるが何処か冷静だ。しかし、ことと次第ではアイリスの屋敷を破壊するかもな」
みんなは顔を青くしてそうだなと頷く。たが、大切な嫁が拐われれば俺たちもそうなるさと、ルフは言った。




